第6話 メイドコボルト、人間と会う
ククルの前に飛び出してきた男性は、フォレストファングをあっという間に片付けてしまった。
その男性は、ククルへと近付いてきて手を差し伸べている。
「大丈夫だったかい?」
「は、はい……」
その手を取ろうとしたククルだったが、自分の姿を思い出してはっと手を引っ込めていた。
その様子を見た男性は、にこやかな表情を崩さずにククルを見つめ続けている。
「全身が毛だらけの子ども、獣人の少女と見ていいのかな。そんなたいそうな物を持っているけど、様子を見る限り護身用に持たされたってところだろうかな」
なんということだろうか。男性はククルの姿を見て獣人だと勘違いしたようだった。
そこでククルははっと思い出していた。
獣人という種族の中には、幼少期には獣と姿があまり変わらないこともあるということを。目の前の男性は、ククルの小柄な姿を見て、幼い獣人と勘違いしたようなのだ。
「は、はい、そうなんです!」
この勘違いを聞いたククルは、思わず叫んでしまっていた。
獣人と思ってもらえれば、魔族として見られることはまずないだろう。
「そうか。それにしても、身の丈ほどの剣を持たされて一人でこんな森の中を歩いているとはな。とんでもない主もいたものだな」
「えっと、あ、主……?」
「おや、メイド服を着ているから、どこかに雇われているのだろう?」
「あ……」
ククルは自分の服装を改めて確認している。外套のあちこちから、メイド服が顔をのぞかせていたのだ。
この事実を確認したククルは、笑ってごまかしている。
その笑う姿に、男性もついおかしくて笑ってしまっているようだった。
「えっと、君の名前を聞いてもいいかな。俺は近くの街で冒険者をしているジャックっていうんだ」
「ジャックさんですか。危ないところを助けていただきありがとうございます。私はククルと申します。見ての通り、メイドをしておりまして、ご主人様のご命令で街に買い出しに行くところだったのです」
「そうなのか。それにしても、こんな危険なところを少女一人で歩かせるとは、君のご主人様もずいぶんとおかしなことをするものだ」
「えと、あの、その……。多分、私が獣人だからですよ。えへ、えへへへへ……」
ちょっと苦しい言い訳になったものの、ククルは笑顔でごまかし続けている。
目の前のジャックは、ククルの様子にちょっと違和感を感じたようだが、少女のしっかりとした受け答えにさらりと流してしまっているようだ。
「どうだい。用事が終わったら君が働いている屋敷まで送っていこうと思うんだけど」
「あ、それは大丈夫です。ご主人様が他人を連れてくることを嫌がる方ですので、私一人で戻れます」
「そうか。なら、君のいうことを信じてみることにするよ」
「あ、ありがとうございます」
ジャックが自分の話を信じてくれたようで、ククルはほっとしていた。
「それじゃ、これから用事を済ませるところなら、俺が街まで案内するよ。この辺りはさっきみたいな魔物がたくさん出てくるから、一人は危険だからね」
「は、はい。お、お願い致します」
せっかくの申し出であるために、ククルはジャックにぺこりと深く頭を下げていた。
「それじゃ、とりあえずその大きな剣はしまってくれ。抜いたままじゃ危険だからね」
「そうですね。それじゃしまいます」
ジャックに言われて、ククルは聖剣を背中の鞘へとしまい込んでいた。
ちなみにこの鞘だが、ククルの背中に背負われた時からずっとある。おそらくは聖剣が背負われるにあたって生成したと思われるのである。そのおかげで、ククルのメイド服は破けることなく無事に済んでいるのだった。
こうして、移動する準備ができたククルは、ジャックと一緒に目的地となる街へと歩き出していた。
そんな中、ククルに聖剣が話し掛けてきた。
『主、こっそりと認識阻害を使いますぞ』
「えっ、どういうこと?」
『先程、主が剣を抜いていたことをこの男が認識しているように、現在我が発動している阻害は魔族にしか通用しませぬ。そこで、ここからは人間にも通用する認識阻害を展開するのです。人によっては、我のことを知っているやもしれませんし、聖剣だと知られれば、主は大変なことになりかねませんからな』
「た、確かに……」
聖剣の話を聞いて、ククルはまずいといった表情をしている。
ただでさえ獣人だと言って嘘をついている状態なのだ。本当は魔族のコボルトであり、聖剣も持っているとなれば、人間たちにどんな目に遭わされるか分かったものではない。
そのことを想像したククルは、思わず震え上がってしまう。
「どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと魔物に襲われた時のことを思い出してしまいました。もう、平気です」
「そうですか。もし魔物が襲ってきても、俺が全部退治してやりますから、どうぞ安心して下さい」
「はい、ありがとうございます」
急に話しかけられるも、ククルは機転を利かせてどうにか会話をやり過ごしている。この知能の高さのおかげか、獣人だという嘘が十分通じているようだった。
(どうなることかと思ったけれど、いい人に出会えたようで私は運がいいみたいです)
無事に目的地に着けそうだと安心したククルは、とてもにこやかに微笑んでいた。
こうして、ククルはジャックに連れられて、魔王からの命令で向かうことになった街に無事に到着できたのである。




