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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第53話 メイドコボルトは心配される

 無事におつかいを済ませて、ククルは魔王城へと戻ってくる。

 それにしても、頼まれものの中にあったフォレストシープの毛糸。これのことを魔王はどこで知ったというのだろうか。ククルの中には何かと疑問が浮かび上がってきていた。

 もともと取り扱いがあったとしても、これまではおつかいの項目の中には入っていなかった。ということは……。


(いやいや、そんなわけないわ)


 急に怖くなってきたククルは、全身を震わせて首を左右に激しく振っている。

 いくらなんでも考え過ぎだ。ククルはとにかくそう思うことにした。

 真面目に考えれば考えるほど、魔王のことが怖くなってきてしまう。だからこそ、思考をなるべく逸らそうと必死になっているのだ。


(よしっ)


 頬をバチンと二回ほど叩いたククルは、気を取り直して魔王城への帰り道を急ぐ。

 久しぶりに会ったもう一人の自分との会話が少し弾んでしまったので、帰りの途に就くのが少し遅れてしまったのだ。その遅れを取り戻すために、ククルはとにかく走った。


「ただいま戻りました」


 魔王城に到着したククルは、無事に魔王のところまでやってきた。面倒な魔族とはまったく会うことなく済んだので、少しだけ気が楽なようだった。


「おお、ククル。戻ったか」


 執務をしていた魔王は、ククルのことをずいぶんとにこやかに迎えていた。他の部下に対しても優しい魔王ではあるが、ククルに対してはちょっとばかり様子が違う感じである。

 執務の手を止めて、ククルのところまで歩いてくる。


「荷物を改めさせてもらうぞ」


「は、はい!」


 魔王に声をかけられると、買ってきたものが入っているカバンを魔王へと手渡している。

 ようやく重い荷物から解放されたククルではあるが、目の前で魔王自らの手でチェックが行われているかと思うと、緊張で目が逸らせない。心臓をバクバクといわせながら、荷物を改める魔王の姿をじっと見つめていた。


「ふむ……」


 ようやく内容を確認した魔王が顔を上げている。


「リスト通りの買い物をしてきているな。相変わらず、しっかりと仕事をしてくれる。褒めてつかわすぞ」


「は、はい。身に余る光栄でございます」


 体の前で両手を組み合わせ、魔王から目を逸らさずに返事をしている。


「ふむ。これがフォレストシープの毛糸か。見事な品質のものだな」


 ククルが緊張して見つめる中、ククルの分身であるククールが作ったフォレストシープの毛糸を魔王が見つめている。その瞬間、更なる緊張がククルを襲っていた。

 自分ではないが自分で作った毛糸を吟味されているのだから、それはもうただならぬ緊張である。


「ま、魔王様」


「ん、なにかな?」


 ククルは思わず声をかけてしまう。

 呼びかけに反応して、魔王がククルの方へと視線を向ける。その瞬間、ククルの全身をぞわぞわとした緊張が駆け巡る。しっぽの先っぽが逆立ったままになり、ククルはしまったと思いながら冷や汗を流している。


「い、いえ。そのフォレストシープの毛糸は、なぜ今回リストに入ったのでしょうか。魔王城には、アラクネなどのクモの魔族がいらっしゃいます。糸はその方たちのもので間に合っているはずですから、とても疑問に感じているのです」


 目を泳がせながらも、ククルは魔王にしっかりと質問をしている。声をかけてしまった以上、するしかないのだ。

 ククルからの思わぬ質問に、魔王は何度もまばたきをしている。


「なに、今回はただの気まぐれだ。ククルが気にすることではない」


 魔王はしっかりと直立して、ククルの質問に答えている。他意はない、そういった感じの答えである。


「品質が一定なのはいいのだが、他にも糸があるのなら気になってしまうだろう。欲しくなったから頼んだ。それでいいではないか」


 魔王はククルを諭すように話している。

 あまりにも優しい声だったがために、緊張も相まって、ククルはそれで納得したようである。


 話を終えた魔王は、長旅を終えたククルを休ませるために部屋を退出させる。

 おつかいで買ってきたものを自分の机の上に乗せると、魔王は改めてじっと見つめている。


「ふふっ。さすがコボルトというところか。ずいぶんと勘が鋭いものだな」


 先程のククルとのやり取りを思い出して、魔王は思わず微笑んでしまう。

 それにしても、魔王はずいぶんとククルのことを気にかけているような節がある。

 片や魔族の頂点。片や、真逆の魔族の最底辺。あまりにも立場がかけ離れている。普通の魔族からすれば、ククルの扱いはかなり異常なものに感じるものである。

 もちろん、部下たちの間から不満が漏れ出てきているのは知っている。魔王は、それを自分の権力でもって黙らせているのが現状である。

 とはいえ、いつまでそれが続けられるか、少々ばかり不安に感じるところではある。


「なんとしても、あやつには実績を作ってもらわんとな。このおつかいはそのための一歩にすぎぬ」


 魔王は立ち上がると、おつかいに行かせている街の方向を見ながら呟いている。

 なにやら、他の者には分からない、魔王なりの考えがあるようなのである。


「しかし……、教会か。そんなものに目をつけられては困るな。これは少し突いてみる必要があるか?」


 大きなため息を吐いた魔王は、くるりと振り返ると、そのまま部屋から出ていってしまった。

 一体何を考えているのだろうか。それを知る者は誰もいないのである。

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