第51話 メイドコボルト、通じ合う
迷うことも魔物に襲われることもなく、ククルは無事に街に到着する。
街にはひっきりなしにとは言わないまでもそれなりに人の流れがある。だというのに、完全に魔族の見た目をしているククルは、行きかう人たちからは完全スルーされていた。
(メイド服のせいかしらね。魔族として見られていないんじゃないかしら)
かごを手にぶら下げたククルは、この状況に首をかしげるばかりである。
とはいえ、魔王から頼まれた用事を済ませないといけないので、ククルは街の入口までやってくる。
「やあ、ククル。今日もおつかいかい?」
街に到着すると、門番からもこんな声をかけられてしまう。どれだけククルはこの街に受け入れられたのか、それがよく分かる反応である。
「はい。ご主人様から頼まれまして、遠い道のりをやってまいりました」
「そうかそうか。しかし、遠いとはいえ、こんな幼い子を一人で歩かせるとは感心できないな。一度、意見してみた方がいいぞ」
「ははっ、ありがとうございます。でも、大丈夫です。歩くのは好きですから」
ククルは照れ笑いをしながら答えている。
たった数回しか来ていないとはいえど、やはり、最初にジャックに連れられてきたのがかなり大きく影響しているようだ。
門で軽くチェックを受けたククルは、中へと入っていく。魔王からのおつかいをこなすには、商業ギルドを頼るのが一番だ。
ククルは街の中を、建物の近くに寄りながら歩いていく。真ん中はよく馬車などが行き交うので、危険だから避けているというわけだ。
そうやって商業ギルドまでやってきたククルだが、中に入って思わずぎょっと目を見開いてしまう。
「えっ!?」
「あれれっ?」
お互いに素っ頓狂な声を出してしまう。
そう、商業ギルドの中にいたのはククールだった。
なぜククールがここにいるのかというと、今日はフォレストシープの毛糸を納品しに来たからだった。
とはいえ、自分とばったり顔を合わせると、さすがにびっくりしてしまうというものだ。
「これはククルさん。今日はどんなご用でしょうか」
ククールの相手をしていた受付の女性が、ククルに声をかけている。
急に声をかけられたので、ククールに驚いていたククルは全身の毛を逆立ててまで驚いてしまう。どんだけびっくりしているのだろうか。
「あっ、あっ。あの……。またご主人様からおつかいを頼まれまして……。こちらに書かれているものをご用意いただきたいと思います」
ククルはまだ動揺する心をどうにか落ち着けながら、受付の女性へと、魔王から渡されたメモを差し出している。
メモを受け取った女性は、眼鏡を軽く持ち上げながら目を通していく。
「あら? いつもと同じ内容かと思いましたけれど、一番最後のこれは……?」
何かが引っかかったようなので、受付の女性はククルに質問をしている。
「はい。ご主人様にも確認したのですが、あるはずだからといわれて押し通されたんです。本当にありますでしょうか」
ククルはどう答えていいのか戸惑いながらも、どうにか自分の言葉でしっかりと答えている。こういう機転が利くところは、本当にククルの能力は高いというものだ。
「どれどれ……?」
気になったククールもメモをひょっこりと覗き込む。
一番最後に書かれていた『フォレストシープの毛糸』という項目を見つけて、ククールは露骨なまでに表情が歪む。コボルトではなく獣人となった顔では、それがより分かりやすい。
「いや、なんでこれが入っているの?」
ククールは思わずククルに聞いてしまう。
「そんなことを私に言われても困ります。私はただ、買ってこいと言われただけなんですからね」
ククルはちょっと怒ったような感じで、ククールに対して言い返している。
魔王の専属メイドになったとはいえ、魔王の意図のすべてを理解できるわけがない。いや、そのひとつも理解できる状況ではなかった。だからこそ、ククールへと言い返しているのだ。ククールも自分なのだから、そのくらい分かるでしょというところである。
さすがにこの言い返しを食らっては、ククールも黙るしかなかった。
「一応、フォレストシープの毛糸はございますよ。ククールさん、今日の納品分をそのままククルさんにお売りしても問題はないでしょうかね」
「あっはい。それでも問題ありません」
受付の女性から言われて、ククールは驚きながらもこくりと首を縦に振っている。売れるのであるならば相手は誰でも構わないわけだし、買い手がいるのであるなら断る理由はどこにもないのである。
ククールからの返事を受けて、受付の女性はさっきククールが納品したばかりのフォレストシープの毛糸をカウンターへと取り出した。
「こちらが、フォレストシープの毛糸となります」
目の前に置かれたフォレストシープの毛糸を見て、ククルは目を輝かせている。ひと目見ただけで、その品質の良さが分かったからだ。
ククルは尻尾を左右に振りながら、獣人となった自分の方へと視線を向けている。目で『私が作ったんだよね』と語りかけているのである。
ククールの方もそれが分かったので、無言のまま小さく頷いていた。さすがは本人同士である。目だけで余裕で通じ合っていた。
このままならば、今回のおつかいもあっさり終わってしまいそうである。
だが、それではわざわざここまで来た意味もないだろう。
ククルは、購入品を一度預かってもらい、一度領主の屋敷へと足を運ぶことにしたのだった。




