第48話 メイドコボルト、商業ギルドに赴く
フォレストシープで糸を作り上げたククールは、意気揚々として商業ギルドへとやって来ていた。
だが、やってきたのはいいが混雑している時間だったがために、かなり順番を待たされることになりそうだった。
「うわぁ……。これ、順番が回ってくるまでどのくらいかかるかしら」
『さすがの我も、ここまでの混雑具合は予想しておらなんだな。しかし、魔王城からほど近いこのような場所に、どうしてこれほどの人が集まっているというのだ』
人の多さに困惑しているククールに対し、聖剣はその原因に疑問を抱いたようだった。
だが、現状では並んで順番を待つしかないわけで、ククールはおとなしく列に並んで、自分の順番が回ってくるのを静かに待つことにした。
さすがに一人一人順番に取引をしているとあって、列の進みが半端なく遅い。退屈のあまり、ククールの耳としっぽがだらりと力なく垂れてしまっている。
「うう……。一体いつまで待てばいいのかしら」
『主、とりあえず我慢ですぞ。今日の我らの目的は、主の紡いだ糸の売り込みなのですからな』
「分かっているってばぁ……。はあ、私じゃなきゃ、暴れていそうなくらいの退屈さだわ……」
ククールはとにかく忍耐強く自分の順番が回ってくるのを待っている。
自分でなければ暴れているというのは、もちろん獣人族ではなくコボルト族のことだ。知性の高い獣人族に対し、コボルト族は本当に野性味にあふれている。だから、我慢というのがなかなかできないのだ。
ところが、ククールはそのコボルド族だというのに、獣人族以上に我慢が利くようなのだ。ここまでも散々普通のコボルト族との違いを見せつけてきたククールだったが、またひとつ増えてしまっていた。聖剣も首を捻るくらいの謎である。
そういった忍耐もあってか、ようやくククールは自分の順番が回ってきた。
「大変お待たせしました。これはククールさん。商業ギルドは珍しいですね」
目の前には眼鏡をかけた女性が座っていた。
「はははっ。今日は私が作ったものを見てもらいたかったのでやってきました」
「へえ。冒険者なのに器用なのですね」
「ま、まあ。村にいた頃からいろいろとやってきましたのでね。とりあえず、見てもらってもよろしいでしょうか」
「はい、どうぞ。こちらにお乗せ下さい」
世間話を交えながら、ククールはカウンターの上に自分で作ったフォレストシープの糸を置いていた。
「おや、これは……」
「えっと、先日討伐してきたフォレストシープの毛で糸を作ってみたんです。それで、売るかどうかは分かりませんが、どのくらいの価値があるのか一応見ていただこうと思いましてね」
「なるほどなるほど……」
ククールの説明を受けて、受付の女性は眼鏡を触りながら、いろんな角度から糸を眺めている。
しかし、どうにも自分で判定ができなかったようで、受付の女性は困った顔をしていた。
「どうでしょうか……」
あまりにも反応がよろしくなかったように感じたので、ククールは不安そうな表情をしながら女性に確認をしている。
受付の女性は再び眼鏡を直すと、ククールへと説明をする。
「これは私では判定できませんでしたので、裏で鑑定にかけさせていただこうと思います。問題はございませんでしょうか」
「はい、元からそのつもりで来ています。価格がついたらいいなぁくらいという気持ちですが、ぜひともお願いします」
あまりにも欲のないことをはっきり言うために、受付の女性は思わずぎょっとしてしまう。
ぐいぐいとくるククールの姿に戸惑ったものの、受付として仕事をしなければと我に返っていた。
「承知致しました。では、裏で鑑定にかけさせて頂きます。お待ちの間、こちらの木札を持って空いているお席でお待ち下さい」
「は、はい。どうぞ、よろしくお願いします」
木札を受け取ると、ククールは商業ギルドのロビーで呼ばれるのを待つことにした。
周りは商人ばかりという環境なので、冒険者の姿である自分はかなり浮いている。これならば、領主邸で着させてもらっている服で来ればよかったと、今さらながらに後悔していた。
待つ間、誰かに絡まれるんじゃないかと考えていたものの、冒険者ギルドと違って、商業ギルドはそういうことは皆無だったようだ。明らかに場違いな姿で浮いていたため、誰も相手にしてこなかったのである。
「135番の札をお持ちのお客様。お待たせしました、受付まで来て下さい」
そんな中、ククールが持っている木札の番号が呼ばれる。
「はい、今行きます」
椅子に座っていたククールは立ち上がり、足早に受付へと向かっていく。
カウンターに到着したククールは、木札を差し出す。
「お待たせしました。無事に鑑定が終わりましたよ」
「そ、そうですか。それで、どうでしたでしょうか」
受付の女性に声をかけられて、ククールははやる気持ちで結果を聞きたがっている。
ところが、女性はにこにこと笑顔を見せるだけで、結果を話そうとしなかった。
「ククールさん、申し訳ないですけれど、あちらの扉から奥へとお進みいただけませんか?」
「えっ?」
結果を聞かされないどころか、奥へと向かってくれといわれる始末である。
「ギルドマスターがお話があるそうですので、私からはここまでですね。今、案内役の職員が来ますので、少々お待ち下さい」
まったくもってどういうことなのか分からない。
ともかく、ククールは商業ギルドのギルドマスターに呼ばれてしまったようだ。
一体どういうことなのだろうか。頭真っ白の状態で、ククールは案内を待つことにしたのだった。




