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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第47話 メイドコボルト、糸を作る

 依頼を終えたククールは、領主邸へと戻ってくる。

 聖剣によって気分が落ち込んでいたククールだが、フォレストシープの毛と肉を手に入れたことで、少し気持ちが持ち直していた。


『やけにご機嫌よな、主は』


「誰かさんのせいで落ち込んだからね。こうでもしないとやってられないわ」


『うっ、すまぬ』


 聖剣がのんきなことを言うものだから、ククールははっきりと言い返していた。さすがに魔王討伐の話を出したのは悪手だったと、聖剣も反省しているようである。

 持ち帰ってきた肉を厨房へと預けたククールは、領主邸の使用人に糸紡ぎをできる場所はないかと尋ねている。


「えっ、糸を作るんですか?」


「はい。せっかく毛をもらって帰ってきたので、糸にして服でも作ろうかと思うんです」


「獣人って、そういうことできるんですか?」


「えっ、できないんですか?」


 メイドに驚かれながらも話していると、獣人は糸を作れないと聞かされてショックを受けている。

 ククールは意外と器用なもので、コボルトの集落にいた頃からいろいろとやってきていた。その中には動物の毛から糸を作るということもあったのだ。意外と器用なコボルトなのである。

 メイドの反応には驚かされたものの、どうにかできる場所を聞き出したククールは、早速フォレストシープの毛の加工に入る。

 今日のところは、しっかりと洗った上で乾かすところまでで限界だった。なにせ、もうすっかり暗くなってしまったのだから、これ以上の作業は不可能なのである。


「続きは明日ね」


『主はこういったこともできるのか。コボルドでありながら、本当に器用なものだな』


「まあね。元々は自分たちの抜けた毛を有効活用することから始めてたんだけどね。気が付いたらかなりの腕前になっていたわ」


『本当にコボルトなのか怪しいな』


「コボルトよ、私は」


 話をしていると、聖剣はやたらとククールのことを疑い出していた。間違いなくコボルトの集落で生まれ育ったので、ククールは不機嫌になりながらきっぱりと聖剣に言い返していた。

 この日のククールは、夕食を済ませた後はさっさと休んでいた。さすがにフォレストシープ十体の討伐は重労働だったのだ。

 領主邸の中に用意された自分の部屋で、ククールは熟睡をしている。

 仰向けになって静かに眠るククールの姿を見ながら、聖剣は改めてククールのことを考えていた。


『なにゆえ、我はこのコボルトを主として認識したのであろうか。冷静に考えてみるとよく分からんな』


 ククールは自分の魔法で獣人となっているが、本来は魔王城にいるメイドのコボルトである。

 コボルトは魔族であるがために、聖剣に触れることはできない。だが、ククールはその常識を覆して、聖剣をしっかりと手にしたのである。

 改めて考えてみても、まったくもって理解不能な現象だった。

 今までの聖剣の主は、老若男女を問わなかったが、必ず人間の中から誕生していた。その事実を思い返す限り、魔族であり、最弱種族のひとつであるコボルトが主となったことは、まったくもって聖剣も想定しない事態だったのだ。


『だが、間違いなく、我はこのコボルトと共鳴を起こしていた。なにゆえなのか、まったく理解できぬな……』


 主として選んだ聖剣もいまだもって理由は分からなかった。

 それでも、ククールとの間で共鳴が起きたのは事実。ならば、自分はこのコボルトとともに過ごすしかない。聖剣は疑問を感じながらも、そう割り切るしかなかった。


『……いかんな。我が選んだ主なのだ。主の身を守り、聖剣として、その使命を果たすのみ。余計なことは考えずにおこう……』


 これ以上考えていると、聖剣としての存在意義も揺らぎかねない。いかにしてその使命を果たすか、聖剣はそこだけに集中することにしたのだった。


 翌日、目を覚ましたククールは、いよいよフォレストシープの毛を糸にする作業に取り掛かる。

 ある程度まとまった毛の束を引き伸ばして細くして、それを数本ずつまとめてより合わせていく。こうして、フォレストシープの毛はだんだんと糸へと姿を変えていっていた。


「できたぁっ!」


 フォレストシープ一頭分の毛は、ククールの顔の半分くらいの束ふたつ分へと姿を変えていた。結構の毛量だったようである。


『ほう、これがフォレストシープの糸か。本当に主は器用なものだな』


「えっへん、すごいでしょ。私たちコボルトの毛も、こうやってよく糸に変えてたっけかなぁ。時々来る魔族の商人に売って、結構いい稼ぎになってたのよ」


『なるほど、別に初めてだったわけではないのか』


「まあね」


 聖剣が驚いているために、ククールはとても機嫌がいいようである。

 どんなもんだと、胸を張って自慢しているようである。


「よーし、これを商業ギルドに持ち込んで、査定してもらおうかしらね。これで値段がつくようだったら、しばらくはフォレストシープで稼がせてもらうわ」


『お、おう。張り切るのはいいことだ』


 あまりにも鼻息を荒くするククールに、聖剣もさすがにドン引きしているようだった。どうやらここまでとは思っていなかったようだ。

 とはいえ、今日も糸作りで一日を使いきってしまったので、商業ギルドに向かうのは翌日に持ち越しである。

 このことは残念だったものの、楽しみは後に取っておくものだと、ククールはそれはにこやかに笑っていたのだった。

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