第46話 メイドコボルト、フォレストシープの毛を手に入れる
依頼を受けたククールは、順調にフォレストシープを倒していく。聖剣の扱いにもだいぶ慣れてきたようであり、最初のように勢い余って魔物を真っ二つにすることもなくなった。
「ふぅ、一応依頼数である十体のフォレストシープを討伐できたわね」
目の前には、的確に討伐されたフォレストシープが転がっている。
フォレストシープは全身が有効活用できるために、あまり傷つけないようにと最低限の傷で済むように倒していた。ククールはコボルト族としての勘で、聖剣の力を見極めながらうまく討伐していったのだ。
『主、本当に器用になったものだな』
「まあ、魔王城でメイドをしていられるくらいだもの。このくらいできなきゃ、宝物庫の担当なんて無理だわ」
聖剣が驚いているというのに、ククール本人はいたって落ち着いていた。
あれこれ経験をしたせいか、ずいぶんと余裕が出てきているようである。
『だが、こんな芸当、相当の手練れでもない限り無理ぞ。ここまできれいに狩れるなんて分かれば、主はさらに昇級してしまうだろうな』
「昇級かぁ。より高度な依頼を受けられるようになるってことになるわよね?」
『まあ、そうだな。難易度の高い依頼が受けられればそれだけ危険度は増すが、報酬も同じように増えていくぞ』
「お金がたくさんもらえれば、弟や妹たちを楽させてあげられそうね。そうなると、昇級が楽しみになってくるわ」
聖剣の話を聞いたククールは、お金が増えることにとても喜んでいるようだった。
ところが、そんなうきうきとした気分は、聖剣からのひと言でどん底へと叩き落とされることになる。
『何をのんきなことを言っておるのだ。あんまりに昇級しすぎると、それこそ魔王討伐の命令だって出る可能性があるのだぞ?』
「え……」
ククールは思わず沈黙してしまう。
腕の立つ冒険者の宿命ともいえるものである。
「うそでしょ……?」
『これが本当なのだよな。過去の我の使い手の中には、剣の腕前を買われて魔王討伐を言い渡され、その中で我と出会ったという者ものいるのだ。我が先か後かというのは結構あるのだよ』
聖剣から聞かされた過去話に、ククールは表情を青ざめさせてしまう。
さすがに魔族であるククールに、魔王を攻撃できるわけがない。魔王討伐なんて依頼はノーサンキューなのだ。
「そんなの願い下げよ。せっかく治癒魔法のことを黙ってもらって教会を遠ざけようとしたのに、そっちの方向からも私を追い込もうとするわけ? なんなのよ、もう……」
聖剣を地面に突き刺すと、ククールは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。どういう方向で進めようと、自分と魔王が敵対する状況を迎えてしまうとなれば、魔族ならば誰だってこうなってしまうのだ。
『主の気持ちはよく分かる。だが、これが現実というものなのだよ……』
聖剣は実に冷めていた。
「あー、もうっ!」
ククールの方はもうやけくそである。
「こうなったら、昇級しないように依頼の難易度は低め低めで行くわ。私は、平穏に過ごせることが一番なの。これ以上の面倒なんか、絶対抱えないんだから!」
立ち上がったククールは、心の叫びを思いっきり声に出していた。
むなしくこだました声が聞こえなくなると、ククールはフォレストシープをまとめていく。
これ以上ここに滞在しているわけにもいかない。全部の足を縛り付けたククールは、すべてを引きずりながら街へと戻っていった。
街へと戻ってきたククールだが、その時にはさすがにへとへとだった。さすがにフォレストシープ十体は重すぎたのである。
ククールのことを心配した門番が、荷馬車を用意してくれ。疲れたククールは先に御者台に乗せてもらい、門番たちがフォレストシープを荷台に載せていっていた。
「すごいな……。本当にこれ、嬢ちゃんが全部倒したのかい?」
「はい、頑張りましたよ……」
御者台に乗ってきた門番が、ククールに確認している。疲れた顔色を見せながらも、ククールは正直に答えていた。
はっきりいって、門番は信じられない気持ちだ。でも、ククールはうそをつかないことを知っているので、最終的には信じることにした。
その状態で冒険者ギルドに戻ってきたククールは、無事に報告を受けて報酬を受け取ることになる。
その際、いろいろと尋ねられたものの、疲れていたこともあってか、肉の一部を引き取るとだけ答えていた。
ククールの答えに沿って精算が行われていたのだが、ククールがふと思い出して、受付の女性に声をかける。
「やっぱり、一頭分の毛を下さい」
「分かりました。では、その分を報酬から差し引きますね」
「すみません、あとから言い出してしまって」
「いいですよ。まだ正確に精算できていませんからね」
後出しとなってしまったものの、受付の女性は気前よくククールの意見を受け入れてくれた。
結果、ククールは依頼達成報酬と買取価格に加え、フォレストシープ一頭分の毛と肉を手に入れて領主邸へと戻っていくことになった。
はてさて、フォレストシープの毛を一体どうするつもりなのだろうか。
ククールの背中で、聖剣は疑問に思いながらその様子を見守っていたのである。




