第43話 メイドコボルトは休まらない
「ククール!」
「お姉さん!」
ジャックとラーラが叫んでいる。
それというのも、目の前でククールが手をかざしながら魔法を使おうとしているからだ。
だが、それもやがて辺りを包み込む光によってかき消されてしまう。
(お願い!)
強い願いが届いたのか、まばゆい光が段々と目の前のラーラの母親の中へと吸い込まれていく。
すべての光が吸い込まれた時、ククールは力が抜けたようにその場に座り込んでしまう。
「おい、ククール大丈夫か?」
その場に座り込んでしまったククールに対し、ジャックは心配そうに駆け寄って声をかけている。
ククールは座り込んだまま呼吸を荒くしており、ジャックの問い掛けにはすぐに反応できる様子ではなかった。
「う……ん……」
「お母さん?!」
ククールに気を取られていたラーラだったが、母親の声を聞いて驚いている。直後、思わず駆け寄ってしまっていた。
直後、外から声が聞こえてくる。
「お医者様、こちらです!」
「ひ、引っ張るなって」
「家内が死にそうなんだ。落ち着いていられるかっていうんだ!」
ヒーラと父親が戻ってきたようだった。いないと思ったら、医者を呼びに行っていたようなのだ。
大きなカバンを抱えた男性が、ヒーラと父親に引っ張られながら部屋に入ってくる。
「こ、これは……」
部屋の中の様子を見た医者は、かけている眼鏡に思わず手を触れてしまう。
「ちょっと失礼します。診察させていただきますね」
「は、はい。お願いします」
駆け寄ってきた医者の表情に戸惑いながら、つい反射的に頭を下げてしまうヒーラたちである。
医者が母親を診察する間、ククールとジャックを含めて誰も一言も発しない。ただ静かな時間が流れていく。
やがて、診察が終わると、医者はゆっくりと立ち上がってククールたちへと振り返る。
「結論から申します」
医者の言葉に、全員がごくりと息をのむ。
「いやぁ、すっかりよくなっていますね。まだ経過を観察する必要はありますが、以前のようにせき込むことなどはないでしょう」
「ほ、本当なのか?!」
父親が医者の両腕をがっしりとつかんで確認をしている。力が入っているらしく、医者はものすごく痛そうな顔をしている。
「お父さん、お医者様の腕が折れるわ。離してあげて」
「ああ。す、すまない。つい興奮してしまってな……」
ヒーラに咎められて、父親はおとなしく医者から手を離していた。
医者はというと、痛いのを我慢しながら平常心を保っているようだった。
「とりあえず、しっかりと食べさせて体力を回復させるところからだな。それでは私はこれで失礼するよ」
診察を終えた医者が去ろうとする。
ところが、その医者をラーラが呼び止める。
「あの、お代の代わりにこれを……」
「うん?」
ラーラがそうやって差し出したのは、さっき摘んできたばかりの薬草だった。ククールが護衛についていたこともあって、安全に摘んでこれたので、結構な量がある。
「ふふっ、それは気持ちだけでいいよ。私は医者だが、薬草の加工はできないからね。どうしてもというのなら、ギルドに納めて、その代金で支払っておくれ」
医者はラーラの頭に手を置いて話すと、そのまま家から出ていってしまった。
家の中は、再び静かになる。
医者を呼びに行っていたヒーラと父親はまったくといっていいほど状況が分からないのだ。
「なあ、ククール。今、何をしたんだ?」
そんな中、ジャックがククールに声をかけている。さっき家の中で起きたことを問い質すためだ。
まばゆい光にあふれたかと思うと、それがラーラの母親の体に吸い込まれていった。そのことで病気がよくなったとしか思えなかったからだ。
ジャックに問い詰められて、ククールはちらちらと全員の顔を見ている。すべての目が自分へと集中しており、この状況ではごまかすにもごまかせないようだった。
「わ、私の魔法です。治癒魔法を使って、ラーラちゃんのお母さんの病気を治したんですよ」
「なんだって?!」
「お姉さん、すごい!」
「ククールさん、魔法が使えたんですか?!」
ラーラの両親以外が反応を示している。
なんとも大げさな反応に、ククールはどう反応していいのか困っていた。
「うーむ。それが事実だとすると、あまり口外しない方がいいだろうな」
「そうなんですか?」
ジャックはかなり慎重な様子を見せているようだった。
「そうだな。治癒魔法となると、使い手はほとんどいないと聞く。外部に漏れると、間違いなく教会に連れていかれるだろうな」
「ちょっと、教会って何ですか?!」
ラーラの父親から出てきた単語に、ククールは大きく反応している。コボルトの直感が言っている。間違いなく、それは危険な場所だと。
「教会っていうのは、この世界の創造主を信仰する連中の集まる場所だな。治癒魔法っていうのは、そういう連中にしか使えないと言われているから、知られたら間違いなく連れていかれちまう」
「なんですって!」
ジャックから説明されると、ククールはさらに混乱していく。
まさか、知り合いの身内を助けるために使ったことが、そんな大ごとになるとは思ってみなかったからだ。
ついでに言うと、ククールはその教会とは敵対関係にある魔王の配下の魔族である。そんな場所に連れていかれるわけにはいかないのだ。
結果、ククールはみんなに黙っててもらうように必死に頼み込むことになってしまった。
人を助けて感謝されるはずだったのだが、まさかこんなことになろうとは思ってもみなかったククールである。
ヒーラたちは母親を助けてもらった恩があるからと黙ってくれることを約束してくれたが、ますます心の休まらないククールなのであった。




