第42話 メイドコボルト、魔法を使う
ククールたちはラーラの家に到着する。
「お母さん!」
家に入るなり、ラーラは叫びながら家の中を走っていく。ククールもその後を追いかける。
「こ、これは……」
部屋の中に入ってククールが目にしたのは、かなり苦しそうにするラーラの母親の姿だった。そばには父親とジャックの姿もあった。
そう、ジャックが面倒を見ていたから、ヒーラたちは仕事をできたし、ラーラも外に出てこれたのだ。
「お母さん!」
「ラーラ、近付くな。今はお医者さんを呼んでるから、このままにしておいてくれ」
「でも!」
ジャックに言われても、ラーラは食い下がろうとしている。だが、さすがに力でジャックには敵わないので、ラーラは諦めるしかなった。
その様子を見ていたククールは、ものすごく心が痛くなってくる。
「ねえ、聖剣」
『なにかな、主』
ククールが呼び掛けると、聖剣は返事をする。
「聖剣の力で、どうにかできるのかしら」
ククールがこのように問いかけると、聖剣は唸り始める。
この理由がククールにはよく分からない。
「どっちなのかはっきりしてよ」
焦るククールは、聖剣を背中から外して、がっちりと持って睨みつけている。
さすがの聖剣も、ここまで圧をかけられてしまうと耐えられない。
『わかったわかった。落ち着け、主よ』
「これが落ち着いていられますかっていうのよ。人の命がかかっているのよ?」
『とにかくつかむな。それに、我に話しかけている様子を、あまりに人に見せるな。聖剣の主だということが広まれば、主の生活は自由を一気に失うぞ』
ククールがものすごい剣幕で迫ってくるものだから、聖剣はとにかく落ち着かせようとあれこれ叫んでいた。
さすがに最後のひと言はよく効いたようで、ククールはようやく冷静さを取り戻したようだった。
「そうね。少し頭を冷やすわ。聖剣の主として魔王様を討たなければならなくなるのは嫌だし、そうなると家族にまでいろいろと迷惑が掛かってしまうもの。私は、平穏に暮らしたいだけだからね」
『わ、分かってくれると助かる……』
ククールが少し落ち着くと、聖剣もやっとほっとしたようだった。
それにしても、ククールはお人好しが過ぎるというものだ。知り合いの身内の異常を見てあれだけ取り乱すあたり、普通の魔族ではないと思わされる。
なるほど、聖剣の主に選ばれたのは分かると思う聖剣なのである。
『結論から言うと、あの母親の病気は医者にかかっても治りはせぬ。薬草も、症状の進行を遅らせるのが精一杯だ。このままでは、間違いなく死ぬ。今夜が山であろう』
聖剣はラーラの母親を見てそのような診察結果を下していた。見ただけで分かるあたりが、さすがは聖剣といったところだ。
「どうにかならないの?」
『我は聖剣ぞ? あの程度の病であれば、我の力を引き出した主であれば、容易に治せるというものだ』
「その方法は?」
聖剣が答えるたびに、ククールは圧をかけながら聖剣に質問をぶつけていく。それだけ差し迫っているということだろう。
人の不幸を放っておけないのが、ククールなのだ。
本当にそういうところを見れば見るほど、魔族であるコボルトとはどんどんとかけ離れていく。
仕方ないと思いながらも、聖剣はラーラの母親の病気を治す方法をククールに教えることにした。
『主も魔法くらいは使えよう?』
「コボルトだから、基本的に魔法は使えないと思うんだけど?」
『むむ……。まあよい。聖剣の主となれば、我の影響で多少なりと魔法が使えるようになる。とりあえず、我の言う通りにしておくれ』
「分かったわ」
ククールは、聖剣のいうことにおとなしく従うことにする。
覚悟を決めたククールは、ラーラの母親のところへと歩いていく。
「おい、ククール?」
「ごめんなさい、ちょっとどいてもらえるかな?」
「何をする気だ?」
「私の力を使えば、もしかしたら……」
何か真剣な表情でぶつぶつと言い始めたククールの姿に、ジャックは仕方がないなとベッドの横を空ける。
そこへククールがやって来て座り込むと、ラーラの母親に向けて両手をかざす。
(本当に大丈夫なんでしょうね、聖剣)
『我を信じろ。すべての魔を滅する聖剣の力をな』
(本当に頼むわよ)
ククールは聖剣とひと言とふた言やり取りをすると、両手のひらに力を集中させる。
しばらくすると、両手が光り出す。
(これは……)
『我に眠る聖なる力だ。我の主であれば、魔法が使えなくても我の力を引き出し、一部の魔法を行使できる。さあ、その女性の健康な状態を思い浮かべ、さらに願いを込めるといい』
(いう通りにするわ。本当に頼むわよ)
ククールは、真剣にラーラの母親が健康になるように願いを込める。それと同時に、その両手は更なる光を放ち始める。
これならばいける。
ククールの中に確かな確信が生まれ始める。
(お願い! ラーラのお母さんの病気、治ってちょうだい!)
ククールが強い願いを込めた瞬間、部屋を包み込まんばかりのまばゆい光があふれかえる。
あまりのまぶしさに周りにいた全員はおろか、ククールすら目を開けられずにいた。
はたして、ラーラの母親の病気は治るのか。ククールは祈る気持ちで力を使い続けた。




