第41話 メイドコボルト、指名される
「ククールさん」
「はい、なんでしょうか」
翌日、冒険者ギルドにやってきたククールは、受付の女性から声をかけられていた。
何事かと思い、ククールは小走りに受付のカウンターへと向かう。
「指名依頼が来ております」
「えっ?」
受付から告げられたのは、指名依頼というものだった。
指名依頼というのは、依頼を受ける人物を指定して発注される依頼である。
どういうことなのかと、ククールは受付の女性に確認をする。
「依頼主は、ヒーラとラーラという姉妹ですね」
「ああ、ヒーラさんとラーラちゃんですか」
名前を聞いて、ククールはすぐに分かってしまった。
それもそうだ。ヒーラというのは領主邸でお世話になっているメイドの名前で、ラーラというのはその妹だからだ。
「ラーラちゃんが薬草を摘みに行くそうですので、その護衛をお願いしたいそうです」
「そうですか。でも、なんで薬草が必要なんでしょうかね」
受付の女性に言われたククールは、思わず理由を尋ねてしまう。
ところが、受付の女性は黙ったまま首を横に振っていた。
「申し訳ありませんけれど、これは守秘義務になりますので、この場でお話しすることはできません。お知り合いなのですから、直にお会いした時に聞かれてはいかがでしょうか」
どうやら、ギルドからは詳細な理由は聞かせてもらえないらしい。依頼に関すること以外は、徹底して話さないようである。
この対応を聞いて、ククールはとても納得していた。
それというのも、自分も魔王城でメイドをしているからだ。余計なことは話さないというのが使用人たちの共通認識。それがあるからこそ、ククールはすんなりと引き下がれたのである。
「分かりました。では、依頼の中でラーラちゃんに確認してみます」
「はい、ご本人様に確認するのは別に問題ありませんので、それでお願いします」
そんなわけで、ククールはヒーラとラーラの姉妹からの依頼を受けることにした。
依頼の待ち合わせ場所は、街の入口。ククルとしてやってくる時の出入り口のようだった。
冒険者ギルドを出たククールは、一直線に街の入口にやってくる。
そこには、見たことのある少女が立っていた。
「お姉さん!」
ククールの姿を見つけた少女は、元気よく手をぶんぶんと振っている。
「ラーラちゃん、お待たせ」
「へへっ、依頼を受けてくれてありがとう」
「うん、知らない人じゃないからね。一人で森に入ろうとしないだけ、進歩したかしら」
「わ、私だって、危険なのは分かっていますから……」
心配するククールの態度に、ラーラはちょっといじけた姿を見せている。
そのラーラの姿を見て、ククールはぽんと頭に手を置く。
「さっ、さっさと済ませて戻りましょう。あんまり長引いちゃうと、ヒーラさんやジャックさんを心配させちゃいますからね」
「うん」
ククールと手をつなぐと、ラーラは嬉しそうに微笑んでいた。
ラーラの表情に癒されながら、ククールは付き添って一緒に森の中へと入っていく。
そうしてやってきたのは、以前ラーラと初めて出会うことになった辺りだった。どうやら、目的の薬草はこの辺りにしか生えていないらしい。
「ラーラちゃん。お母さんの調子はどうかしら」
ククールが問い掛けると、ラーラの手がぴたりと止まる。
「うん。あんまりよくない感じ……。本当は一人にしていくのは嫌なんだけど、お父さんもお姉ちゃんも仕事があるから、どうしようもないんです」
「そっか。でも、体調がよくないのなら、なおさら一人にするべきではないわよ。その間に何かあっては、助かるものも助からなくなるわ」
「分かっています。でも、今回はお姉ちゃんも納得してくれたので……」
そういえばそうだった。
今回の薬草摘みの依頼は、ヒーラとラーラの連名による依頼だった。つまり、母親を一人にしてしまうことは、ヒーラも承知の上ということだ。
おそらくは、誰か信頼できる人物に、母親を任せてきたということだろう。コボルトでありメイドでもあるククールは、そのように考えた。
なにせヒーラはメイドなのだから、何の策もなしに病人を一人にするとは考えられない。いろいろと考えながら、ククールはラーラの護衛をしながら、一緒に薬草を摘んでいる。
しばらくすると、ラーラの手がぴたりと止まる。
「ありがとう、お姉さん。このくらいあればしばらくは大丈夫です」
「そっか。それなら街に戻りましょうか。家まで送り届けるわ」
「はい、ありがとうございます」
薬草の入ったかごを持ったまま、ラーラはぺこりと大きく頭を下げていた。
運よく魔物に出会うこともなく、ククールたちは街へと戻っていく。
ところが、こういう時こそ何かが起きるというもので、街に戻るとヒーラが青ざめた様子で入口に立っていた。
「お姉ちゃん?!」
「ああ、ラーラ。戻って来たのね」
「ヒーラさん、一体どうしたんですか? 顔色が悪いですよ」
駆け寄ってきたヒーラの表情を見て、ククールはただ事ではないと察知していた。
「ラーラ、家に戻るわよ」
「ええっ? お、お姉さん……」
手をつかまれて連れていかれそうになるラーラは、ククールの方へと振り返っている。
「私も行くわ。もしかしたら、何かの役に立てるかもしれないから」
走っていくヒーラたちを、ククールは声をかけながら追いかけていく。
このまま別れてはいけない。そんな思いがククールを走らせていたのだ。




