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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第40話 メイドコボルト、昇級する

 ククルが魔王城で魔王にからかわれている間、本体であるククールの方はというと……。


「やあっ!」


 着実に冒険者としての実力を伸ばしにかかっていた。

 今日も魔物討伐の依頼を受けている。


「ずいぶんと剣を振る姿も様になってきたな」


「はい。ジャックさんのおかげですよ」


 格上の依頼のために、ククールはジャックと一緒に近くの森にやって来ていた。

 その討伐対象というのは、以前にククールが危険な目に遭わされたフォレストファングである。

 怖い目に遭った相手だというのに、今のククールは十分に立ち向かえるようになっている。だが、まだ単独で戦うには厳しいらしく、ジャックの手助けを借りてどうにか討伐しているという状態だった。


『うむ。以前と比べても剣を振る時の重心がしっかりとしておる。我の扱いにもだいぶ慣れてきたようだな』


「うるさいですよ、聖剣。まだ依頼中なんですから、褒めるんだったら戻ってからにして下さい」


『むぅ……。コボルトだというのに本当にまじめで堅苦しいな、おぬしは』


 精一杯褒めているはずの聖剣だというのに、ククールの性格のせいでなんとも不思議な感覚に陥っていた。

 褒めていたらお礼を言われるところだと思っていたら、この通りのお小言なのだ。聖剣は反応に困って黙り込んでしまった。


「本当にククールは聖剣の持ち主なんだな。剣と会話をしているなんて、他のやつが見たら頭がおかしいとしか思わないぞ」


「ぐぬぬぬ……。た、確かにそうなんですけれどね」


 ジャックの鋭い指摘に、ククールはとにかく反応に困っているようだ。

 ククールは聖剣の声が聞こえるので普通に会話をしているだけなのだが、周りからすればただの独り言でしかない。そういう時にどういう風に見られるのか、ククールはよく分かっているらしい。

 このように思うのにも、実は理由がある。

 魔族の中には心の声を聞ける者もいるし、眷属としたものと話せる者もいる。そういった者たちの場合、周りから見れば独り言を言っているようにしか見えない。そうして陰口を叩かれている現場を見てきたがために、ククールはよく分かっているというわけなのだ。


「と、とにかく! さっさと依頼を済ませて戻りましょう。遅くなりすぎると、領主様も心配してしまいますからね」


「お、おう。本当にやる気がすごいな……」


 強引にククールが話を打ち切ると、さすがのジャックもちょっと押され気味になっている。

 このあとは、とにかく黙々とフォレストファングを討伐するククールなのであった。


 ジャックが追い込み、ククールがとどめを刺すという戦法で無事にフォレストファング八体を討伐するという依頼を終える。

 荷物がかさばるということから、解体をせずにそのまま持って帰ることにしたのだが、さすがにフォレストファング八体はかなりの荷物のようだ。


「む、無理するなよ、ククール」


「なんの、これしき……。私は、魔王城で働くメイドです。この程度運べなくてどうするんですかぁっ!」


 全部持っていくと聞かなかったククールは、フォレストファング八体を一人で持とうとしている。だが、図体の大きな狼ゆえに、いくらコボルト族だからといっても無理だったようである。

 結局息切れを起こしかけ、ジャックと半々にして持ち帰ることにした。


「はあ……。腕力と体力には自信があったんですけれどね……」


 ククールは大きなため息をついている。

 とはいえ、見た目獣人になっているとはいえ、女性がフォレストファング四体を抱えて運べているだけでも大したものである。ジャックはこのことにとても驚いているようだった。


「いや、本当に俺くらいの重量物を一人で運べているだけですごいと思うぞ。魔族って本当にとんでもない連中だな」


「私は低級魔族ですよ? この程度で驚いていちゃ、魔族と戦えませんよ」


「あ、ああ。確かにそうだな……」


 ククールを褒めるつもりでいたジャックだが、マジレスを食らってしまい戸惑っている。


(いやはや、ククールってとてもまじめだなぁ。コボルトなのは分かっているんだが、時々とてもそう思えない時がある。聖剣に選ばれるくらいだし、とんでもない秘密があるのかもしれないな)


 頭をぽりぽりとかきながら、ククールをじっと見つめるジャック。


「なんですか?」


 さすがにコボルトであるククールに察知されてしまい、ジト目を向けられてしまう。


「あ、いや。なんでもない。とにかく街に戻ろう」


「ええ、言われなくても」


 慌ててごまかすジャックではあったが、ククールは終始むすっとした顔をしていた。

 やれやれと思いつつも、ジャックは周囲を警戒しながら街へと戻っていく。その間、ククールとはまったくひと言も言葉を交わすことはなかった。


 冒険者ギルドで報告を終えると、受付の女性はククールを見ながらにこにことした表情を浮かべている。


「な、なんなんですか、その顔は……」


 あまりに不自然に感じたのか、ククールは引きながら受付の女性に声をかけている。


「はい、おめでとうございます。ククールさんはめでたく、『石』級に昇級です」


「ほへ?」


 昇級したと告げられて、ククールはなんとも間抜けな反応を示している。


「いやぁ、真面目に依頼はこなしますし、かかる時間もかなり短いです。なので、『木』級を飛ばしてもいいと判断されたのですよ」


「あ、ああ、そうなんですね……」


 受付の女性の言葉をなかなか理解できなかったようだが、詳細なことを話されてようやく理解したようだった。

 ククールの冒険者カードは処理を施され、『石』のくすんだ灰色のカードに変わる。


「これからも頑張って下さいね」


「はい。頑張らせていただきます」


 励まされたククールは、それは嬉しそうにしながら返事をしていた。

 後ろでその様子を見守っていたジャックは、腕組みをしながら何度も頷いているようだった。


 困難に見舞われるククルとは違い、ククールの方の生活はどうやら順調なようである。

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