第35話 メイドコボルトは再会する
ようやく冒険者として活動を始めたククール。
それから数日後のことだった。
「あらっ、あれは……」
今日の依頼を受けて森に出かけていたククールは、見たことのある姿を見つけて手を止めていた。
視線の先に見つけたのは、自分の元々の姿であるメイドコボルトだった。
そう、ククルである。
「ククル!」
「あっ、私! じゃなかった、ククール!」
ククールの姿を見つけたククルは、泣いてしまいそうな顔をしながらククールに飛びついてきた。自分に泣きつかれてしまい、ククールは戸惑いを隠しきれないようである。
「ちょっと、一体何があったのよ、ククル」
ずびずびと泣き始めたククルの姿に、ククールはただただ戸惑ってしまう。
どうしたらいいのか分からず、泣きじゃくるもう一人の自分をただただ受け止めているのが精一杯だった。
しばらく泣き続けたククルは、ようやく落ち着きを取り戻していた。
「ごめんなさい、私」
「一体何があったっていうのよ、私」
まだぐずっているククルに、ククールは事情を尋ねている。
「驚かないで聞いてちょうだいね」
「え、ええ……」
ククルはじっとククールの顔を見ながら、なにやら思い詰めたような雰囲気を漂わせている。あまりにも深刻な表情に、ククールもごくりと息をのんでしまう。
「私、魔王様の専属メイドにされたのよ……」
「え、ええ……?!」
『なんと?!』
ククルの証言に、ククールも聖剣も驚くばかりだった。
あれだけ避けておかなくてはいけないといっていた相手の専属メイドにさせられたとは、なんとも寝耳に水な話である。
「で、でも。それだったらなんでこんなところにいるのよ」
とりあえず、ククールは心を落ち着かせながらククルに事情を確認している。
「今日は、いつものおつかいなのよ」
「ああ、そうでしたか。専属とはいっても、常にべったりというわけじゃないのね」
「そうみたい」
二人のククルは、状況を確認し合っている。
『それにしても困ったな。こんなに早く魔王に目をつけられてしまうとはな……』
聖剣はククルの状況が意外なことになっていて、正直焦っているようだった。
その聖剣の反応で、ククルは何かを思い出したようである。
「あっ、魔王様ってば聖剣のことを把握してましたよ」
『なんだと?!』
ククルの証言に、聖剣はただ驚くばかりである。まさか、自分が主を見つけてくっついていることを見抜かれているとは思わなかったからだ。聖剣も魔王のことをかなり甘く見ていたようである。
『ぐぬぅ、さすがは魔王といったところか。この我の動きを把握しているとは思わなんだぞ……』
ククールの背中で、聖剣がぶつぶつと言い始めている。この様子を見る限り、次の対策を立てようと必死になっているのかもしれない。
ただ、背中でごちゃごちゃと言い始めたので、ククールにとってしてみればいい迷惑である。
「と、とりあえず、街に行こう。いつものようにして用事をさっさと済ませておこう、ね?」
「ええ、ありがとう、私」
どう対応していいやら困ったククールは、依頼を中断して街にククルを連れていくことにした。
街に向けて歩きながら、ククルはククールに現状を聞いてみている。
「一応、一番下の冒険者ランクになっているわ。そろそろ上がれるんじゃないかなって思うんだけど」
「そっか、そっちも頑張っているのね」
話をするのはいいけれど、さっきからなかなか話が続かない。やはり、魔王の専属メイドにさせられたショックをかなり引きずっているということなのだろう。
だが、ククルから聞いた話は、ククールや聖剣にとってはとても意外な話だった。
聖剣の持ち主であるならば、魔王からしてみれば敵であるはずである。いくら身内の魔族だからといっても、それは変わらないと思っていた。
ところが、ふたを開けてみれば、聖剣の持ち主と分かっていながら、ククルを自分のそばに置いたのである。
いくら現在は聖剣の力で分裂したもう一人の自分であるククールが聖剣を持っているとはいえ、はっきりって意外過ぎる対応だった。つまり、それだけ魔王はククルのことを買っているということなのだろう。なにせ、ククルの魔王に対する忠誠心というのはかなり強いのだ。だから、こいつは安全だろうと踏んだのだろう。
「はあ、とりあえず聖剣の主だとばれても粛清されないっていうことには安心したわ」
「うん。だからといっても、油断はしていられないけれどね」
「そうね。魔王様にしてみれば、私たちを消すなんて簡単でしょうからね」
とりあえず命拾いをしたというだけなので、ククルたちにとっては緊張の日々が続くことには変わりないのである。
そんな話をしている間に、ククルたちは街へと到着する。
「それじゃ、とりあえず領主邸に行きましょ」
「分かったわ、私」
ククールの提案に、ククルは返事をする。
「ククル、私じゃなくてククールよ。一応同一人物だけど、ここの人たちからすれば、私たちは別人扱いなんだから」
「あっ、気をつけるわ」
ククルの方はどうしても同一人物の感覚が抜けないようだった。
いろいろと話をしながら、二人はようやく領主邸へとやって来たのだった。




