第34話 メイドコボルト、初めての依頼を終える
「てーいっ!」
「キューッ!」
ククールの持つ聖剣が、ホーンラビットを斬り裂く。
哀れ、ホーンラビットは聖剣の餌食となってしまった。
「ぜぇ、ぜぇ……。これで、四匹ですね」
『うむ、今度は角は無事だな』
目の前には追いかけ回した果てに、どうにか倒したホーンラビットが転がっている。
「これでやっと冒険者ギルドに戻れるわ……」
ようやく依頼達成ということで、ククールは疲れたのかその場に座り込んでしまった。
『ご苦労だったな、主』
聖剣はククールを素直に労っている。
『だが、最初に真っ二つにしたホーンラビットも持って帰るべきであろう。角はどうしようもないが、肉と皮は持ち帰っておいた方がよいと思う』
「ああ、そっか。売ればお金になるんだっけか」
『うむ、その通りだ。肉は食事に、毛皮が服になるからな』
「なるほどね……」
聖剣の話を聞いて、ちょっとずつ人間社会というものを理解しつつあるようである。
とはいえ、基本的に服を必要としないコボルトなので、毛皮の使い道にはちょっとばかり驚いている感じだった。
『さあ、早く帰るとしよう。このままでは真っ暗になってしまう』
「暗くなるとまずいかしら」
聖剣が急かしてくるので、ククールはつい疑問を投げかけてしまう。
『夜になると、夜行性の魔物が出てくるようになる。凶暴さを増したものが多いゆえに、今の主ではとても相手にできるものではないだろう』
「うわぁ、それは嫌だわ。私は魔族の中でも下っ端のコボルトだもの。そんな連中、できれば相手にしたくないわ」
聖剣の脅しを聞いて、ククールは耳を少し垂れさせながら体を震わせている。怖いものは怖いのだ。
さっさと倒したホーンラビットを回収し、暗くならないうちにククールは街へと急いでいった。
どうにかまだ明るい間に街に戻ったククールは、冒険者ギルドへと駆けこむ。
「すみません。ただいま戻りました」
元気よく挨拶をしながら、受付に姿を見せる。
「あら、ククールさん。お帰りなさい」
受付の女性がにっこりと微笑んで迎えてくれた。
「はい、ホーンラビットの討伐を終わらせてきました。これが討伐したホーンラビットです」
受付のカウンターの上に、倒したホーンラビットを積み上げるククールである。
「はい、確かに確認しました。えっと、五匹いますね」
魔物の死体を目の前に積み上げられても、受付の女性はまったく動じていない。さすがは冒険者ギルドの人間である。
数を数えた受付の女性は、数が多いことに疑問を感じたようだった。
「えっとですね。最初の一体はうっかり角まで真っ二つにしてしまったので、数に入らないなと思ったんです。その後で、角を傷つけないように四匹を倒したんですけれど、やっぱりもったいないと思って、一緒に持って帰ってきたんですね」
「なるほどですね。よく分かりました」
ククールの説明で、受付の女性は状況をよく把握できたようである。これは、ククールが魔王城のメイドとして働いている時に身につけていた癖も大きかっただろう。
「では、早速査定に入りますね。いくらかお持ち帰りになりますか?」
「そうですね。お肉はとりあえず一匹分を持ち帰ろうと思います」
「分かりました。それでは、一匹分の肉代と解体手数料を差し引いて、そこに依頼の達成報酬を加算して代金をお渡しします。少々お待ち下さい」
「はい。では、待たせていただきます」
ククールは返事をして、近くにある椅子のところへと移動して腰を掛けて待つことにした。
受付の女性は解体を行う職員を呼び、カウンターの上に置かれたホーンラビットを奥へと運んでいっていた。
査定と解体が終わるまでの間、ククールは椅子に座ってそわそわとした感じで待っていた。
「ククールさん、お待たせしました」
受付の女性に呼ばれ、ククールは再びカウンターへと移動する。
ククールの目の前には、少し大きな革袋と硬貨が置かれている。
「こちらの革袋の中には、解体したホーンラビットの肉が入っています。こちらの硬貨は、こちらで買い取らせていただいたホーンラビットの素材の金額と、依頼の達成報酬の合計となっています」
「ふえぇ、お、思ったよりも報酬になるんですね」
ククールがここまで驚いている理由は、ククールの金銭感覚の乏しさが原因である。
魔王城の宝物庫で大量の金貨を見ているし、魔王から頼まれたおつかいでもお金は持たされている。だが、お金がどういった価値があるのかというのは、ククールの中ではまだまだ認識が薄い。
魔王からのおつかいの時に持たされていた硬貨の枚数よりも、目の前に積まれた硬貨の枚数は多い。そのために、ちょっとばかり勘違いを起こしているようなのだ。
なにせ、お使いの時に渡されたのは銀貨であり、目の前の硬貨は銅貨なのだから。はっきり材質が違うのに、枚数だけで判断してしまうあたり、やっぱりコボルトなんだと思わされるところだ。
「まあ、これだけあれば七日ほどは何もせずに生活はできますからね。ですが、何があるか分かりませんので、定期的に依頼を受けて下さいね」
「はい、分かりました」
ククールは報酬を受け取ると、大事に抱えて冒険者ギルドを出ていった。
その姿を見ながら、受付の女性はちょっと心配そうな目になっていた。
なんにしても、冒険者ククールとしての初めての依頼は無事に終わったのだ。
まずはそのことをよしとしよう。




