第33話 メイドコボルト、やらかす
ククールは、街の外へとやってくる。
「えっと、こっちの方でよかったんだわよね」
ククールは冒険者カードをくるりと裏返し、魔法を使うことになった。
魔力を通すと、冒険者カードから光が放たれ、何かが表示される。
そこに映し出されたのは、地図のようだった。
実はこれ、冒険者たちがどこで依頼をこなすかを表示するナビケーションマップである。
地図に表示された範囲の中に入ると、地図が濃く表示され、自分のいる位置がひし形のマークで表示されるようになっている。なんとも便利な機能である。
「人間たちの世界っていうのも、すごい便利なものがあるわね。ああ、これがあれば、私も魔王様の依頼を初回でミスしかけることもなったでしょうに……」
街の外に出たククールは、自分の頭を拳で一発叩いていた。
聖剣に自信たっぷりに言い放っておきながら、迷子になりかけたのだ。そりゃ反省もするというものである。
『主は自分の力を過信し過ぎておるのだ。さあ、さっさと依頼をこなして己が未熟さを再確認するとよいぞ』
「うるさいわね。反省しているわよ」
聖剣がここぞとばかりに責めてくるものだから、ククールは不機嫌になって言い返している。
だが、はたから見れば独り言であるので、見られれば白い目で見られるのは確実だ。言い争いもほどほどにククールは依頼をこなしに街から離れていく。
『それで、受けたのは何の依頼だったかな?』
「ホーンラビットの討伐。角を四本持って帰ればいいみたい」
『ふむ。だが、角だけではよろしくあるまい。肉も持ち帰ればよかろう』
「まあそうね。ホーンラビットは繁殖力が高いから、多少減らしても問題ないみたいだしね。自分でこなした依頼で食事にありつける。なんか仕事をしてるって感じになるわ」
聖剣と話をしながら、なんだか楽しくなってきているククールである。さっきまでの不機嫌もどこかに吹き飛んだようだった。
そうして、討伐対象であるホーンラビットの生息地域にやって来た。
ホーンラビット自体は生息域はかなり広い。なので、魔王城からそう遠くないこの街の近くにも生息はしているのだ。
だが、この辺りは魔物も強い。となれば、ここにいるホーンラビットが普通なわけがなかった。
「あっ、あれがホーンラビットよ」
ホーンラビットを見つけたククールは、しめしめとした顔をしている。
『主。本当にホーンラビットの角が四本でよかったのかな?』
「ええ、依頼書には間違いなくそう書かれていたわよ」
聖剣の質問に、ククールは正直に答えている。
ところが、聖剣はなにやら唸り声を出している。何かが引っかかっているようなのだ。
『ホーンラビットは確かに弱い魔物ではあるが、その魔物の角が四本というのは引っかかる。よそなれば十本は要求されるというのに……』
「なら、楽だからいいじゃないの」
『いや、気をつけてゆかれよ。ただでさえここは魔王城から近い場所なのだからな』
「分かったわよ。それじゃ、あなたの出番よ、聖剣」
『うむ、分かった』
世間からの忠告も話半分に聞いたククールは、聖剣を取り出して構えている。
剣を構える姿だけならば、それは十分まともになったと思う。さすが毎日何百回と素振りをさせられ続けただけのことはあるというものだ。
聖剣を構えたククールの目の前には、ホーンラビットが一匹いる。
「ぜ、絶対に成功させてやりますよ。私はコボルトなんですからね」
『あんまり気負うな。そんなにガチガチでは、成功するものもしなくなる。魔王城で働いていたのが、こう裏目に出ている感じだな』
「うう、失敗は許されないもの」
聖剣の指摘に、ちょっとだけ涙目になるククールである。
ちょっとだけ気の迷いが出たものの、一匹だけいるホーンラビットに向けて、いよいよククールは突撃していく。
「たああっ!」
聖剣を振り回して、ホーンラビットに斬りかかる。
ところが、なんということだろうかあっさりと躱されてしまう。
「ううっ、ホーンラビットのくせに生意気だわ」
「キュキュッ!」
躱されて苦い顔をするククールだが、その隙を狙ってホーンラビットが反撃を仕掛けてくる。
「速い!?」
角を向けて、ククールへと突撃してくる。その動きはかなり素早い。
だが、ククールはそこへ狙って聖剣を振り下ろす。
「ギュッ!?」
さすが聖剣の切れ味。
ホーンラビットはなんともあっさり見るも無残な姿となってしまった。
「た、倒したの?」
剣を振り下ろしたククールは、目の前の光景に呆然としている。
『うむ。実に見事だな』
無事にホーンラビットを倒せたことを聖剣は褒めている。
聖剣から褒め言葉をもらって喜ぼうとするククールだったが、次の瞬間、見つけてはいけない事態を発見して固まってしまう。
「あああっ! ホーンラビットの角まで真っ二つに!?」
そう。きれいに真っ二つにしてしまったのがまずかった。討伐証明として持ち帰るはずの部位まで、見事真っ二つにしてしまったのである。さすが聖剣としか言いようのない芸当だった。
「うわーん、こんな失敗、ありなのぉっ?!」
思わぬ事態に、ククールは叫んでしまう。
だが、落ち込んでばかりもいられない。とにかくホーンラビットの角を四本持ち帰らなければならない。
ククールはそこそこ泣いたかと思うと、気を取り直して依頼の実行を再開したのであった。




