第32話 メイドコボルト、依頼を受ける
ククールは、その手に冒険者カードをしっかりと握りしめていた。
「これが……、冒険者の証なのね」
冒険者カードの色は、最低ランクを示す「紙級」の真っ白である。
ここからランクを上げていくと、「木」「石」「鉄」「銅」「銀」「金」「白金」「虹」と変化していく。それと同時に、冒険者カードの色も階級に対応して色が変わっていく。
「ククールさんの階級はまだ一番下ですので、受けられる依頼の種類が限られます。簡単な最終と弱い魔物の討伐だけになります」
「へえ、そうなんですか。どんな種類があるのかお聞きしてもよろしいですか?」
受付の人の話を聞いて興味を覚えたククールは、つい内容について尋ねてしまう。
咳払いをしたかと思えば、受付の人は詳しく説明をしてくれる。
「採集系の依頼は、比較的どこでも手に入れられるものが定番ですね。それこそ薬草とか食材などです」
「ふむふむ」
「討伐系は最低ランクに所属している魔物たちになります。図鑑がありますので、よろしければご覧になっていかれますか?」
「はい、それはぜひ!」
魔王城のメイドをする前から、ククールは勉強熱心だった。そのため、図鑑があると知れば見たがるのは当然なのである。
しかし、コボルトという種族から考えれば、ククールの行動は間違いなく異端である。だが、当のククールはまったく気にしている様子がないのだ。
ククールはジャックに断りを入れて、冒険者ギルドの二階にある資料室へと向かう。
そこにはあらゆる情報が集められて納められているのだ。
「紙級の冒険者用の書物は手前の方にあります。読書をするためのテーブルもありますのでご活用ください。もし、貸し出しを希望なら一階の受付までお越し下さい」
「はい、分かりました」
ククールはしっぽを振りながらとても嬉しそうに笑っている。素晴らしいくらいの笑顔である。
知っている獣人との反応が違いすぎるのか、受付の人はククールの顔を見ながらつい笑ってしまっていた。
ククールはそのことを気にすることなく、早速図鑑を見てみることにする。
『低級魔物図鑑』
そう書かれた本を手に取ると、ククールは早速テーブルに座って読み始める。
『主、文字は読めるのか?』
「これでも魔王城でメイドをしてた身よ? 文字の知識はちゃんとあるわよ」
『そ、そうか……。どうしても無理そうだったら我に言うとよい。古くから存在する我ならば、翻訳くらいわけないというものだ』
「うん、もしもって時には頼りにしてるわよ」
聖剣からの提案を軽く断りながら、ククールは図鑑を見ていく。
ぱらぱらと数ページ見たところで、ククールの手がぴたりと止まってしまう。
「えっと……」
ククールが見つけたのは、コボルトの項目だった。
そこに描かれていたのは、二足歩行で立つ犬のイラストである。挿絵があるとさすがに嫌でも分かってしまうのだ。
「ああ、確かにこんな感じよね。でも、こんな怖そうな目をした個体、私の村では見たことないんだけどなぁ……」
つい挿絵に対して苦笑いをしてしまうククールである。なにせ自身がコボルトなのだから、これ以上ない身内からの感想というわけである。
しばらく魔物図鑑に目を通したククールは、今度は採集図鑑を手に取っていた。
採集系の依頼も受けるのであれば、その対象となるものをよく知っていないといけない。なにせ中には、毒を持ったものと無毒のものが似たような形状をしているということもあるからだ、事故を防ぐには知識は必要なのである。
「よし、それじゃ薬草摘みでも受けようかしらね」
『なんだ、主。やることは決まったのか?』
「ええ、薬草を摘んでおこうと思うの。ほら、魔王様からの依頼でも薬草があったじゃないの。私から渡すことができれば、それで依頼が簡単に済むと思うのよね」
『いや、そう簡単にはいかんと思うぞ』
ククールは名案だと思っているようだが、聖剣からは疑問視をされてしまう。
「どうしてよ」
『積んだ後の薬草は適切に処理しなければ劣化が早い。主が保管していたとしても、使える状態のままであるとは言い難いのだ』
「げっ、そんなことがあるのね」
聖剣からの忠告で、ククールは困った顔をしてしまう。そこで改めて図鑑を確認すると、薬草の保存手順も書かれていた。
「うわぁ、本当だわ。知らなかったら無駄にしちゃうところだったわね」
『というわけだ。主、ここは実戦を兼ねて魔物退治を受けてみるとよいだろう』
「はあ、しょうがないわね……」
いろいろと面倒を感じたククールは、もう少し剣に慣れておいた方がいいだろうということで、聖剣の提案通りに魔物退治の依頼を受けることにした。
二階の資料室から降りてきたククールは、受付に声をかける。
「すみません。魔物退治をしたいんですけれど」
「ああ、ククールさん。でしたら、あそこの掲示板から依頼書を取ってきて下さい」
「掲示板?」
受付の人が指差した先を見ると、そこには様々な紙が貼りつけられた板があった。これが掲示板らしい。
「複数の人が同じ依頼を受けないように、掲示板から依頼書を持ってきてもらって受託するっていうシステムなんですよ」
「なるほど。分かりました」
冒険者ギルドのシステムを知ったククールは、言われた通りに掲示板へと向かう。そこから受ける予定だった依頼を見つけてくると、受付まで戻ってくる。
「はい、確かに承りました。初めての依頼、頑張ってきて下さいね」
「頑張ります」
両手を握りしめてまで励ましてくる受付の人の言葉に、ちょっと押されながらも返事をするククール。
なんにしても、冒険者となって初めての依頼だ。
無事に成功させようと、気合いを入れてククールは出発していったのだった。




