第31話 メイドコボルト、試験を終える
「やあっ!」
ジョーカーの正面から、振り上げた木剣を振り下ろす。
小細工も何もない、真正面からの真っ向勝負である。
「何も考えていないか。実に速いだけの剣だな」
ジョーカーは剣に対して真横に動き、剣を避けてしまう。
「わっとっと……」
勢いをつけすぎたのか、ククールは体を引っ張られて少しバランスを崩しそうになる。
だが、そこはコボルトの運動神経だ。すぐさま立て直して、ジョーカーへと次の攻撃を繰り出そうとする。
振り下ろした木剣を振り上げるが、これもやはり簡単に躱されてしまう。
「鋭さはそこそこある。だが、所詮は付け焼き刃か」
簡単にククールの攻撃を躱したジョーカーは、攻撃をそう評価している。
鋭さがあるということは、そこそこ見込みがあるということだろう。だが、攻撃の読みやすさはかなり致命的だと見ているようだ。
魔物であれば通用するかもしれないが、人や魔族が相手となると通じない可能性が非常に高い。それゆえに、低い評価を出しているようなのだ。
「どうする。まだ続けるか?」
攻撃を二発躱したところで、ジョーカーはククールに問いかけている。
ところが、そんなことを言われて素直に首を縦に振るククールではなかった。
「嫌ですね。せっかくジャックさんに鍛えてもらったというのに、数回躱されただけで諦めたくありません。必ず、あなたに認めさせてみせます」
「そうか。それはいい心がけだ」
ククールの反論を聞いて、ジョーカーは一度目を閉じている。
その様子を見て、ククールは隙ありと感じて突っ込んでいく。
「だが、それも無謀に振るえば、むしろ失礼というものだぞ」
ジョーカーは目を見開き、目を閉じた隙に仕掛けてきたククールの攻撃をあっさりと躱してしまう。
「攻撃の後にも隙が大きい。剣を習い始めた初心者に多い状況だな。そんなに大きな隙を見せては、体を真っ二つにされるのがオチだぞ」
「くっ……!」
ククールはジョーカーの指摘を受けて、悔しそうな表情を見せる。
さすがに悔しいと思ったのか、ここで一度しっかりと構え直しているようだ。
「すう……はぁ……」
木剣を構えて深呼吸をすると、改めてジョーカーをしっかりと見据える。
その様子を見たジョーカーも、今回ばかりは少し警戒を強めたようだ。
(少し、雰囲気が変わったな。これはもしかするともしかするかもしれんな)
ジョーカーの頬を、汗が伝う。
「やあああっ!」
再びククールは、ジョーカー目がけて飛び込んでいく。その行動は、一見すると学習能力の内容に見えた。
周りの冒険者たちは冷ややかに見ている。
ところが、そこにいるジョーカーとジャックの二人だけはまったく違う見方をしていた。
(先程よりも速い。これは、躱しきれるか?)
(なんていう速さだ。これが獣人の身体能力なのか?)
実際、ククールの動きはさっきとはまったく違う。その動きを見た他の冒険者たちも、思わずどよめくくらいだ。
しかし、その単調な動きは攻撃を読みやすい。速いだけで剣筋は変わらなかったので、ジョーカーは意外と簡単に対処できた。
……はずだった。
「まだです!」
そう叫んで、さっきは木剣に振り回されていたククールがすぐに振り向いてきた。そう、切り返しである。
「ぐっ!」
あまりのスピードで切り返してくるものだから、これまで全部躱していたジョーカーが、初めて攻撃を受け止めていた。
予想外の光景に、冒険者たちから声が上がる。
だが、この試験はまだ終わっていない。
受け止められたことにショックを受けたククールだったが、いったん距離を取って再度木剣を振り回している。
「絶対に、当ててみせます!」
斬りかかるククールだったが、ジャックが止めに入る。
「ククール、もう終わっている。止まるんだ!」
「えっ?」
ククールはジャックの声に驚いている。だが、繰り出された攻撃が止まることはない。
カーンッ!
木がぶつかる音が響き渡る。
「あ、つっ!」
次の瞬間、ククールが持っていたはずの木剣が、くるくると宙を舞っていた。
「うん、合格だ」
「えっ、えっ?」
ジョーカーに言われて、ククールは目を白黒させながら、驚いている。
「なんだ、試験の内容を覚えていないのか? 俺に一撃を入れるか、攻撃させればいいといっただろう」
「あっ!」
ジョーカーに言われて、ククールは大きな声を出していた。
そう、さっきの切り返しの時点でククールはジョーカーに一撃を入れていたのだ。魔法で防御を高めたとはいえ、腕で木剣を止めていた。つまり、これで一応合格になっていたというわけなのだ。
まともな一撃を入れることに集中しすぎて、ククールはそのことに気が付かなかったのである。さすがは真面目に仕事をこなしてきたメイドコボルトである。
「いやっ、久しぶりに身体強化で防御したが、これほどまでの痛みがあるとはな。ジャック、彼女にはどんなことをさせてたんだ?」
「いえ、ただ剣の素振りをさせていただけですよ。ククールは剣を持っていますが、腕はまるっきり素人でしたからね」
「そうか……。それが短期間でここまでとはな」
ジョーカーはククールに近付き、頭に手をポンと乗せて撫で始める。
「合格だ。これで君も、晴れて冒険者だぞ」
「あ、ありがとうございます!」
ククールは両手を体の前で合わせると、実にきれいなお辞儀をしていた。さすがはメイドとして鍛えられてきただけあって、その姿勢はとてもきれいである。
とまぁ、ククールは晴れて冒険者となることができたのであった。




