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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第30話 メイドコボルト、テストを受ける

 冒険者ギルドのマスターであるジョーカーと対決することになったククールは、いざ勝負をする前に一つ確認の質問をすることにした。


「武器は木剣でよろしいのですよね?」


「ああ。一応訓練場だからな。さすがに観客を含めてけがをさせるわけにはいかないから、木剣を使ってくれ」


「承知致しました」


 ジョーカー自身は剣でも問題なさそうな雰囲気だが、場所の問題で木剣にしてくれといってきた。その話を聞いて、ククールは丁寧に返事をしていた。メイドとして身につけた言葉遣いがつい口から出てしまったようである。

 ククールは訓練場の中にあった木剣を手に取る。

 この街で定住するようになってから、何百回と素振りしてきた木剣だ。正確に言うといつも使っているものとは別物なのだが、規格が一緒のせいかやけにその手になじんでいるようだ。


(ねえ、聖剣。私、あの人に勝てるかしら)


『今の主の実力では勝つのは厳しいであろう。あの男はかなり手強いから、一撃を入れられればいい方だ』


(そうですか……。でしたら、当たって砕けろというところですかね)


 対決を前に、ククールは聖剣と話をして気持ちを落ち着かせている。今の自分では勝つのは難しいという結論を聞いて、かなり気が楽になったようなのだ。


「……よし」


 最後に深呼吸をひとつしたククールは、しっかりと木剣を握って表情を引き締めていた。

 本来の自分はメイドではあるものの、こうなったら冒険者をやれるだけやってみようと覚悟を決めたようだった。


「ほう、いい表情(かお)だな」


 ククールが向けてきた表情に、ジョーカーは少し驚いていたようだ。

 だが、すぐにジョーカーも表情を引き締めてククールと向かい合っている。


「新人の冒険者見習いだからな、俺は攻撃を出さない。まあ、防御はするがな。なので、俺に一撃を入れるか、攻撃を出させたらお前の勝ちということでいいだろう」


「承知致しました。その条件をのまさせていただきます」


 ジョーカーの提案を、ククールはすんなりと受け入れていた。


「おい、ジャック。お前が審判をしろ」


「お、俺がですか?」


 ジョーカーから指名を受けたジャックが、自分自身を指差しながら驚いている。どうやら、まったく予想していなかったようだ。


「何か問題があるか?」


 ところが、ジョーカーは慌てるジャックを問題視しているようである。


「いえ、俺が指導している人物ですよ? ひいきに走るかもしれないじゃないですか」


「はっ、そんな心配をしているのか。俺がそんなもので意見を変えると思うか。とにかく、お前がやれ。これはギルドマスターの命令だ」


「わ、分かりましたよ。もう、知りませんからね」


 どんなにいったところで、ジョーカーの意見はひっくり返ることはなかった。ジャックもやむなくその指示に従っていた。

 ジャックが二人の間に立つと、ククールは剣をしっかりと構えている。


(私、落ち着くのよ。素振りをしている時の感覚を思い出して、きっちりと狙いを定めるのよ)


 緊張からか、ククールはかなりガチガチのようである。

 よく見れば、体が震えている。どうやらコボルトの勘が、ジョーカーの強さをしっかりと感じ取っているようなのだ。それゆえに、体が震えてしまっているというわけなのだ。

 獣人の体となったククールは、年相応に身長は大きくなっているが、ジョーカーの体はそれ以上に大きい。頭二個分くらいは大きい。しかし、その実力差のせいか、ククールには実際の大きさの何倍にも大きく見えているのだ。

 ジャックはその震えるククールを見て心配そうにしている。何を考えているんだとジョーカーの方を見るものの、視線を返されてジャックは思わず息をのんでしまう。


「おい、そろそろ始めてくれ。見ている連中がしびれを切らし始めている」


「……分かりました。それじゃ、ククール、準備はいいな?」


「い、いつでも来いですよ!」


 ジャックに声をかけられて、ククールは毛を逆立てながら返事をしている。びっくりするくらいに緊張しているのがよく分かる。

 とはいえ、これ以上は確かに引き延ばせないと判断したジャックは、いよいよ覚悟を決める。


「始め!」


 いよいよ、冒険者としての適性を見るテストが始まった。


「やあああっ!」


 ジャックの合図とともに、ククールは半ばやけくそにジョーカーに向かって走っていく。

 構えた状態のまま、無策に突進していくククール。その姿にはジャックも驚かされていた。

 とはいえ、明らかに相手は強すぎる相手なのだ。確かに小細工など通用しないだろう。だからといって、無策でそのまま突進していくとは、さすがのジャックも予想外だったようだ。


「ふむ、正面切ってくるか。反撃がないと分かっているからこその策というわけだな」


 ジョーカーは、そのように分析しているようだ。


「速さは十分。さて、その剣の腕前、しっかり見させてもらおうか」


 迫りくるククールを目の前にしても、ジョーカーの余裕っぷりは変わらなかった。

 どっしりと構えたジョーカーに対して、ただただ突っ込んでいくククール。そこには策はあるというのだろうか。

 多くの冒険者が戦うギルドマスターの姿に注目する中、はたしてククールはどう出るのだろうか。

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