第29話 メイドコボルト、冒険者登録をする
ジャックの手によって特訓を受けたククールは、いよいよ冒険者となるための登録をすることとなった。
二度目の街の訪問から実に二十日ほど経過したのだ。剣を持っている以上、どうしても免れない事態なのである。
「はあ、何の因果で私が冒険者などしなければいけないのですか……。しがないメイドだったはずなのに」
冒険者ギルドへと向かうククールは、とにかく大きなため息をついて、足取りはとても重そうなのである。
元々非戦闘系の職についていたククールであるし、ジャックからの特訓はひたすら剣を振るというものだったのだ。当然ながら、それだけで冒険者登録をしようというのだから、ククールには不安しかないというわけである。
ところが、ククールに同行しているジャックには確かな自信があるようで、胸を張って前をしっかりと見ている。
「ジャックさん。他人事だと思って、なんか気楽にしてませんか?」
気の重いククールは、文句ありげにジャックへとジト目を向けている。実際文句を口にしているのだが、それ以上に視線が痛々しい。
だというのに、そんな目を向けられてもジャックはまったくもって意に介していないのか、余裕の表情を崩していない。
「大丈夫だ。俺が鍛えてきたんだからな」
「大丈夫って……。ジャックさんはひたすら私に剣を振らせていただけじゃないですか」
「それでいいんだよ。ククールには剣に慣れてもらわないと困るわけだからな」
「むぅ……」
ジャックの言い分に、ククールの不満は一向に解消しないようだった。本当にただただ剣を振り続けていただけなのだから、そうなるのも無理もない話だった。
そうしている間に、ククールは冒険者ギルドに到着してしまう。
冒険者ギルドの中には、見るからに屈強そうだったり、多彩な技能を持っていそうな人物たちがひしめき合っている。
「よう、ジャック。その子がそうか?」
冒険者ギルドに入るなり、ジャックに対して声をかけてくる人物がいた。
「そうですよ、ジョーカーさん」
ジャックはその声に反応して、返事をしている。
ジョーカーと呼ばれた人物は、全体的に細そうな体をしているものの、よく見てみると服がはちきれんばかりの筋肉が見える。とても鍛え上げられた人物のようだった。
「ジャックさん、この方は?」
「ああ、だいたい察していると思うが、この人が冒険者ギルドのマスターであるジョーカーさんだよ。その気になれば、現役の冒険者として通用しそうな実力な持ち主さ」
「ははっ、言ってくれるな。これでも引退してもう八年は経つぞ?」
なんと。見るからに筋肉隆々としている人物なのに、冒険者を引退して八年も経っているらしい。つまり、引退してからも鍛練を欠かしていないということなのだろう。
目の前のジョーカーという男からは、仕事に対する熱意というものがしっかりと感じ取れる。そのため、ククールは何か親近感のようなものを感じてしまったようだ。
そんな風に感じるのは、ククールもメイドという仕事に誇りを持っているからだ。特に魔王城のメイドというのは、魔族にとってしてみれば一種のステータスなのだから、それも当然というわけだ。
「それにしても、獣人か。この場所で獣人を見るのも久しぶりだな」
「そうなんですか?」
「ああ、獣人というのは半分魔族のようなものだからな。獣系の魔族とのハーフとも言われているから、人によってはあまりよく思わないかもしれん」
ジョーカーは獣人というものがどういう存在か説明をしてくれた。
なるほど、確かにそうかも知れないとククールは納得していた。なにせククール自身、魔族であるコボルトなのだから。聖剣の力によって半分人間になったような感じなので、非常に感覚的に理解できたというわけである。
「それじゃ、冒険者登録を行うから、まずはそこの受付で手続きを進めてくれ」
「分かりました。それじゃ、ククール」
「は、はい」
ジャックに手を引かれて、ククールはまずは受付で名前などの登録を行う。
得意なものは何かという欄はあったが、なんて書こうか非常に迷ったようだ。剣を持っているので、剣と書かざるを得ない気がしたククールは、雰囲気で『剣』と書いていた。
「では、最後に血をちょっとだけ失礼しますね」
「えっ……。分かりました」
冒険者の持つカードに魔力を登録するために血が必要なのだという。
驚いたククールだったが、仕方なく指先を針で突いて、血を一滴垂らしていた。
「はい、これで登録は完了です。ですが、簡単にテストをさせていただきますね」
登録は終わったというのに、どうやら何かまだあるらしい。何があるのだろうかと、ククールは思わず身構えてしまった。
「簡単に言いますと、冒険者としての適性を見せてもらうだけですね。得意とするものを実際に見せていただきまして、初期ランクを決めます。それによって受けられる仕事が変わりますからね」
「なるほど、そういうことですか」
納得したククールは、職員たちと一緒に奥の訓練場へと向かう。
ところが、そこで待ち受けていたのは、実に予想外なものだった。
「……ギルドマスター、何をなさっておられるのですか」
訓練場へとやって来ると、そこには上半身の服を脱ぎ捨てたギルドマスターのジョーカーが立っていた。見るからに鍛えられた筋肉が目立つ。
「なに、ジャックが連れてきた人物だから、俺が直接見てやろうというわけよ。文句は言わせねえ」
「……好きにして下さい」
なんということだろうか。ククールはギルドマスターと対決することになってしまったようである。
なんでこうなるのと心の中で叫ぶククールだったが、場の雰囲気から察するに選択の余地はないようだった。
諦めたククールは、仕方なくジョーカーとの対戦を受け入れることにしたのである。




