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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第28話 メイドコボルトは受難続き

「さあ、今日も素振りだ」


「ええー……」


 朝食が終わったと思ったら、またジャックが現れてそんなことを言うものだから、ククールは露骨に嫌な表情をしている。どのくらいかといったら、耳としっぽがこれでもかというくらい垂れさがるくらいだった。どんだけ嫌かというのがよく分かるというものである。


「ええ、じゃない。ククールはそんな物を持っている以上は、剣を扱えるようになってもらわないと困るんだ。飾りだって他の連中にバカにされるだけだぞ」


『誰がそんな物で飾りだというのだ。まったく、失敬なやつだな』


 ジャックの言葉に反論する聖剣だが、その文句はジャックの耳には届かない。聖剣の言葉を聞き取れるのは、主となったククル(ククール)だけなのだから。


「まあ、やるしかないと思うわよ、聖剣」


『むむむ……。主、なんとしても剣を扱えるようになって、無礼なこやつらを見返してやって下され』


「がんばってみるわ」


 聖剣の言い分にククールはそう答えるのが精一杯だった。なにせ、まだまだ剣を扱うというにはほど遠いのだから。

 しかし、いざ剣を扱うとなるととてつもなく大変だった。


「はあ、これなら魔王城でメイドを続けていた方がよかった気がするわ」


『何を言う。あのまま魔王城に留まっておれば、いずれは聖剣の持ち主と知られ、家族もろとも危険な目に遭いかねなかったのだぞ。この方がよかったに決まっておろうぞ』


「ああ、もう。はいはい、そういうことにしておきますよ、ぶぅ……」


 ああいえばこういう聖剣に、ククールはかなりイラついたようである。結局のところ、文句を言いながらも、ジャックから施される訓練に臨むことにしたようだった。

 しかし、今日の訓練もひたすら木剣を振り続けるというものだった。あまりにも単調な訓練ではあるもの、ククールはまったく文句を言わずに木剣を振り続けていた。


「よし、そろそろお昼だから、今はここまでにしておこう」


「はあはあ……」


 ただひたすらに木剣を振るだけの訓練ではあるが、さすがに何度も振り回していれば疲れるというものである。

 朝の訓練が終わった時には、ククールは全身で呼吸をするくらいに疲れ果てていた。


「さすがに、無茶すぎたかな。昼からはどうする?」


「め、メイドの仕事がしたいわ……」


 ジャックに聞かれたククールは、間髪入れずに答えていた。さすがは魔王城でメイドをしていたこともあって、選択肢はそれしかなかったようである。


「分かった。とりあえずまずはその汗を流すとしよう」


 ジャックは近くにいた兵士に、湯あみの準備をするように伝える。

 それが終わると、今度はククールに近付いて手を差し伸べていた。


「さっ、部屋まで連れていくから、俺につかまってくれ」


「あ、ありがとう、ございます」


 ククールはジャックにつかまりながら、屋敷の中を歩いていく。

 普通ならば男性と一緒に歩いているとなると緊張をしそうなものだが、完全に疲れ果てている上に、元が魔族であるだけにその辺りの感覚は完全に鈍っているようだった。


 そうしてやって来た湯あみの部屋。そこでは朝に出会ったメイドが姿を見せていた。


「あ、れ……。あなたは朝の……」


「はい。ヒーラと申します。妹がお世話になったようですので、こうしてククール様の侍女に就かせていただきました」


「妹?」


 ヒーラと名乗ったメイドの言葉に、ククールは疲れた頭をフル回転させている。


「はい、ラーラといいまして、森に薬草を摘みに行っていたところを助けてもらったとかでして。本当に、妹を助けていただきありがとうございました」


「ああ、あの時の女の子の……」


 詳しい状況を聞いて、ククールも思い出したようである。

 そう、二回目の魔王からのおつかいでやってくる最中に出くわした、魔物に襲われていた女の子、それが目の前にいるメイドの妹だというのだ。なんともな縁である。


「このような実に可愛らしい獣人の方だなんて思ってもみませんでした。ですが、ひと目見まして何かを感じるものがございました。これからはぜひとも私を頼って下さいませ」


「あ、はい……。よろしくお願いします」


 勢いに押される形で、ククールは頷いてしまっていた。

 その後、疲れているということもあって、ククールは湯あみの間、ヒーラにされるがままとなっていた。

 しかし、メイドである彼女の腕前は大したもので、同じくメイドであるククールはとても感心しているようだった。人間と魔族という違いはあれど、メイドというものがどういうものなのか、深く考えさせられているようである。

 湯あみも無事に終わり、ククールはドレスに着替えている。


「あれ、ドレスなんですか?」


「はい。このあとは旦那様とのお食事の席ですのでね。さすがにきちんとした格好をしておりませんと」


「ああ、そうだったわ。私、領主邸で暮らしてるんだった」


 疲れのせいか、自分が今どこにいるのかを少し見失っていたようである。

 ヒーラのおかげできちんと服を着替え終わったククールだったが、いざ移動しようとすると、体に強い衝撃が走った。


「ぐえっ」


「だ、大丈夫ですか、ククール様!」


 ヒーラですらも慌ててしまう事態だった。

 何かといえば、聖剣のことを忘れて移動しようとしたために、聖剣が勢いよく体に装着されてしまったのだ。その衝撃でククールはとんでもない声を出してしまったようだ。


「け、剣のことを忘れていたわ……」


 衝撃の痛みに耐えながらも、自分の背中を見て事情を察するククールである。

 どうやらククルとククールのはそろってまだまだ受難が続きそうな感じなのである。

 頑張れ、ククル。頑張れ、ククール。

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