第27話 メイドコボルト、激しい痛みに襲われる
「はっ!」
翌日、ククールは無事に目を覚ます。
「私、いつの間に眠ってしまっていたのかしら……」
体を動かして目を擦ろうとするククールだったが、その瞬間、とんでもない事態がククールを襲う。
「痛っ、痛たたたたっ!」
全身を激痛が襲ったのである。
そう、単純な筋肉痛である。
「な、なんで体中が痛いのよぅ!」
あまりの激痛に、ククールはのたうち回りそうになる。だが、その度に体は更なる激痛に見舞われる。
『やれやれ。主、それは筋肉痛というものですぞ』
「き、筋肉痛?」
聖剣が話した内容に、ククールは痛みをこらえながら反応をしている。
『うむ。主はメイドの仕事ばかりをしているために、剣を振るということに慣れておらぬ。昨日あのライブリーという男に治療してもらったのはあくまでも疲労による震えだけだ。それで、その時に治療できなかったものが、遅れてやってきているというわけだな』
「そ、そんな……。それじゃ、今日は私はベッドから起きれないっていうのかしら」
聖剣から聞かされた現状に、ククールは思わず顔を青くしてしまう。
コボルト族はとにかく体を動かしたがる種族でもあるので、ベッドの上から動けないというのは、正直死活問題に近いところなのだ。それゆえ、ククールはかなり強いショックを受けているというわけなのである。
そのククールの様子を見ていた聖剣は、見ていられないなという感じになっている。
『やれやれ。コボルト族は体の回復が早いのではなかったのかな。それが、そこまで悩まされているところを見ると、よっぽど不慣れなことを行ったということなのだろうな』
「もう……。ごちゃごちゃ言ってないで、手を貸してほしいわね」
聖剣がちょっとばかりバカにしたような口ぶりをするものだから、ククールは半ば怒りながら聖剣に声をかけている。
その必死なお願いに、聖剣もため息をこぼしてしまう。
『分かりましたぞ、主。我の力を少しだけ解放いたしましょう。本来ならば、もっと使いこなせるようになってからなのだが、主があまりにも情けないので見ていられませぬ』
「情けなくて悪かったわね。私はメイドなんだから、剣なんて使えなくて当然でしょうに! 早くしてよ」
聖剣の口ぶりにイラッときたククールは、とにかく早くしてくれと訴えている。
ちょっと見苦しいと感じた聖剣は、仕方がないので自身の力を少し解放する。
するとどうしたことだろうか。筋肉痛に苦しんでいるはずのククールだったが、少しずつ楽になり始めたのだ。
「こ、これは……?」
段々と楽になっていく様子に、ククールは驚きを禁じ得なかった。
『我に認められた者だけが授かることのできる能力のひとつですな。いわゆる超回復というもので、あらゆる状態異常をあっという間に消し去ってしまうという優れものですぞ』
「うわぁ、そんなことできるのね。……もう動いても平気だわ」
あまりの回復の速さに、ククールは驚きながらも体を動かしている。もうまったく痛くとも何ともないのである。
「ありがとう、聖剣。これで今日も元気に頑張れるわ」
『喜んでもらえてなにより。ですが、今回だけですので、再び封じさせて頂くとするぞ』
「ああ、なんかもったいない」
『あまり我の力に頼らぬことですぞ。主にはとにかく剣に慣れてもらわねばならぬのです』
「わ、分かったわよぅ……」
せっかく解放した力をすぐに使えなくされてしまったことで、ククールはずいぶんと残念そうにしている。しかし、確かに頼りすぎるのもよくないと、すぐに考えを改めていた。
「よーし、今日も頑張らなくっちゃ」
ベッドから起き上がり、思いっきり背伸びをした時だった。
ぐう~~~……。
思わずククールはお腹を押さえて顔を真っ赤にしてしまう。
「な、何も聞こえなかった、いいわね?」
『聞いておりませんぞ、主の腹の音など』
「聞いてるじゃないのよ!」
恥ずかしがりながら聖剣に声をかけると、はっきりと言われてしまってククールは大声を出してしまう。
「えっと、ククール様。お目覚めのようでなによりでございます……」
「あ、お、おはようございます」
不意に聞こえてきた声に、ククールはゆっくりと振り返る。そこには、メイド服に身を包んだ女性が一人立っていた。
いつの間に部屋に入ってきていたんだろうと、ククールは目を白黒とさせてしまっていた。
「申し訳ございません。お声掛けをしたのですが、返事がなかったものでして……。騒ぐ声を聞いて、つい入ってきてしまいました」
「あ、ああ、そうなんですね。えと、何の用かしら」
メイドの女性の話を聞いて、ククールは思わず問いかけてしまう。
「はい。朝食の準備が整いつつありますので、朝の身支度をと思いまして、部屋を訪ねさせて頂きました」
「あ、ああ、そうなんですね。それじゃ、お願いできますか?」
「はい、お任せ下さいませ」
話を聞いたククールは、着替えをさせてもらうことにした。
一応、聖剣の力によって体は大丈夫だとは思うものの、万一筋肉痛が残っていて着替えに失敗したら、それこそ目が当てられないからだ。
女性の手によって、ククールは着たことのないようなドレス姿に身を包んでいく。ただし、その背中にはしっかりと聖剣が背負われている。
「これでよろしいでしょうかね」
「はい、ばっちりです」
「それでは、食堂にご案内致します。旦那様たちはおそらくもういらしておいでだと思います」
「分かりました。では、お願いします」
ちゃんと着替え終えられたことで、ククールは朝食を食べるために食堂へと移動することになる。
とはいえ、こんなことでこれから大丈夫なのかと、ククールはちょっと不安に思ってしまっていた。
大きなため息をつきつつ、ククールは無事に食堂へとやって来ることができたのであった。




