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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第26話 メイドコボルト、剣の素振りをする

 メイドをしているコボルトのククルが大変なことになっている中、人間の街で暮らすククールの方はどうなっているのか。


「えいっ! やあっ!」


「ククール、もっとしっかりと体全体で振るんだ。腕だけで振ろうとするんじゃない」


 ククールはジャックの手によって、剣の指南を受けていた。

 せっかくの聖剣の使い手なのだから、剣を扱えないことには話はならない。

 だが、コボルトはそもそも剣は扱わないし、しかもメイドであったククールでは余計のこと剣は使わない。使ったとしても短剣くらいまでである。

 それゆえ、ククールは剣の稽古にとてもじゃないがついていけるようなものではなかった。


「うう、腕がしびれてくる……」


 慣れないことをしているということもあって、ククールの腕は限界を迎えつつあるようだ。


「おいおい、まだ五十回程度しか素振りをしてないぞ。ククールってそんなに貧弱だったのか?」


 あまりにも早い限界に、ジャックも困った顔をして苦言を呈している。


「仕方ないじゃないですか。そもそもコボルトの自慢は体力と嗅覚くらいです。剣の素振りなんてしているコボルトなんていませんよ」


 ひどい言われように、ククールも文句を言っているようである。

 だが、それはさらにジャックを厳しくさせるだけだった。


「文句を言う元気があるのなら、とにかく百回まで振れ。そうしないと今日の食事は抜きだぞ」


「ひっどーい。か弱い女性に何をさせてるんですかっ!」


「つべこべ言うな。これでもまだ優しい方だぞ」


 文句を言い続けるククールに、ジャックは心を鬼にしているようだった。

 剣を持っているのに扱えないというのも論外だが、これはククールのためでもある。

 剣を持った獣人として街に住むことになった以上、どうしてもそういう系統の依頼を回されがちになってしまう。そうなった時に戦えないとなると、それはつまり最悪の事態すらも覚悟しなければならないのだ。

 そうならないために、ジャックはこうしてククールを鍛えているというわけである。

 だが、女性を相手にするのであれば、女性の指導者をあてるのが普通だろう。

 なぜジャックになったかというと、ククールと最初に出会った人物であることが一点、ククールの正体と彼女の持つ剣のことを知っていることが一点、そして、領主との接点があることである。

 ククールのことに関しては、とにかく街の人たちには隠しておかなければならない。正体がコボルトであり、ましてや魔王との接点もあるとなれば、街の人たちからどのように見られるかは火を見るよりも明らかなのだ。

 そういった数々の懸念を吹き飛ばすためにも、ククールを一人前の冒険者として育て上げなければならないのである。

 なんともジャックの責任も重大というわけだ。


「俺だって好きでここまで厳しくしているわけじゃない。でもな、ククールのこれからを考えたらのんびりしているわけにはいかないんだ。悪いが耐えてくれ」


「ああ、もうっ! 頑張ればいいんでしょ、頑張ればぁっ!」


 ククールはなんともやけくそになっていた。

 ククールにだって、頑張る理由はあった。

 それは他でもない家族のためだ。両親と十数人いる弟と妹のために、稼がねばならなかったのだ。なんといっても、ククールは一番上なのだから。

 コボルト族は別にお金を使って生活するわけではないが、その金額相当の物品が家族の元に届けられるようになっている。つまり、稼げば稼ぐほど、家族の食い扶持が増えるというわけだ。だからこそ、ククールは頑張らなければならないのである。

 いくら理不尽と思っても、ククールには頑張る以外の選択肢がそもそも存在していないのである。

 なので、ジャックからの指示に従い、ひたすら剣を振り続けた。


「百!」


 ククールは無事に剣の素振りを終えた。

 さすが体力自慢のコボルトとはいえ、慣れないことをしては手がぶるぶると震えていた。それだけ、ククールは剣に慣れていないのである。


「よく頑張ったな。しばらく何も持てないとは思うけれど、ひとまず領主様のところに行くぞ」


「わ、分かりました……」


 剣の素振りを終えたククールは、向けられたジャックの柔らかな笑顔に、つい思わず見とれてしまったようである。

 次の瞬間、我に返ったククールは首をぶんぶんと左右に振っていた。


(ちょっと待って。今私、何を思ったのよ……。うん、気のせいよ、気のせい)


 自分の反応にびっくりしたククールは、その気持ちを振り払うように首を左右に振り続け、最後には両手で頬を力いっぱい叩いていた。

 よく分からない行動を取るククールの姿に、ジャックはつい首を傾げてしまっていた。


 領主邸へとやって来たジャックとククールは、鑑定魔法の使えるライブリーのところまでやってくる。


「どうしたのかな、ジャック殿」


「悪い、ククールの腕に回復魔法をかけてやってくれないかな。素振りで両手ともしびれて使えなくなったみたいなんでな」


「ああ、そういうことですか。よろしいですぞ。さっ、腕を出して下され」


「は、はい」


 ライブリーの手によってククールは回復魔法をかけられる。

 しびれて震えていた腕全体が、あっという間に感覚を取り戻していく。あまりの回復具合に、ククールはとても驚いていた。


「あまり無茶をするものではありませんぞ。ほどほどにな」


「はい」


 しびれを回復させたククールは、そのままジャックと別れて部屋へと戻っていく。

 さすがに疲れてしまったククールは、その日はそのまま夕食も食べずに熟睡したのであった。

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