第25話 メイドコボルト、魔王専属になる
悩み抜いたククルは、結果として魔王からの命令を受け入れることにした。やはり、お給金が跳ね上がるという魅力から逃れられなかったのだ。
それがあれば、自分の家族をたっぷり食べさせてあげられる。家族を思うがゆえの、ククルらしい決断となってしまった。
メイド長に申し出たククルは、メイド長と一緒に魔王の部屋へと向かっていくことになる。
その途中、補佐をしているザスカスと顔を合わせることとなった。
「おや、メイド長。そちらのコボルトとどちらに向かわれるのですかな」
ザスカスは鋭い視線をククルへと向けながら、メイド長に話しかけている。
「ええ。ククルが魔王様からの申し入れを受け入れることを決めたようですので、私が案内しているというわけです」
「そうか。ならば、ここからは私が連れていこう。それでよいかな?」
「承知致しました。では、ザスカス様、よろしくお願い致します」
「えっ、メイド長様?!」
話の中で、ザスカスへと案内役が交代となってしまった。
ククルの案内を引き継いだメイド長は、肩を回しながらそのままとっとと歩き去ってしまった。さすがは魔族、かなり自由である。
「ちょ、ちょっとぉ?!」
ククルはメイド長の方を見て騒ぐものの、メイド長はまったく振り返りもしなかった。
こうして、ククルはあっさりとザスカスへと引き渡されてしまったのだ。
ククルはザスカスの後ろについて、魔王の部屋へと向かっていく。
その間、ザスカスはこれといって何も話そうとはしなかった。
かと思えば、突然立ち止まってククルへと振り返る。
「まったく、魔王様のお考えが分かりませんな。なぜ、コボルトのような低級魔族をそばに置こうとなさっておられるのか」
ザスカスはククルにずいっと迫ってくる。
魔王と近しい魔族であるがために、ククルはその剣幕に恐怖を感じている。
聖剣と触れたからか、その魔力が今まで以上にはっきりと感じ取れているので、なおさらククルの恐怖を煽っている感じである。
「ご命令でなければ、お前など魔王様に引き合わせることなくどこかへと捨て置いたものを……。まったく、運のいいコボルトですよ」
ザスカスは嫌味を吐き捨てていた。
そうしている間に、先日やって来た実に立派な扉の前へと立っていた。
何度見ても、魔王の部屋にふさわしい装飾のなされた、威圧感を感じる扉である。
「魔王様、ククルをお連れしました」
「うむ、ククルだけ入れ」
扉をノックして中へと呼び掛けるザスカスだが、魔王から返ってきた答えに驚かされる。
そう、ククルしか入室を認めなかったのだ。これには、他にも聞こえそうな勢いでザスカスが舌打ちをしていた。
「……さっさと入れ」
番兵が扉を開くと、ザスカスはククルの背中を強く押して部屋の中へと叩き込んでいた。
押し出されて勢いよく部屋の中に入ったククルだが、さすがはコボルトの身体能力というべきか、転ぶことなくしっかりと直立して立ち止まっていた。
何するのと言わんばかりに後ろを振り返ったククルだが、すでに部屋の扉は閉ざされていた。
「もう、なんなのよう……」
ククルはつい、後ろを向いたまま文句をこぼしてしまっていた。
「ほう、余に背を向けて立っていられるとは、ずいぶんと余裕なことだな」
「はっ!」
魔王の声が聞こえてきたので、ククルは耳としっぽをピンとさせて、おそるおそる振り返っている。
「し、失礼致しました、魔王様!」
耳としっぽをピンと立たせたまま、ククルは両手を前で合わせて頭を深く下げて謝罪をしている。さすがはメイドである。
「まあ、よい。ザスカスのやつがお前に嫉妬しているみたいでな。ふん、実におとなげないというものだ」
「あ、あの……。それって本当なのですか?」
「ああ、本当だ。あやつは長年余に仕えておるからな。ぽっと出のおぬしに強く嫉妬しておるのだよ。まあ、そう気にしなくてもよいぞ」
「き、気になりますってば!」
ククルは大きな声で叫んでいる。
自分は弱小魔族であるコボルトであり、ザスカスは純魔族である。能力的に考えて、どうあがいても勝ち目のない相手なのだから。
「何をいうか。聖剣とは距離があるとはいえ、おぬしは聖剣の加護を受けし者だぞ? その気になれば、余ごと魔族を葬り去れる力を持っておるのだ。襲われれば存分に振るえばよかろうに」
「私に剣は扱えません!」
魔王からあれこれ言われるものの、ククルは必死に抵抗を続けていた。
その反応があまりにも面白いためか、魔王はつい笑いをこぼしてしまっていた。
「ふふっ、余にそこまではっきりと物申すのは面白い。やはり、ただのコボルトではないな」
ものすごく複雑そうな顔をするククルに対して、魔王はまったく余裕の表情を崩していない。
それどころか、余裕を通り越して面白がっているようだった。
「というわけだ。ククルよ、今からお前は余の専属メイドだ。これからお前の職場はこの部屋になるから覚悟をしておけ」
「なんでそうなるんですかーっ!」
ククルは叫ぶものの、その声はむなしく部屋に響き渡っただけだった。
なんということだろうか。魔王城に就職してからというもの、ククルは短期間のうちに聖剣の主となり、さらには魔王の直属の部下にまで取り立てられてしまったのだった。
はたして、ただのコボルトのはずだったククルはどうなってしまうのだろうか。それは本人が一番よく分からないことだった。




