第22話 メイドコボルトは落ち着かない
メイドのククルは、無事に魔王城まで戻ってくる。
おつかいで頼まれていたものをメイド長に渡すと、今日はもう休んでいなさいと言われてしまった。
そんなわけで、ククルは部屋へと戻ってきていた。
「はあ、やっぱり自分の部屋が一番落ち着くわ。ね、聖剣」
自分のベッドにごろんと寝ころんだククルは、思わず声をかけてしまう。
だが、声が返ってくることはなかった。
「あ……。そっか。獣人の私に聖剣はついていったんだっけか。しばらくずっと背負ってたせいで、習慣化しちゃってたわ」
ククルはうつぶせの状態でつい笑ってしまう。
「それにしても、今回のおつかいもいろいろとあったなぁ……。自分が獣人の姿になったり、二人に分裂したり……。聖剣に主として選ばれなきゃ、こんな経験をすることはなかっただろうなぁ」
顔を枕にうずめながら、ククルはしっぽをゆっくりと左右に振りながら、今回のことを振り返っていた。
「私は聖剣から解放されたけど、もう一人の私はこれからが大変だろうなぁ。聖剣を持っている以上、いろいろと期待をかけられるだろうし」
ククルはククールと名乗ることになったもう一人の自分のことを案じているようである。やっぱり、なんだかんだ言っても自分のことだから気になってしまうのだ。
「はあ、私は聖剣から解放されたとはいえ、やっぱり気になっちゃうなぁ。なんだかんだ言っても私のことだもん」
どうやらククルは、もう一人の自分に聖剣を押し付けることができて安心できると思っていたが、結局そうならなかったことで落ち着かないようである。
だが、いつまでもうじうじと考えているのは自分らしくないと、あおむけになって体を起こすと、自分の頬を勢いよく叩いていた。
「ええい、くよくよするな。私には帰りを待つ可愛い家族がいるんだもん。気にはなるけれど、私の仕事には関係ないわ。頑張れ私!」
ククルは大きな声で宣誓すると、そのまま勢いよく部屋を出ていった。
どこにやって来たかと思えば、そこはメイド長の部屋だった。
「メイド長!」
「なんですか、ククルさん」
突然、大きな声で突撃をされて、メイド長もさすがに困惑しているようだ。
「今からできる仕事はありますか?」
働きたいククルは両手の拳を握り、目をキラキラと輝かせ、鼻息荒くしっぽを左右に振りながら仕事を頼まれないかと待っている。
あまりにもキラキラした目を向けられて、メイド長もさすがに困っている。何をどうしたらこんな風に仕事を欲しがるのか、まったく分からない。
基本的に、こういった雑用は魔族は嫌がるものである。それをここまで欲するあたり、やはりククルは普通の魔族ではないようだった。
「ほう、仕事が欲しいですか……」
「はい、欲しい……で、す……」
聞こえてきた声に元気よく返事をするククルだったが、その姿を見て段々とトーンダウンをしている。
それもそうだろう。そこにいたのは、魔王の補佐しているザスカスだった。
補佐ということは、魔族においても上位の上位。魔王様と同様に、そう簡単に会える人物ではないのだ。
「これはザスカス様。どうしてこちらにおいでなのでしょうか」
メイド長は疑問に感じ、ザスカスに問いかけている。
ところが、その質問と同時に鋭い視線を向けられて、メイド長は黙り込んでしまう。
さすがにメイド長でも、ザスカスよりはずいぶんと下の地位にあたるらしい。
「そこなコボルト、名を何という」
「わ、私ですか?」
「そうだ」
「く、ククルと申します」
ザスカスから名を聞かれたククルは、正直に名前を名乗る。
「そうか、ククルか。……ついて来い」
「は、はい……」
ザスカスについてくるように言われたククルは、メイド長に軽く頭を下げてから、ザスカスの後を追ってメイド長の部屋を出ていく。
魔王城の中を、両手を前に添えた状態で歩いていくククル。途中、周囲の魔族から視線を向けられて、なんとも生きた心地のしないククルなのである。
(わ、私、一体どうなっちゃうんだろうかな……)
魔王の補佐を務める魔族から声をかけられたので、あれこれといろんな思いが頭の中を駆け巡ってしまう。
あらゆる事態を想定して目が回りそうになりながらも、ククルはザスカスの後をついていく。
そうしてやって来たのは、なんともひときわ目立つ大きな扉だった。
(うわぁ、立派な扉。ここの部屋にいる方って、どんな魔族なんだろう)
現実逃避に入ったククルは、思わずそんなことを考えてしまう。
だが、その呆けた頭も、次のザスカスの言葉で一瞬で現実に引き戻されてしまう。
ククルの目の前で、ザスカスが扉をノックする。
「魔王様、例のコボルトを連れて参りました」
(ま、ま、ま……魔王様?!?!)
扉の中に向かってザスカスが呼び掛けた相手に、ククルは全身の毛を逆立てて驚いてしまう。もちろん、しっぽだって完全に直立してしまっている。
「そうか。うむ、入れ」
「はっ!」
扉の中からは、実に魔力のこもった声が聞こえてくる。あまりの恐ろしさに、ピンと立ったしっぽも、耳と一緒に力なくしょげ返ってしまう。
魂が抜けていく気がするククルに構うことなく、部屋の番兵が扉を開ける。
予想外の事態に見舞われたククルは、一番会いたくなかった相手とご対面を果たすことになりそうだった。




