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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第20話 メイドコボルト、不安になる

 ククルの目の前に、メイド服を着たコボルト状態のククルが現れた。


「なんで私がもう一人いるの?」


「えっ、なんで私の目の前に私がいるの?」


 ククルは混乱を極めた。これも聖剣がほとんど説明をしないまま魔法を使ったせいである。


『ご安心めされい。我の魔法によって二人に分かれてしまったが、どちらも本物の主でございますぞ』


「安心できるわけないでしょ!」


 聖剣が自慢げに話すものの、二人のククルが同時に聖剣にツッコミを入れている。さすがは同一人物、息がぴったりである。


「それはそれとして、二人とも本物だとするのなら、聖剣はどっちにつくというのかね」


 トールソンが疑問を口にしている。

 もちろん、トールソンには聖剣の言葉が聞こえるわけではない。だが、目の前の二人になったククルを見れば、当然ながら自然に生じてしまう意見である。


『無論、獣人族の姿に化けた方だ。我をしっかりと扱えるようになってもらわねば困るからな』


 聖剣の方からはトールソンの言葉を聞き取れるので、しっかりと質問に答えている。無論、ククルにしか聞こえないのだが。


『この魔法は過去にも何度か使ったことがあってな、我はついていく主をしっかりと選べておる。であるからして、我が獣人の方を主とすれば、そこで我の主はそちらとなることになるのだ』


「ということは、私は怯えずに魔王城で仕事が続けられるのね?」


『そういうことだな』


「やったぁ。これで弟や妹たちに危険が及ぶことがなくなるのね」


 ククル(メイド)が嬉しそうに喜んでいる。

 だが、ククル(獣人)の方は不満の表情を浮かべていた。


「ちょっと待ってよ。それじゃなに、私の方はもう家族と会えなくなっちゃうってわけ? 聖剣を背負わされて、魔物や魔族と戦わされることになるんでしょ?」


『ま、まあ、そうだな。だが、家族と会えなくなるわけではないぞ。第一、主たちコボルト族は嗅覚に優れておろう。姉のにおいを感じ取れば、すぐに分かってくれると思うぞ』


「ぐぬぬぬぬ……」


 クルル(獣人)は聖剣の苦しい言い訳に反論できなかった。確かに姿が変わっていても、においで判別してきそうだからだ。

 一般的にコボルト族は頭が悪いが、嗅覚と勘の鋭さだけは魔族の中でも高い方に分類される。それをククル自身も認識しているので、聖剣の苦し紛れに反論できないわけなのだ。


「しかし、ククルが二人になったとなると、どう呼べばいいんだ?」


「ククルといえばメイドのコボルトの方が印象に強い。なので、こっちの獣人型の方が別の名前を名乗ればいいのではないかな」


「領主様もそう思いますかね」


 ククルの様子を見ていたトールソンとジャックがなにやら話をしている。その話は、ククル(獣人)の耳にもしっかりと入っており、ククル(獣人)は二人を睨み付けていた。


「何を勝手なことを言ってるんですか! 親からもらった大切な名前、そう簡単に捨てられるかっていうんですよ!」


「でも、私。私たちが同じ名前を名乗っていては混乱をしてしまうわ。本来の私と違うあなたが違う名前を名乗るのは、当然じゃないかしら」


「ちょっと、私?! 自分はメイドの仕事を続けられるからって、面倒を全部私に押し付けるの?」


「いや、そういうわけじゃないけど……、ほら」


 二人のククルが言い争っている。本人同士が言い争うという光景は、なんともシュールなものである。

 しかし、その言い争いは長くは続かなかった。


「はあ、分かったわよ。私が我慢すれば、すべて丸く収まるんだものね」


「ごめんね、私」


 ククル(獣人)は結局折れた。自分が元の自分と違う姿だから、自分が違う名前を名乗るのが筋だと諦めたのである。

 ククル(メイド)は両手を合わせて頭を下げて謝っている。こうしたやり取りからしてみても、やはりククルは普通のコボルトとは明らかに違うように思える。

 ようやく二人の言い争いが終わったかと思うと、ククル(獣人)が腕を組んで唸り始めた。

 そう、自分の偽名を考え始めたのである。

 トールソンとジャックは間に入りづらく、その様子をじっと見守るしかなかった。


「よし、決めたわ」


 目を伏せて考えていたククル(獣人)は、ようやく自分が名乗る名前を決めたようである。


「私はククールを名乗るわ」


「ほぼそのままじゃないか!」


 ククル(獣人)改めククールが言い放った名前に、ジャックがすぐさまツッコミを入れていた。凄まじい反応速度である。


「私もそれでいいと思います」


 ククル(メイド)も手を合わせて喜んでいる。こういうところはコボルトらしい単純さである。

 ククールとククルの様子を見ていたジャックは頭を抱え、トールソンもあまりの単純さに顔を引きつらせていた。だが、本人たちがそれでいいのならと、トールソンとジャックは認めることとなった。


「まったく、持ち主である私に断りもなく変なことをするから、妙なことになったじゃないの。責任を取ってもらいたいものだわ」


『無論だ。我は主たちを守るために、あらゆる手を尽くそうではないか』


「本当に頼みますよ。家族を養うために安定した職場である魔王城を選んだんですからね、私は」


 聖剣は二人のククルから必死のお願いをされていた。

 自分の主として選んだのだから、それは当然だと言い張る聖剣だが、二人のククルは不安しかなかった。


「それじゃ、私は用事を済ませて魔王城に戻ることにしますね。私、じゃなかったククール。また会いましょう」


「ええ、私。くれぐれも魔王様にだけは気をつけてよ」


「分かっているわ」


 こうして、ククルが二人に分裂するという珍事が発生したが、どうにか混乱は収束したようである。

 聖剣は事態を解決したと自慢げにしているが、その実、事態を余計にややこしくしただけなのだった。

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