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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第19話 メイドコボルト、二人になる

 領主邸にやって来たククルは、領主であるトールソンと出会う。


「おお、ククルじゃないか。ずいぶんと変わった姿をしているな」


「なんで分かるんですか?!」


 ジャックと一緒にトールソンと出会ったククルは、正体を一発で見破られて思わず叫んでしまっていた。

 街の中を歩いていた時は街の誰にも気づかれなかったというのに、予想外の展開にククルは嘆くばかりである。


『なぜ、我の幻影魔法が通じぬ……。人間すらも欺ける魔法を使ったはずなのに……』


 当然ながら、聖剣も強いショックを受けていた。


「それはそうだ。背負っているのは聖剣だろう? それを見抜けてしまえば、すぐに正体は分かるというものだ。なにせ、聖剣を扱えるのは、一時代に一人以下なのだからな」


「そ、そういうことですか……」


『かはっ!』


 トールソンがククルということを見抜いた理由を話すと、まったく想像していなかった理由だったからか、ククルは困惑した表情を浮かべている。聖剣も盲点だったと言わんばかりの大ダメージを受けていた。


「コボルトの時も可愛いとは思っていたが、その姿もなかなか似合っているな。服装も冒険者っぽくて実にいいものだ」


「もう、どこを見ているのですか。私はこんな服装は恥ずかしいのですけれどね」


 トールソンの感想を聞いて、ククルは思わず自分の体を隠すような動作を取っている。

 だが、ククルは分かっていなかった。それがさらに自分に視線を集めさせる行動だということを。


「それにしても、その格好はどうしてなのだろうかな。コボルトにはそんな能力はなかったと思うのだが?」


「あっ、これは聖剣の力ですね。聖剣の持ち主だと分からないようにするための魔法だとか。それで、私をコボルトだと分からないようにしてくれたみたいなんですよ」


「なるほどな」


 質問に答えたククルの言葉を聞いて、トールソンはとても納得したようだった。


「俺も最初は驚きましたけど、領主様と一緒で剣を見てすぐに分かりましたよ」


「ううっ……」


『ぐぬぬぬ……』


 ジャックの証言で、ククルと聖剣は追い打ちを食らってしまう。本当に、そのくらい聖剣というのは目立つのである。


「それにしても、ずいぶんと人間に近い姿になったものだな。その姿なら獣人と言い張って十分通じる姿だぞ」


「は、はあ……、ありがとうございます」


 なぜかわからないが、礼を言ってしまうククルである。

 それに対して、トールソンはにこにこした笑顔を向けている。一体どういうことなのだろうかと、ククルはかなり強い警戒を示している。


「そうだ、ククル」


「なんでしょうか、領主様」


 トールソンが声をかけてくるものだから、ククルはかなり警戒をしながらトールソンを見ている。

 耳はピンと立っているし、しっぽもまったく動かない。かなり強い警戒の表れである。


「せっかくその姿になったのだから、私の街で冒険者をしてみる気はないかな?」


「お断りします」


 トールソンの申し出をほとんどかぶせるような感じで断るククルである。あまりにも早い拒否だった。


「即答じゃないか」


 これにはジャックもびっくりである。


「私は魔王城で働くメイドです。実家に戻ればたくさんの弟や妹が待っています。そんな私が、人間たちと一緒に暮らせるかというんですよ」


 ククルは魔王城で働くメイドということに、強い誇りを持っているようだ。それに加え、養わなければならないたくさんの家族のことをはっきりと告げている。

 魔族としての矜持もあって、人間社会に溶け込むことを断固として拒否しているようなのである。


「それに、聖剣を持っている以上、人間に与すれば、魔王様へと牙をむかざるをいけなくなります。私は魔族なのですから、断固としてその申し出を受けるわけにはいかないのです」


 そう、ククルが拒否をする最大の理由が魔王への忠誠なのである。多くの魔族が持ち得る感情ゆえに、こればかりは仕方がないというものだ。

 ところが、話を聞いていた聖剣が、思わぬことをククルに提案してくる。


『我の魔法を使えば、魔王城で働きつつ、こちらでも生活できるようになるぞ。稼ぎが増えれば、それだけ家族を楽に養えるようになるというものだ』


「あのですね、聖剣。何をふざけたことを言っているのですか」


 あまりにも理解不能な話だったので、ククルは聖剣に対して強い口調で文句を言っている。

 このククルの態度を受けて、聖剣は口でいうよりも実際を見せた方が早いと、何か呪文のようなものを唱え始めた。


「ちょっと、何を……」


 ククルが問い詰めようとしたその時だった。

 ククルの隣で、ボフンという音ともに煙が発生する。

 その煙が晴れた時、そこにはなんとも驚くべき光景があった。


「えっ、私……?」


「私がもう一人いる?!」


 そう、獣人の姿となったククルの隣に、元のメイドの姿をしたコボルトのククルが現れたのである。


『ふふふっ、これが我の特異な幻影魔法のひとつ、分身魔法だ』


「はあ?!」


 聖剣が得意げに言い放った言葉に、ククルは表情を歪ませて聖剣をじっと見つめている。

 突如として二人になったククルを前に、トールソンとジャックも大混乱である。

 一体何がどうなっているのか。しばらく領主の部屋の中は状況の理解に追われてしまうのだった。

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