第17話 メイドコボルト、変身する
叫び声を聞いたククルは走っていく。
しばらくしてたどり着いたその場所では、少女が魔物に襲われているようだった。
「あれは、私を襲ったフォレストファングだわ。なんてことでしょう。このままではあの子が危ないわ」
目の前の絶体絶命の状況を見て、ククルは真剣に助けようと考えているようだ。
しかし、ククルはちょっと渋っているようだった。
その表情を見た聖剣は、ククルにある提案をする。
『ここでこそ、我の幻覚魔法の出番ですな。主の姿を変えさせてもらいますぞ』
「ちょっと、どうするつもり?」
『なあに、人間の冒険者風に姿を見せるのですよ。さあ、主は我を構えて、いつでも助けられるようにして下され』
「分かったわ」
どういうことか分からないが、ククルは聖剣の言葉に頷いていた。
『それではいきますぞ』
聖剣がそう叫ぶと、光がククルを包み込み、その姿が変わる。
体の毛は肘から先と膝から下くらいまでに減り、耳としっぽはそのまま残ったいわゆる獣人と呼ばれるような姿に変わっていた。だが、顔立ちはどちらかといえば獣寄りのようだ。
服装も、メイド服から少しばかり露出の高いものに変わっていたが、状況が状況ゆえにククルはあまり気にしていないようである。
『さあ、行きますぞ、主』
「ええ!」
聖剣の声に応えて、ククルは聖剣を握りしめて飛び出していく。
少女は迫りくるフォレストファングから、地面にへたり込んだままじりじりと後退していく。
幸いほとんど無傷のようだが、もはや後がない状態となっていた。
「いやぁ……、こんなところで魔物に会うだなんて。薬草を持って帰らないといけないのに……。誰か助けて」
少女は首を左右に振りながら、木にぶつかりながらもどんどんと下がっていっている。
その少女をじりじりと、フォレストファングが追い詰めていっている。
「ガアアアッ!」
「キャーッ!」
ついに我慢できなくなったフォレストファングが、少女に襲い掛かろうと飛び掛かる。
少女は両腕を顔の前に構えて防御を取る。
もうダメだと思った少女だったが、意外なことが目の前で起きた。
「ギャンッ!」
フォレストファングが吹き飛んでいたのだ。
「こんな小さな子を食い殺そうだなんて、私が許しませんよ」
大きな剣を構えた女性が、少女の前に立っていた。
よく見ると、体が震えているようである。
その目の前では、フォレストファングがゆらりと起き上がる。剣をまともに振れなかったので、体当たりになってしまったようなのだ。そのため、ほとんどダメージがなく、このようにフォレストファングは起き上がれてしまったのである。
(ああ、まったく効いていないわ。どうしたものかしら。勢いよく飛び出してきたのに、剣もまともに振れないんじゃ助けられもしないじゃないの)
獣人の姿となったククルは、どうしたらいいものかと剣を構えたまま棒立ちである。
いくら聖剣を持っているとはいえ、その本質はただのメイドなのだからしょうがない。
「グルルルル……」
狩りを邪魔されたフォレストファングは、その怒りからターゲットをククルに切り換えたようである。その目を完全にククルに向けており、怒りに満ちた唸り声をあげている。
(ひ、ひぃーっ!)
ひと睨みをされてしまったククルは、非力なコボルトらしく、心の中で完全に怯えてしまっている。
「お、お姉さん……」
そんな中、助けた少女から心配そうに声をかけられる。
「だ、大丈夫よ。私がきっと助けてあげるから」
ククルは少女の方を見て、震えながらもにこりと笑っている。
だが、その一瞬の隙を、フォレストファングが見逃すわけがなかった。
『主、飛び掛かってきますぞ!』
「えっ?」
聖剣が叫ぶと、ククルはフォレストファングの方へと見る。
その時には、すでにフォレストファングは目の前まで迫って来ていた。
「いやああっ!」
あまりの恐怖に、ククルはでたらめに聖剣を振り回す。
「ギャワンッ!」
その一撃が、運よくフォレストファングを斬り裂き、フォレストファングはその場に倒れてしまった。
「え……?」
思わぬ事態に、ククルは目が点になってしまっていた。
「すごい……。お姉さん、すごーいっ!」
驚くククルに対して、一撃でフォレストファングを倒してしまった光景を目撃した少女が飛び跳ねて喜んでいた。
たまたま偶然とはいえ、倒せてしまった事実に、ククルは剣を持ったまま呆然と立ち尽くしている。
「ありがとうございます。この恩をどうお返ししたらいいのやら」
少女が近寄ってきて、ククルに対して頭を下げている。
ところが、状況がいまいち把握できていないククルは、その少女の行動にもまったく反応できずにいた。
しばらくそのままでいると、がさがさという音が聞こえてきた。
まさかまだフォレストファングがいるのかと、少女が怯えたようにククルのそばに寄ってきた。
ククルも我に返り、音のする方をじっと睨みつけている。
がさっという音ともに、何かがククルたちの前に姿を見せる。茂みから姿を見せたのは、ククルと聖剣の面識のある人物だった。
「おい、大丈夫か?!」
ククルたちに声をかけてきた人物は、そう、近くの街に住んでいるジャックだったのだ。




