第14話 メイドコボルト、仕事を再開する
魔王城へと戻ってきたククルは、ザスカスとメイド長の二人を通じて近くの街のことを報告していた。
もちろん、コボルトであることがばれたことと聖剣の話は伏せておいた。こればかりは知られるわけにはいかなかったのでしょうがない。
お使いで購入してきた品物も渡し、ククルはようやくいつも通りの魔王城での仕事へと復帰することができた。
「あら、無事に戻ってこれたのね」
先輩メイドから、ずいぶんと素っ気ない声をかけられている。
「はい。このような姿なのでどうなるかすごく心配でしたけど、どうやら獣人の子どもと勘違いしてくれたみたいでして……。えへへ」
はっきりいって戻ってくるとは思っていなかったということだが、ククルは純粋なのか先輩メイドの悪意をまったく感じ取れていないようだった。
純粋なククルの反応に、先輩メイドは表情を引きつらせていた。嫌味が通じないことに驚いていたようである。
(まったく……。主としたら純粋すぎるというものだ。この目の前にいるメイドの悪意をまったく感じ取れておらぬとはな……。この先が思いやられるぞ)
ククルが感じ取れない代わりに、聖剣はひしひしと悪意を受け取っていた。そのこともあってか、聖剣はククルの身の上をつい心配してしまっていた。
なにせ聖剣は使い手がいてこそ初めて真価を発揮できるのだから。ここでククルに何かあっては、再び百年近い眠りにつかなくてはいけなくなってしまう。
このような事情があるからこそ、聖剣はかなり気を揉んでいるというわけである。
(うーむ。いずれ主をここから脱出できるようにせねばならぬな。この環境にいては、主にいずれ危険が迫るのは間違いない。だが、どうしたらいいものかな。主には多くの兄弟がいるらしいからな……)
自由の利かない状況に、聖剣は大きなため息をついていた。
聖剣がうんうんと悩んでいる間、ククルはメイドとしての仕事を再開させていた。
戻ってきたその日から仕事とは、魔王城の使用人たちの仕事はなかなかにハードである。
さすがに宝物庫の掃除に回されることなく、魔王城のホールの掃除を申し付けられていた。
長旅から帰ってきて疲れているかと思いきや、ククルは掃除をきびきびと行っている。さすがは体力自慢のコボルトといったところだろうか。
はたきやらぞうきんを持って、ククルは魔王城のホールを徹底的にきれいに磨き上げていた。
いくら魔王城とはいえど、時々他の魔族が訪れたりすることもある。そのため、威厳を示すために、魔王城の中はきれいに保たれるようにしているというわけだ。
掃除を一生懸命しているククルに対して、聖剣はふと問い掛ける。
『ククルよ。おぬしは魔法は使えぬのか?』
聖剣の問い掛けに、ククルは一度動きを止めてきょとんとしている。
「使えませんよ。コボルト族はそういった種族ですからね」
『ふむ、そうか……』
ククルは聖剣の問い掛けに答えると、再び手を動かして掃除を続けている。さすがはメイドである。
答えを聞いた聖剣は、ちょっと考え込んでいるようだった。
なんで唸っているのかは分からないが、気にして動きを止めてはメイド長や他のメイドから怒られてしまう。ククルは聖剣のことを気にしながら掃除を続けていた。
しっかりと磨き上げて道具を元の場所に戻してきたククルは、ちょっとした食事を食堂で食べるとようやく部屋へと戻ってきた。
辺りはすっかり真っ暗である。
『主、お使いから戻ってすぐの仕事、実にお疲れであるな』
「ええ。なんか働いているって気がして、毎日が充実している気がするわ。やっぱり、メイドっていうのは私にぴったりの仕事だったのかな」
聖剣の労いを聞きながら、ククルはのんきに伸びをしている。
なんてことだろうか。大家族で育ってきたこともあってか、ククルはすっかりワーカーホリックのようなのである。
『主……。さすがに長旅を伴った仕事の直後に仕事はするものではないぞ』
ククルの態度を見て、さすがの聖剣も引いているようである。
「なんで? むしろ、人間の街で受けたような接待の方が、私は退屈だったかなぁ。いや、初めての体験で楽しかったといえば楽しかったんだけどね」
聖剣の言い分に対して、ククルはにこやかにこんな風に答えていた。
人間の街での体験を喜んでくれているようだが、退屈だとも言っている。そのせいで聖剣はククルの気持ちがよく分からないようである。
『やれやれ……。これが魔族というものなのかな』
どう反応していいのやら、聖剣は戸惑いを隠せないようだった。
「よーし。しっかりと休んでまた明日から魔王城での仕事を頑張ろうっと。頑張って働いて、家族を楽させてあげるのよ」
ククルは明日からの仕事に意気込みを示している。
どうやら、多く存在する兄弟たち家族のことを考えてのようだった。
なるほど、仕事ばかりする背景には家族思いの気持ちがあってこそかと、聖剣は納得をしていた。
とはいえ、ククルは聖剣の使い手である。このまま魔王城でずっと働いているわけにもいかないだろう。
いずれは自分を握って魔王を討伐してもらいたいものだが、ククルの性格上は難しいだろう。
はてさてどうしたものかと、聖剣は悩んでしまう。
ひとまずは、ククルと一緒に過ごしながら、ちょっとずつ考えていこう。
聖剣は様子を見ることに決めたようである。




