第13話 メイドコボルト、帰還を果たす
翌日、ククルは魔王城へと向けて街を去っていった。
トールソンとジャックは、街の入口までやって来てしっかりと見送りをしていた。
「帰っていっちゃいましたね、領主様」
「ああ、そうだな」
ジャックがどことなく名残惜しそうに話すと、トールソンも少し寂しそうにしながらも淡々と言葉を漏らしている。
見送りが終わった二人は、領主邸へと戻る。
トールソンの私室に入ると、二人はククルのことを思い出しながら話をしている。
「しかし、まさかコボルトとは思いませんでしたね」
「私も驚いているよ。少なくとも、私たちの知るコボルトとはずいぶん違うようだけどね」
ジャックに話しかけられたトールソンは、感想を交えながら答えている。
「聖剣を持っていることもそうだし、あの子はしばらく様子を見ておいた方がいいだろう。もし、魔王城を追い出されるようなことがあれば、私たちで保護してやらねばな」
「そうですね。しかし、もしそうなった時には、ククルの兄弟たちはどうなるんですかね」
ククルの万一の話を切り出すと、ジャックから質問を受けてしまう。
「おそらくは粛清されるだろう。どこに住んでいるかも分からない私たちからすると、助けるということは不可能だからな」
「そうですか……」
トールソンの答えを聞いて、ジャックはなんとももどかしい気持ちになってしまう。
今回初めて会ったというのに、ジャックはかなりククルのことを気にかけているようである。
「ふふっ、ジャックも相当にあの子のことが気に入ったようだな」
「べ、別にそういうわけじゃないですよ。故郷に置いてきた妹のことを思い出して、気になっただけですからね」
「まあ、そういうことにしておいてあげようか」
「領主様……」
くすくすとおかしそうに笑う領主の反応に、ジャックは戸惑いを隠せなかったようだ。
ところが、領主は急に表情を引き締めている。
「それにしても、あのくらいの子がここまで徒歩でやってこれるとは、相当にここは魔王城から近いということだな」
「あっ、そういえばそうですね」
領主の言葉で、ジャックは気が付いたようである。
森でククルと出会った時、一人で歩いていたことを思い出したのだ。
いくら魔族とはいえ、明らかに幼い少女が一人で森の中を歩いていたのだから、そこまでは安全にやってこれるということなのだろう。
「そうなると、いつ魔族がここに攻めてきてもおかしくないというわけだ。警備は強化しておくに越したことはないだろうな」
「分かりました。俺もいつでも戦えるようにしておきます」
「ああ。だが、あまり無茶をするんじゃないぞ。故郷で帰りを待つ家族がいるのだろう?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、俺は最前線を志望してやって来たのですから、覚悟はできておりますとも」
「ふふっ、頼もしい限りだな」
ジャックのやる気に、トールソンは思わず笑みをこぼしてしまっていた。
話を終えて、トールソンはジャックを下がらせる。
窓までやって来ると、遠くの空を見ながらトールソンはククルのことを思い出していた。
「聖剣の主となった魔族の少女か……。このことが意味することとは一体何なのだろうな。なんにしても、魔族との戦いの最前線として、魔族の動きを見張っていなければならない。今回はおとなしく帰したが、状況次第では今後はそうはできなくなるかもしれないな」
トールソンは大きなため息をついていた。
それだけ、ククルの扱いには苦心したということだろう。
顔を上げたトールソンは、再び窓の外をじっと眺め続けたのだった。
―――
一方のククルはというと、帰りは地図に従って魔物の存在しない道を無事に進んでいた。
「はあ、正体を見抜かれたとはいえ、まさか無事に帰してもらえるだなんて思ってもみなかったわ」
『まあ、我のおかげよな』
「そうですね。聖剣のおかげで助かったと、ここは正直に思っておきますよ」
『なんだ、その不服そうな物言いは』
ククルの反応を聞いて、聖剣はなんとも不満そうである。
「とりあえず、今回のことはきちんと報告しなきゃ。それが目的だったわけだし」
『まあ、そうよな。だが、正体がばれたことは言わぬ方がいいとは思うがな』
「あっ、それはそうかも知れませんね。正体がばれたなんて知られたら、私が殺されかねませんものね」
『うむ。我が力を貸せば殺されることは回避できるであろうが、おぬしはお尋ね者になるし、家族にも危害が及ぶ可能性がある。報告することと黙っておくこと、それらをよく整理しておこうではないか』
「分かりましたよ。それじゃ、野宿の時にでもしっかりまとめましょうか」
森の中を歩きながら、ククルと聖剣は、魔王城に戻った時の報告内容について話し合いをしていた。
なにせいろいろと問題が起こりえないとも限らないからだ。平穏な暮らしを望むククルからすれば、相当に望ましくない状況になりかねない。それだけは絶対に避けなければならないのだ。
こうして、魔王からの命令をどうにかこなすことができたククルは、やって来た道を八日間かけて、どうにか無事に魔王城へと戻ることができたのだった。




