第12話 メイドコボルト、もてなされる
ククルはライブリーの鑑定により、種族が魔族のコボルト族であることがばれてしまった。その上、魔王城に住んでいることまでもバレてしまった。
一体どうなってしまうのかと震えるククルであったが、トールソンたちが取った行動は意外なものだった。
「えっと……?」
ククルは、領主邸の客室へと案内されていた。
予想外の扱いに、椅子に座りながら目をぱちぱちとさせている。
「私、どうなっちゃうんだろう……」
『主。どうやら、我のおかげで命拾いをしたようですな』
「命……拾い?」
聖剣が話し掛けてきたので、ボケッとしながらもククルはなんとか言葉に反応している。
『主が我の声を聞けるということで、魔族でありながらも聖剣の主であることを認め、その扱いに困っているのだろう。なにせ魔王城で働くメイドなのだからな』
「な、なるほどぉ……? でも、完全に助かったというには、まだ早い気がするわね」
聖剣がちょっと楽観視しているようだが、ククルはコボルト族の勘が働いたのか、まったく油断をしていないようである。
とにかく、状況を見極めるまで下手な動きをしないようにと、ククルはそのまま椅子に座り続けていた。
しばらく椅子に座り続けていると、部屋の扉が叩かれる。
「はい、どちら様でしょうか」
「ククル様、領主様のご命令でお体を清めに来ました」
「はい?」
ククルがノックに反応すると、予想外な答えが返ってきた。
体を清めに来た。つまりはお風呂ということである。予想もしていなかった状況が襲い掛かってきたことで、ククルの頭はさらに混乱を極めていた。
あまり距離を取っては聖剣が背中に装着されてしまうので、ククルはされるがままにされながらも、聖剣の位置にはとにかく気をつけてほしいとお願いしていた。
そのため、ククルが湯船に入っている間、侍女が一人、真横でずっと聖剣を抱えている状態という奇妙な状況になっていた。
お風呂から出たククルは、どこから用意したのか分からない服に着替えさせられていた。
コボルト族の村でも魔王城の中でも着たことのない服装に、ククルは目を白黒とさせるばかりである。
「まあ、よくお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
ククルは侍女たちに褒められてはいるものの、その背中には聖剣が背負われている。なんともミスマッチな格好である。
着替えが終わっても、自分が一体どういう状況に置かれているのかまったく把握できないククルは、言われるがままに流されていく。
気が付くと、領主と一緒に食事をとるとかいう、わけのわからない状況になっていた。どうしてこうなった。
「あ、あの、領主様?」
気がついたら椅子に座っていたククルは、おそるおそるトールソンに声をかけている。
ククルに声をかけられたトールソンは、少し柔らかな笑みを浮かべてククルへと顔を向ける。
「どうしたのかな」
「いえ、魔族であり、魔王城で働く私が、なぜこのようなもてなしを受けているのか、とても理解ができないのです。どうして、領主様はそのようなことをなさるのでしょうか」
ククルは今の正直な気持ちを、領主へとぶつけていた。
人間と魔族は敵対関係である。しかも、その中でも最大の敵である魔王が住む城で働いているというククルなのだ。普通に考えれば、このような扱いはされるわけがない。
だからこそ、その疑心暗鬼が領主へのこの質問につながっているのである。
「うむ。私としても不思議な気持ちなのだ。魔族であれば問答無用で倒すべきというのは、私も思っていることだ。だが、君はコボルトというには知能を持ちすぎている。それに、その背中のものもあるからね」
「やはり……、やはり聖剣が原因なのですか?」
トールソンの話を聞いて、ククルは再度疑問を投げかけている。
「ああ。聖剣は選ばれた者にしか扱うことができない。それに、聖剣の主が死ねば、次にその主が選ばれるのは何百年先と言われている。つまり、君をここで殺してしまっては、私たちには何の得がありはしないというわけなんだ」
「そういうことですか……」
トールソンから聞かされた話に、ククルは表情を曇らせる。
自分がこうして扱われているのは、聖剣を持っているからということをはっきりと言われてしまったからだ。
だが、魔族であるククルには、だからといって素直に受け入れられないというものなのだ。
「なぜ、私は聖剣の主として選ばれてしまったのでしょうかね」
「それは私には分からない。その聖剣に聞いてみるしかないと思うよ」
「そう……ですね」
トールソンとの話を終えて、ククルは背中の聖剣に視線を向けて、大きなため息をついている。
「私としては、聖剣の持ち主である君を歓迎するよ。だが、魔族である以上、よそへとはとてもじゃないが報告はできない。当面は私たちだけの秘密ということにしようと思う」
「いいんですか、そんなことをして」
「もちろんよくはないだろう。だが、これは君にとって利点はあると思うよ。なにせ、聖剣を持っているからね」
「ううむ……」
トールソンの言葉に、ククルは黙り込んでしまった。
「まあ、今のところは食事をしてしまおう。難しい話はその後だ」
「分かりました」
そんなわけで、ククルは領主と食事をすることになった。
領主邸で食べた料理は、ジャックのところで食べたものよりもおいしく、あまりのおいしさに耳もしっぽもピンと立ってしまうくらいだったという。
そのため、先程の小難しい話で沈んでいた気持ちもすっかり戻ったようである。
ククルは、人間の住む街という敵地の中にいるということを忘れて、ただひたすらに食事を平らげていったのだった。




