第11話 メイドコボルト、からかわれる
「この者、魔族でございます。コボルト族でございますぞ」
ライブリーの言葉を聞いて、ククルは表情を引きつらせてしまっている。
自分の正体をしっかりと見破られてしまったのだ。こうなってしまうのも無理もないだろう。
その背景には、自分たち魔族とジャックたち人間とが長らく戦っているという情勢背景もある。魔族であることが分かったのであれば、自分は討たれてしまう。ククルは強く警戒しているのである。
ところが、トールソンとジャックは驚いてククルを見るばかりで、何をしてくる様子もなかった。
「え……と……?」
あまりにも意外な状況に、ククルは顔を引きつらせて固まっている。
「ククル、お前ってコボルトだったのか」
ようやくジャックが口を開いたかと思うと、正体を確認する質問だった。
「はい。私はコボルト族のククルです。十五人兄弟の長女です」
その質問に、ククルは正直に答えていた。あと、なぜか家族構成まで答えている。
「コボルト族は子だくさんとは聞いているが、事実だったのか……」
トールソンは驚きのあまり、ククルの家族構成に反応していた。
「あの。えと……。私って捕まったり討たれたりしないんですか?」
どう反応していいのか分からずに、ククルは思わず処遇について尋ねてしまう。どれだけ不安かというと、耳もしっぽも力なく垂れてしまうくらいだ。
なんといっても非力なメイドであるククルが、単独で敵陣の真っただ中で正体をばらされてしまったのだから。こういう反応なってしまうのも無理もない話だった。
「ま、まあ。ちょっと待ってくれ。状況を整理させてほしい……」
ジャックはいまいち理解が追いつかないようで、待ったをかけているようである。
「ら、ライブリー。もう一度鑑定にかけてくれ。その剣も含めてな」
「はっ、畏まりました」
トールソンも混乱しているようで、ライブリーにもう一度鑑定魔法を使うように指示をしていた。
ところが、ククルの鑑定結果は変わらなかった。それどころか、剣まで鑑定にかけたせいで、更なる衝撃が三人に襲い掛かる。
「この剣……聖剣ですぞ?!」
「なんだと?!」
そう、ライブリーの鑑定魔法は、聖剣の偽装魔法を貫通してしまったのだ。正確な鑑定が出てしまい、ククルはさらにあわあわと慌て始めていた。
『ぐっ……。我の偽装が通じぬとはな。やはり、我のごまかしは魔族にしか通じぬのか。無念なり……』
鑑定魔法の結果を受けて、聖剣もショックを隠し切れないようだった。
「ククル、どこまでが本当で、どこまでが冗談なんだ……?」
ジャックはククルにお願いするかのように質問をしている。
「申し訳ございません。鑑定結果はすべて正しい結果でございます。私はコボルト族であり、背中の剣は聖剣で間違いありません。本人も仰られていますからね」
「なんと、剣と話ができるのか?!」
ククルが観念して正直に話すと、トールソンは目を丸くしていた。
「剣と話ができるわけないでしょう、領主様」
「いや、聖剣は特殊でな。選ばれた持ち主とは話ができるのだよ。しかし、いつぞやに魔族によって奪われたとは聞いていたのだが、まさかこのようなことになっているとはな……」
トールソンはまじまじとククルの姿を見ている。あまりにも見つめてくるものだから、ククルは恥ずかしそうにしている。
「あ、あの……。いくら魔族だからといっても、そんなに女性を見るものではないと思います」
「ああ、すまないな。いや、本当にコボルトとは思えないくらいしっかりと会話ができているな。君は昔からそうなのかい?」
「え、ええ。そうですね。でも、私、おかしいだなんて指摘を一度もされたことがないのですよね」
トールソンの質問に答えながら、ククルは首を捻っているようだ。
メイド長も同期のメイドたちも、そのことをおかしく思ったものは誰一人としていなかった。それがゆえに、トールソンの質問にこんな反応をしてしまうのである。
「うーん。だったら、君を魔族だといって処分してしまうのはよろしくないかもな。なんといっても聖剣の主だ。毛深い犬の獣人の子どもだといえば、ジャックのようにだまし通せるだろうし、君のことは経過観察ということにしておこう」
「えっ、いいんですか?」
トールソンの判断を聞いて、ククルは思わず喜びつつも疑問を感じていた。
理由としては、今のククルの職場の問題があるからだ。
「聖剣が保管されていたのは、魔王城だろう? となれば、君を泳がしていた方が我々としては利点がある」
「私の職場が分かっていて、そのような判断をなさるのですか? 正気ですか、魔王城ですよ?!」
トールソンの判断を聞いて、ククルは思わず心配してしまっている。相手は敵対する人間とはいえ、ククルの性格のせいかつい心配をしてしまっているようなのだ。
ところが、トールソンは笑ってしまっている。
「そうか、君は魔王の手下なのか」
「はっ!」
トールソンの指摘に、ククルは慌てて口を塞いでしまう。うまく誘導に乗せられてしまったようである。
こういうところは、コボルトっぽさがあるようだ。
いいように遊ばれてしまっているククルだが、その正体を知られてしまったわけである。
はたして、ククルの運命はいかに?




