第1話 メイドコボルト、登場
ここは崖にそびえ立つ魔王城。
魔王を頂点として、魔族たちが世界征服をもくろむ拠点だ。
そこでは今日も、魔王の部下たちが四天王を中心として忙しく働いている。
魔王城の一角にある宝物庫。
そこには、代々魔王の間で受け継がれる物品や、人間たちから奪った金品財宝などが納められている。その中には、剣や鎧といった装備品も数多く収納されている。
宝物庫の掃除を担当するのは、真面目とされる魔族たちだ。
本日はそこに、一人の新人が配属されることとなった。
「いいですか、ククル。ここにあるものは大切なものばかりです。ぞんざいに扱わないように気をつけて下さい」
「はい、メイド長」
やって来たのは、犬の耳にしっぽを持つ、全身もふもふな少女ククルである。
彼女はコボルト族の出身で、たくさんいる兄弟の面倒を見るために、長女として働きに出てきたのだ。
魔王城に勤め始めてからおおよそ二百日。この短期間で宝物庫を任されるのは異例ともいえる。
正面に立つのは、メイド長と呼ばれた通り、魔王城で働く女性魔族の使用人たちを束ねる女性だ。バットレディと呼ばれる、コウモリの羽を持つ上位魔族である。
「手で触る、魔法で掃除をする。この二点は絶対に行わないようにして下さい」
「えっとなぜでしょうか」
メイド長の注意に、ククルは質問をしている。
ため息をつきながらも、メイド長はその質問に答える。
「ひとつは、ここにあるものが貴重なものばかりだからです。とてもデリケートなものばかりですので、取扱注意なのですよ」
「なるほど……」
メイド長の説明を、真剣に聞き入っている。
「それと、中には触れただけでケガをしたり、魔法を反射したりするものも含まれております。だから、この専用のはたきを使って掃除を行うのです。いいですね、ケガをしたくなければ、私の言うことをしっかりと守るように」
「はいっ! 十分、注意いたします!」
びしっと敬礼をして大きな声で返事をするククルなのであった。
注意を受けたククルは、先輩メイドたちと一緒に宝物庫の掃除を始める。
しばらく先輩についてもらって掃除をしていたのだが、そんな中、ククルは気になるものを見つけたようだ。
「あれ、なんだろう。このいい感じの剣は……」
ククルが手を伸ばそうとする。
「やめなさい!」
「ひっ!」
先輩メイドの大きな声で、ククルは体を硬直させてしまっていた。
「それは、聖剣よ」
「せ、聖剣って、魔王様を倒せるっていう伝説の武器じゃないですか。なんでそんなものがここにあるんですか……」
ククルは思わず先輩に質問をしてしまう。
「知らないわよ。でも、噂だと人間たちが魔族に対抗する力を失わせるために、魔王様が部下に奪わせたらしいわよ」
「そ、そうなんですね……。それにしても、なんだか惹かれちゃいますね、この美しさに」
「やめておきなさい。私たちのような下っ端魔族が触れたら、皮膚が焼けただれて治らなくなるわよ。仕事を続けたければ、それには触れないことね。まっ、触れられたとしても封印魔法でがっちり床に突き刺してあるから、抜けないんだけどね」
「は、はい……」
先輩メイドから怖いことを聞かされて、ククルはちょっと腰を引きながらはたきで掃除をしていた。
『……見つけた』
「え?」
何か声が聞こえたような気がして、ククルはきょろきょろと見回してしまう。
「どうしたの」
「いえ、何か声が聞こえた気がして。先輩、先程声をかけられましたか?」
「かけてないわよ。それよりも、さっさと掃除を終わらせるわよ。時間通りに済ませないと、メイド長様がうるさいからね」
「分かりました。頑張ります」
怒られると聞いて、ククルは背筋を伸ばして気合いを入れ直していた。
無事に仕事を終わらせて部屋に戻ったククルは、自室のベッドの上に転がっていた。
宝物庫という、魔王城でも地味ではあるが大切な場所を任されることになって、ククルは誇らしく思っていた。
その夜、ククルは突然目を覚ましてしまう。
「あ、あれ? ここって……」
ククルは驚いた。
使用人たちに与えられた自分の部屋で眠っていたはずなのに、目を覚ましてみると、昼間に訪れた宝物庫の中にいたのだから。
しかも、目の前にはあの聖剣が突き刺さっている。
(なんだろう。不思議と引き寄せられてしまうわ。まるで、この剣が、私に手に取ってほしいって言っているみたいに)
ククルは思わず聖剣に近寄ってしまう。
「いや、さすがにそれはないよね」
そう言いながらククルが聖剣に手をかけた時だった。
すぽっ。
「えっ、すぽっ?」
気の抜けたような音が聞こえてきて、ククルは自分の手をじっと見つめてみる。
「えええっ?!」
思わず声を上げてしまう。なにせそこには、突き刺さっていたはずの聖剣が握られていたのだから。
先輩メイドからは抜けないようにしてあると聞かされていたのに、非力な自分の力で簡単に抜けてしまったのだ。驚いて当然というわけだ。
「ちょっと待って、落ち着こう。私、落ち着こう」
ククルは深呼吸をして一度落ち着くと、剣を元通りに突き刺して部屋を去ろうとする。
パチンッ。
再び妙な音がククルの耳に響き渡る。
「~~~っ!」
今度は声ならぬ声を上げてしまう。
なにせ、どこから出てきたのか分からない鞘に納まった聖剣が自分の背中に背負われていたのだから。
なんということだろうか。
高給が約束されたはずの宝物庫の掃除番になったククルは、その日のうちに聖剣の主となってしまったようである。
魔王を打ち倒すことのできる聖剣の持ち主となってしまったククル。彼女の運命はいかに?!




