5話
沈黙のあと、アーカイブが分厚いファイルを机に広げた。紙の束がばさりと音を立て、全員の視線が集まる。
「翔真の公式サイト、更新履歴を秒単位で分析しました。ここにグラフもあります」
星屑が眼鏡を押し上げ、呆れたように言う。
「秒単位で? それは研究者の仕事でしょう」
「研究です!」アーカイブは胸を張る。
「いや、ファン活動です」星屑が冷静に返す。
ひまわりはグラフを覗き込み、首をかしげた。
「この赤い線、何ですか?」
「彼が絵文字を使った頻度です」
「えっ、そんなの数えたんですか!」
「もちろん。ハートが減っているんです。最後の一週間はゼロ」
炎が身を乗り出した。
「それは意味がある! 彼は愛を隠したんだ!」
「愛を隠すって何ですか」星屑が冷静に突っ込む。
「つまり、彼は生きてる!」炎は声を張り上げる。
月影が低い声で遮った。
「……生きているかどうかより、彼が何を守ろうとしたかが重要です」
「そうそう!」ひまわりが頷く。
「でも、守るって誰を?」星屑が問いかける。
議論は迷走を始めた。
「ファン全員!」炎が叫ぶ。
「いや、グループの仲間!」アーカイブが反論する。
「もしかして、ペット?」ひまわりが天然の一言を放ち、全員が一瞬固まった。
「ペット……?」星屑が呆れたように繰り返す。
「だって、犬好きだったじゃないですか!」ひまわりは真剣だ。
場が笑いに包まれる。だが星屑はノートに書き込みながら冷静に言った。
「笑い話にしてはいけません。彼の言葉は一貫して“笑顔を守る”。対象は曖昧ですが、意志は確かです」
アーカイブはさらにファイルをめくり、プリントを机に並べた。
「ここにSNSのスクショがあります。最後の三日間、彼は夜中の三時にログインしていました」
「夜更かし!」ひまわりが驚く。
「それは普通です」星屑が冷静に返す。
「いや、普通じゃない! 彼は何かを準備していた!」炎が声を張る。
議論は二転三転し、誰も結論に辿り着けない。
「つまり、翔真は生きてる!」炎。
「いや、彼は疲れていた」月影。
「データは不自然だ」アーカイブ。
「ペットかもしれない」ひまわり。
「全部可能性はあるが、証拠はない」星屑。
五人の声が重なり、部屋は混乱の渦に包まれた。推理は迷走し、真相はますます遠ざかっていく。だがその混乱の中にこそ、翔真の影が濃く立ち上がっていた。




