「俺、HDMIなんだよね。」
俺が多動症だと気がついたのは、高校生の頃だった。そのころにはADHDという言葉が浸透しており、自分がそれに当てはまったことがショックだった。
気づいたきっかけは友人から「お前もしかしてさ、多動症じゃね?」と無遠慮に言われたとき、色々考えたがしかし即座に何か言わないといけない焦りから、
「いや、俺HDMIじゃないし」
と言っていた。テレビとコンピューターを繋げてやろう。もうそんな気分だった。焦りから変なことを言うことがある、という特徴に秒速で当てはまり、それから自分の友人コミニティ内では、なんとなーーく触れてはいけないことになった。
その空気感が辛くて、大学に入ってまで友人に気を遣わせるのは流石に申し訳なくなり、できるだけ落ち着いて会話や行動をすることにした。心の中では焦燥感で溢れていた。しかし高校の時の友人と同様の結果になりたくない。焦燥感よりも後悔から由来した自戒が大きかった。
友人が話している教室に、いつ入ろうか悩んでしまう。俺はどうしても返答を急いてしまう悪癖があったので、授業開始十分前に会話に参戦すると息切れする。トイレに入って、少しだけ待とう。俺はそう決めて、トイレの便座に座った。
トイレに入るとテトリスをしてみた。過集中を起こしてしまわぬように、広告が入るたび漫画アプリを二つ開いた。俺は何かに過集中する悪癖があり、こんなトイレの密室で発揮するべきものではない。何か違うことをしたい、何か別のことをしていたい、そういう気持ちに従っているところもある。俺がテトリスと漫画アプリ二つの三角食べをしていると、テトリスブロックよりも上から友人のメッセージが降ってくる。
『お前教室の前おったろ? なんか避けてる?』
俺はびっくりして、ブロックを間違えて詰んでしまった。見られていたのか。自分の周りの空気がいつもよりギチギチに詰まっているように感じる。密室ゆえだろう。まずい。何か返さなければ。焦っていると、すぐに連投されてしまい、より焦ってしまう。確認すると
『お前が俺らまとめてんだから、楽しくねえよ。たすけてくれ〜〜』
とあった。俺は先ほどとは違う種類の驚愕を受けた。俺がまとめている? そんなはずは。俺は単に相手の質問やボケに早く返しているだけだ。それだけでまとめられるはずがない。いや、それが良かったのか?
俺ははやる気持ちのまま、「腹痛」と打って送信した。本当は腹痛なんてない。何一つ体に不調はないし、むしろ快調と言える。理由はもちろん自尊心が上がったからだ。そんなはずがないと理性が言うが、それでも不遜に強く嬉しいと思った。
考えているうちにもう俺は手を洗っていたし、教室に向かおうと足を進めていた。馬鹿みたいだった。理性よりも不遜な感情に押されていく。押し留めるより進むパワーが強い。いや、俺は多動症だから感情の方が早く体に伝達されているだけかもしれない。
結局何でも良かった。別に自分の特徴がどうとかどうでもいい。俺は単に、誰かに迷惑をかけたりしたくなかっただけで、高校の時も気を遣ってもらったのが申し訳なかっただけで、普通でなくなったことではなく普通に扱ってくれないことが嫌だった。
「まじ腹痛」
俺はそう言って会話に入っていく。スマホのメッセは「お前は会話の繋ぎで優秀なんだからはよ来い」と告げている。




