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故障中

作者: はんはん

「ここが七不思議のひとつなんだぜ」


 同級生のタモツ君が、私になぜかドヤ顔で言ってくる。

 

 同じマンションに住む彼は、小学校高学年ぐらいから、学校では話さなくなった。

 それは中学生になった今でもかわらないが、まわりに誰もいない時は話しかけてくる。

 男というのは勝手な生き物だ。

 ママが良く言う言葉だけど、それはパパのことだけではなく、男全般のことなのかもしれない。

 

 今日もマンションの自転車置き場で、私を見かけた彼は、妙にハキハキと話しかけてきた。

 もしかして私の心か身体を狙っているのかもしれない。

 だが、そんなに簡単に私を奪わせるつもりはない。

 私は軽い女ではないのだ。

 せめて高校生まで待て。

 

「故障中って書いてるけど」


 私が指さした先には、故障中の貼り紙が斜めに貼りついたエレベーターがある。

 黒のマジックで書かれた文字は、かすれているが、まだ役目を果たしていた。


「もう一年も故障中なんだ」


 まだ、ドヤ顔をくずさない彼が言う。

 そんなに歴史の短い七不思議ってあるのか?

 そう思ったけど、最近の時代の流れは速いらしい。

 ママが言うには、昔の十倍ぐらいだそうだ。


 私たちが並ぶ後ろを、近所のおばさんが通り過ぎていく。

 こっちを眺める視線が、ねっとりとしているようで居心地が悪い。

 へんな噂をたてられても困るので、急いで家に帰らなくてはならない用事を考える。

 いくつかの案が頭に浮かんだところで、彼がなんとなく言いそうな気がしていたセリフを口に出した。


「中に入ってみよう!」


「絶対にイヤ!」


 即座に拒否した。

 当然だ。

 このエレベーターは、私たちが住むマンションの裏手にある、今はだれも住んでいない建物のエレベーターなのだ。

 しかも故障中と貼り紙までしている。


「頼むよ。同年代が一人もいなくてさみしいんだよ」


「死んでもイヤだ!」


 私がきっぱり断ると、彼は悲しそうな顔をしたまま、マンションの奥に入っていった。

 

「ちょっと、あんたが住んでるのはあっちでしょ……」


 私が自分たちの住むマンションを指さすのと同時に、まわりが真っ暗になる。

 誰も住まない建物は電灯もなく、ほんの少し奥に入るだけで肌にしみこんできそうな暗闇が待っている。

 その中で錆びついたエレベーターのドアが、うっすらと赤黒く輪郭を見せている。

 もう読めなくなった貼り紙は、ひらひらと誘うようにゆれて、またうなだれるようにドアに貼りついた。


 不意にタモツ君も、見かけた近所のおばさんも、数年前に亡くなっていたこと思い出し、私は全速力でその場から逃げ出した。

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