狼の森
第2エリアを確保した俺たちは兵站を整えた後、次の階層へ続く扉を開ける。
そこには閉塞的な洞窟とは打って変わって森が広がっていた。
一陣の風が吹く度に木々が音を立てて揺れ、見上げれば青空を雲が流れてゆく。
「外に出たのか?ここはどこだ?」
GPSを取りだして現在位置を確認するも、電波が届かないのか何も表示されない。
「レーダーにはなにか映っているか?」
《有機生命体らしきものが周囲に展開しています。
おそらくはモンスターです》
「包囲されているな。一旦後退、歩兵戦闘車を要請する」
視界の利かない森林で奇襲を受ければ致命傷だ。
飛び道具を撃たれる可能性も考慮して、未知の脅威から隊員を守るべく、歩兵を収容できる戦闘車両を本部に要請する。
第2エリアの陣地に戦車を置き、再び戻ってきた第1エリア。
陣地はより強固なものになっており、後続の増援のほか、専任の調査隊が機材を用いてダンジョンの詳細な調査を行っている。
「こちら先遣隊。第三エリアは森が広がっており、屋外の可能性がある。
大規模戦闘に備えて歩兵戦闘車等の増援を求む。
また、対空火器も求む。」
通信設備を通して第3エリアの情報を報告、了承する返事が返ってくる。
札幌の戦いで見たようなドラゴンが現れるかもしれない。
ありとあらゆる可能性も考慮して、より入念に準備を進める。
ギュラギュラと音を立てて森林地帯を進む。
10式戦車はもちろんのこと、俺たちを乗せた歩兵戦闘車3輌と装甲車などの戦力に対空火器を載せた装甲トラック。
狼らしきモンスターが草陰から現れて飛びかかるも、鋼鉄の装甲にかなわず、機関銃も前に倒れ伏す。
「さて、どうするかだな」
アサルトライフルを銃眼に差しながら、戦闘車内で呟く。
「どうする、とは?」
「航空兵器だ。第3エリアへ来るには洞窟を抜ける必要がある以上、戦闘機などの大きなものをここへ持ち込むことはできない」
「確かに…」
俺の懸念に三笠が同調する。
戦いにおいて制空権は重要だ。
空を取ることが出来れば一方的に敵を攻撃できるし、敵の布陣などの戦略的情報も簡単に手に入る。
ドラゴンのようなモンスターが現れれば、戦闘機のミサイルの射程を活かして一方的に墜とせる。
しかし現状、俺たちには対空火器があるとはいえ、裏を返せばそれしかない。
ドラゴンの大群が現れて一歩的に攻撃でもされれば、俺たちはそれで終わりだ。
常識の通用しない現場に、不安だけが一方的に募っていく。