スライムの洞窟
第1エリアを確保し、陣地構築を終えた俺たちは部屋の奥にある扉を開き、調査を進める。
石造りの建造物である第一エリアとは打って変わって、暗い洞窟が続く。
「戦車、前へ!」
キャタピラを動かしながら、平田戦車長の操る1輌の10式戦車を先頭に、小隊は洞窟を進む。
≪レーダーに反応。前方にスライムを確認!≫
モンスターの遭遇に全員に緊張が走る。
「全体止まれ」
部隊に停止を指示、迎撃態勢を取る。
少しして粘着質な音が響き、1体の粘体生物こと青い色のスライムが現れる。
透き通った体を持つ、高さ30センチある丸っこい生命体。
真ん中で拍動している赤い球体が心臓であることが捕獲した個体の研究から判明した。
「…戦車、前へ」
≪了解≫
10式戦車がエンジン音を轟かせながら前進。
ぽよんぽよん跳ねる真ん丸な個体を約44トンの巨体で無慈悲にひき潰す。
ブチッという破裂音が洞窟に響き、水に近い成分のスライムの体液が飛び散る。
非現実的な存在だからか、進路を妨害する障害物を破壊した程度の感想だ。
「下り坂になっているようですね」
潰れたスライムの残骸を歯牙にもかけず、三笠がぽつりとつぶやく。
「この程度の傾斜なら戦車でも問題ない。
それよりも、モンスターの襲撃を心配しろ。
全てのモンスターがレーダーに映るとは限らない。警戒を怠るな」
「了解です」
そういって、小さな横穴にアサルトライフルを向ける三笠。
札幌での戦いで捕獲されたモンスターの研究記録によれば、粘体生物は体を自在に変形させる特性があり、小さな穴を好んで暮らすのだという。
モンスターという未知の相手に、最新鋭の技術がどこまで通用するのか分からない。
≪報告、レーダーに反応。前方にスライムの集団らしき≫
「前進を継続しろ。歩兵隊は生き残ったスライムを掃討」
戦車から伝えられた報告に、歩きながら淡々と指示を下す。
遭遇したスライムを戦車で平らにしながら進むことおよそ5分、少し広い場所に出る。
前方には大小さまざま、色とりどりのスライム達が群れており、小さいやつを先頭に戦車を恐れず集団で向かってくる。
洞窟内に響き渡る銃声。
戦車がスライム達をブチブチとひき潰し、歩兵隊が生き残った奴の心臓を銃撃する。
「あいつが親玉だな」
集団の後方、最も大きなスライム。
戦車ほどの大きさの体躯で轢くことはできないが、こちらにビビったのか距離を取り続けている。
≪榴弾で仕留めますか?≫
「だめだ、榴弾でも過貫通の恐れがある。
小銃で仕留める」
≪了解です≫
戦車を停止させ、一斉に小銃を目標に構える。
内心、キングスライムと名付けたそれの心臓目掛けて斉射。
バババババと発砲音が響く。
キングスライムはぴょんぴょん飛び回っていたものの、音速を超えて放たれた弾丸をかわし切ることができずに被弾。
心臓を中心にズタズタにされたキングスライムは透明な体液を流しながら、そのまま息絶える。
「目標撃破、第二エリア確保」