第一章『勿忘草』 四節『授業と、罰?』
四節『授業と、罰?』
静けさが漂う教室に、いつもと変わらぬ表情でアンセントワート先生が入ってくる。最悪のタイミングだ。いや、もう少し遅れたら教室が大惨事になっていたかもしれないのでここは素直にこの状況を甘んじて受け入れよう。
「それでは第一限、一般戦闘理論の授業を始める」
そして今、何事もなかったかのように授業は滞りなく進んでいる。一つ気がかりなのは出席を取った後に先生が、「レナグ・アリフィス・エルブルー、および、薄雪白亜は授業後教室に残るように。すでに
二限目の種族学Iの先生には確認を取ってある。」という言葉だけだった。
大問題な気もするが今はこの二人、そう僕の両隣で微妙な空気感が漂っているこの二人をどうにかしなければならない。普段は教室の隅から、僕、白亜、ララ、そしていま学校を休学中のミクリアという順番だった。なのに…。隅っこのあの感じが懐かしい。
「——であるからして、第二種近衛兵(特科近衛)は非常に細分化された部隊が必要なのだ。では…レナグ・アリフィス・エルブルー。この『サンスベリア訓練生学校』の周りに広がる広大な塩湖を代表する脅威の一つである岩塩巨凱。これが獣類特科近衛分隊と遭遇した時だ、この状況における最適解は何だ?」
「はい。分隊の中に元素分解系の『色』の所有者、武器の使い手がいない場合は、分隊長は即刻撤退命令を出すべきです」
「「「おおー!」」」
生徒たちが感嘆の声が教室の空気を満たす。そして前に座っていた女子がこちらを向いて
「レナグ君すごいね」
と、そういう…。少し、落ち葉が一度翻る間があるかどうかという、ほんの一瞬の間の後に笑顔を返す。
「おまえって座学だけは出来るよな」
白亜はそう言ってまた教科書に目を落とす。僕は口を閉じたまま軽く反応する。やはりそこにはあまり触れてほしくないものだな。僕の、覚えていない期間の話は。
※
アンセントワート先生が今度の授業の話や宿題の話を始めると、僕はさすがに動揺を隠せなくなってきていた。ソワソワと落ち着かなくなりまるで何か目が見えないものにつつきまわされているかのようだった。
「それでは、今回の授業はここまでとする。各自解散。」
ついに授業が終わってしまった。いつもものすごく長く感じる授業が今日はものすごく短く、霧に覆われているかの如く記憶があやふやだ。
みんなが教室を後にしていく。僕と白亜だけがふるいの上に残されていく。そして最後の一人、ララが不安でいっぱいの目をこっちに向けてふるいの網を通り抜けた。その瞬間に扉がばたんと閉じた。僕、白亜、アンセントワート先生の三人だけが教室に残った。弓の弦が切れんばかりに緊張が張り詰めている。
アンセントワート先生がおもむろに口を開いた。
「なぜ、君たちが残されたかわかるかね」
「その、素行の問題でしょうか。今日の朝も少し目立ってしまいましたし、宿題も」
僕は落ち着いて言葉を選び、話をしようと思った。しかしその話はすぐに断ち切られてしまった。
「—違う。がしかし、確かに事実ではある。薄雪白亜は非常に短気で頭より先に腕が反応してしまうようだ。レナグ・アリフィス・エルブルー。君は成績こそ優秀だが、あまりにも人との関りがない。薄雪白亜、ララ・アレナ・シーカ、ミクリア・クローバー以外との交友関係はあるか? 答えなくてよい。答えはNOだ。これの何が問題なのか疑問に思うだろう。しかしこちらで決まっていることだ。友人を作れ。一刻も早くだ。でなければ退学処分になりかねないぞ」
「—っ! そ、そんな、め、めちゃくちゃな」
こんな訳の分からないことを言われる筋合いはない、と言い返してしまいたいのは山々だ。だが…
「ともかく、今まで言ったことはすべて事実だ。しかし今回の件に関しては全く別の問題だ。むしろ君たちに有益な話だと思うがね」
「はぁ、というと?」
少し不安は残るものの今回は罰則云々ではなさそうだ。そう一息ついた矢先、
「君たちには進級適正試験を通過した四年生とともに冒険課程を受けてもらう」
「———おい。ふざけんなよ」
今まで押し黙っていた白亜が口を開く。それも鬼のような形相でだ。低く、それでいて澄みわたるような、そして煮えたぎるような声だった。
「それは…俺たちに…死ねって言ってんのと同じことなの…わかってるよな」
白亜が声の音量を上げていく。
「そうかっかするものではないぞ。君たちが普通に生きていたら一生通ることのないエリートの路を用意していただいたようなものなのだぞ。第五種近衛兵、別名、『彩光近衛兵』への旅路をな」
こんにちは、こんばんは。しらすおろしぽんずです。今話もご一読くださりありがとうございます。新たに『冒険課程』や『進級適正試験』、そして『彩光近衛兵』なるものが登場しましたね。そもそもそれらはいったい何なのか、そしてなぜ白亜はあんなにも怒ったのか。読んでくれる人に楽しんでもらいたい、自分の作品をみてもらいたいという思いもありますが、それよりも自分が物語の続きを知りたい、もっともっと深く、遠くまで世界を見たいという気持ちが強く、書いているときとてもワクワクしました。この気持ちが少しでも皆さんに伝わるよう邁進していきますので、これからも応援お願いします!!
それでは、また。