練習試合
庭を眺めているふり。
剣を交えるふたりの少年をぼんやりと眺めているふり。
ひとりはわたしの兄さんでもうひとりは同い年の幼馴染み。
「どちらが勝つと?」
問いかけられた相手が身を竦める様子が背中越しに伝わってきた。
足音を消して背後から忍び寄ってきたというわけでもないけれど、どうせわたしがふたりの練習試合に夢中になっているとでも思ったに違いない。
「体格から言っても兄君に分があるのではと」
急いで取り繕ったことは明らかだけど、流石に恥をかかせて良い相手でもないので愛想よく振り返ることにした。
金色の髪にアクアマリンの瞳。
整った顔立ちとすらりとした容姿。
思っていたより背が高いことにちょっとびっくりしたけれど、少しだけ小首を傾げるようにして来訪者に微笑みかけた。
「今日はお父上のお供?」
「ええ」
行儀よく差し出したわたしの右腕を柔らかく受け止めたとき、青年の青白い頬が少し朱に染まったように見えた。
手の甲に軽く唇で触れ、それでもすぐには手を放さず、両手で優しく包み込むようにする。
「相変わらずお元気そうですね」
「それ、年頃の女性に掛ける言葉ではなくってよ」
はっとしたように、手を放す彼の仕草が妙に子供っぽく見えた。
「作法もわきまえず申し訳ありません」
「わたしは相変わらず元気なのは本当だし、別に気にしてないわ」
彼は少しだけ困ったような顔をして小さく会釈した。
とても時間をかけて。
わたしは愛想よく振舞うことにも少し飽きてきたので、その隙に剣術の練習の方に視線を戻していた。
「このたび当地へ赴きましたのは」
そう彼が言いかけて顔を上げたときだった。
剣と剣が激しくぶつかり合う音がして、次の瞬間、兄の剣が高々と宙に舞うのが見えた。
「あなたはやっぱり観る目がないわ」
視線をあげた彼は信じられないという表情をしていた。
それを見てわたしは、ククっと言って笑ったんじゃないかと思う。