期待を込めて、大陸を踏む
「ここがラウンテ……実際に見ると、一層スゲェなぁ」
船を降りて、俺はラウンテに降り立つ。今までこの目で見てきた1番大きな街がアロンだったからか、ラウンテの街の大きさに感動を覚える。王都でもないというのに、なんて大きさなんだ。アロンより、規模がデカい。
「チオンさん。かなり賑わってますね、この街」
「うん…なにせ、商業が盛んな街だからね」
成程、それでか。海に面する場所は、商業が盛んになりがちだからな。ラウンテなら尚の事だろう。なにせ、この街がラウンテで唯一海と面している所だし。言うなら、商業都市といったところだろうか。
ラウンテは、周りがクレイアの主要国全部と一部海で囲まれている。他国からの物理的干渉を防ぐ為に、堅牢で巨大な壁で覆われている。海に面しているこの街だけ壁がないのは、海から攻めてきた場合の対策が練られているからだとみた。
兵力や技術も、どの国と比べても頭1つ抜けている。洗練された兵士達、恐らく最新式と思われる兵器の数々。資料で目を通しただけでも、並の戦力で叶うとは思えない。
「…ティセロ君?馬車、乗らないの?」
おっといけない。またまた悪癖のせいで大変な事になるところだった。
チオンさんの指差す馬車に乗る。ラウンテでは電車などの交通手段が普及し始めている。が、この街から王都に向かう交通手段としてはというと、話は別だ。
そう、馬車だけなのだ。或いは歩きである。恐らく、検問を容易にする狙いがあると考えられる。
電車で通過する際に検問となると、検問所が混み合う。結果、電車に乗れない人が出る。それを恐れた結果じゃないかと、母さんは言ってたっけ。
そんな思考を一旦片隅に置き、馬車に乗る。揺れの少ない船に乗ってた分、馬車で酔わないかが心配だ。
◇
「うぇっ……」
酔った。
懸念していた通りだ。俺自身、そこそこ乗り物酔いするタイプだ。まして、まぁまぁ揺れる馬車は特に。吐くまではいかないにしろ、気分はすこぶる悪い。外の空気が吸えるだけ、まだマシだろうか。
「だ、大丈夫?」
「あ…はい、少し気持ち悪いだけなので、大丈夫ですよ」
「…本当?顔色、悪そうだけど……」
実際、チオンさんが思っている程気持ち悪い訳じゃない。軽いと一蹴出来る訳でもないが。が、目的地に着くなりどこかで止まるなりすれば一旦収まる程度でもある。
「お?チオンじゃねーか!なんだ?遂に男でも出来たか?」
「な……!違いますっ!」
俺とチオンさんのやり取りを見て、そう声を掛ける誰か。その人を見ると、随分とガタイのいい印象を受ける。
冒険者だ、間違いない。オーラが、歴戦の猛者である事を示している。それも、チオンさんと同等かそれ以上。金剛階級かもしれない。
「この子とは、たまたま船で話をしただけです!」
「はい、戦闘の指導を頼んだくらいですよ」
「なんだ、そうか。ギルドで騒げる口実ができたと思ったんだけどなぁ」
肩を落とし、少しドンヨリとした空気を醸すその人。が、明らかに見てくれとその雰囲気が合っていないという話は、墓場まで持ってくべきだろう。気持ち悪い状態でぶっ飛ばされるのは、流石にゴメンだ。
「名前くらい言っといた方がいいな、俺はオヴディだ」
「どうも、ティセロです」
名前を聞いた後、俺はオヴディさんの姿をじっと見た。身体がゴツいのはさて置いて、武器を持ってない。装備からして、魔術師でないのは確かだろう。身体強化系は使うかもしれないけど、遠距離で戦うとは思えない。
それがブラフである線をどこかへ投げ捨て、俺は素手での戦闘を得意とする人だという結論に行き着いた。……本人に聞けば早かったろうに。俺は何をしてるんだか。
「会って早々聞くのも変な話かもしれないですが、階級はどこなんです?」
「金剛だな、一応」
金剛。その階級がある事自体は知っていたものの、実際にその階級の人に出会う事など、無いと思っていた。金剛は冒険者の階級の中でも、試験で昇り詰められる最高地点。その為、金剛階級の人は本当に少ない。国に数人いるか、所によってはいない位である。
ギルドの昇級試験は、当然上に行けば行く程難易度が上がるんだけど、金剛は格段と上がる。合格基準は勿論の事高いが、筆記の試験も存在する。一応、純金以下も筆記はあるけど、確か筆記を使うか選べるんだったような。その辺は、ギルドに行ってから説明を聞く事にして。
「何を討伐してきたんですか?」
「大海龍だな。ネームド・リヴァイアサン、だったか?」
自分が討伐した魔物について覚えていないのか、仲間と思われる人に聞いている。そんな事ある?
魔物にも、色々な種類が存在している。獣だったり鳥だったり、竜だったり。その分類は幾つかあるが、オヴディさんが討伐したのは、水棲種の海竜。
名前が違う理由は、"ネームド"というワードがカギになっている。色々な種類の魔物がいるが、ある時突然、存在が確認されている魔物の突然変異個体や亜種個体、または既存個体と性質が異なる個体が発見される事がある。それを既存種と区別し、聞いた人がすぐに理解できるようにとギルドが導入したシステム。それが、"ネームド"だ。
だから、オヴディさんが討伐したのは、正しくは水棲種の海竜のネームド個体である、大海龍だ。まぁようするに、スッゲェ強い竜を討伐した、という訳だ。
…この人、人外か何かじゃないのか?」
「……おい小僧、聞こえてるぞ?」
「え?」
…どうやら俺の旅は、ここで終わるらしい。