多種多様
「…あの」
復習を終えて、ちょっと休もうかと考えていた頃。突然、誰かに話しかけられる。その声は、どこか弱々しさを感じる。
「あっ、何か気に触りましたか?」
「いえ……船の上で勉強してる姿を見て、ちょっと珍しいなと思ったので」
確かに。というか、1歩間違えたら変でもあるか?まぁいいや。
話し掛けてきた人を見た。翼人、かな?片翼しかないのは、何か訳があるんだろう。詮索されたくないかもしれないし、そこには触れないでおこう。
翼人とは、換言すれば人種のようなもの。この世界には、多種多様な種族が生きている。俺みたいな人間や母さんのような精霊など、様々。
この世界には、種に関する分類が2つある。それが、さっき挙げた”種族”と”属”。種族は主に3つ存在しており、人間・獣魔・妖精がある。属は各種族に2〜4つ存在しているという。確か、獣魔の属が結構多かったと記憶している。
例を挙げてみると、俺であれば、人間という種族の人間という属。目の前の人が翼人だとすれば、獣魔という種族の翼人という属。
因みに、度々研究者や学者間で声が上がる”亜人は人間か獣魔か”という問題については、人間の種族であるという通説が有力なのだとか。亜人は、所謂人間と他種族のハーフ。
人間とのハーフが分類されているならば、当然獣魔と妖精のハーフについても分るいされているのだろう?と、思うかもしれない。が、これは未だに論争に決着がついていないらしい。半霊という属があるが、どの種族に分類すべきかが決まっていないのだ。今では、どちらを名乗っても良い事になっているらしい。
「あの…どうかしましたか?」
「あ、すみません。少し考え事をしてまして」
おっといけない。目の前に人がいるというのに、放って思考に明け暮れるとは。俺の悪い癖だな。こういうのも少しずつ治していかないとな。
そう思っていると、相手の人が自己紹介をしてくれた。俺も自己紹介し返しておこう。
彼女は、チオンというらしい。冒険者をやっていて、純金階級の冒険者らしい。
「純金以上の冒険者は猛者揃いだ」、いつぞやかに、父さんが教えてくれた事。父さんも純金階級だったので、その言葉に納得していたけど、この人も父さんレベルの強さって事になる。マジか。
曰く、純金以上の階級になると、途端に人数が減るのだとか。大体がその下の純銀以下でストップしてしまうのが現状なのだとか。それだけ、純金以上の人が強いという事なのだろう。或いは、純金昇級の試験が難しいか。
いずれにせよ、この人は強い部類の人だ。何か教われないものか。
「そういえば、どうしてこの船に?」
「依頼内容が、この島での魔物討伐だったので…」
「あぁ、そういう事だったんですね。何かすみません、こちらばかり聞いてばっかで…」
この島の魔物討伐依頼とか、王都にも出てるんだ。てっきり、あの街の人達で手が足りてるものだとばかり。俺が父さんと魔物の討伐に出た時は何度かあったけど、あの街以外の人なんていなかったような。当時は手が足りてたとかか?それとも、単にたまたま出くわさなかったとか?
…分かんねぇな。気にした所でって感じはあるが。
そういや、魔物について復習するのを後回しにしてたっけ。丁度いい機会だし、復習しておこう。この船を降りた後に勉強の時間が取れるかも分からないしな。
俺が言っている魔物、正式な名称を魔性生物。クレイアに存在する生物の種類としてはもう1つ、真性生物がある。人間とか獣魔とかは、真性生物に分類される。魔性生物の特徴は、主に3つ。1つは、人間・獣魔・妖精の特徴を持たない、或いは明らかに乖離している事。2つは、本能制御の機能が真性生物以下である事。3つに、魔石である。
3つめについて詳しく説明すると、体内で魔石を生成したり、その魔石をエネルギー源として活動したり、外部に魔石が露出している事だ。魔性生物は、元々真性生物だったという説が通説になっており、その説に則ると、魔石は有り余る何らかのエネルギーを放出する術を見出せなかった生物が魔石という形でエネルギーの放出を試みている、というのだ。
その為、魔石は多量のエネルギーを含んでいて、様々な活用法が開発されてきた。魔術道具や武器といった専門性の高い物から、生活用品等と言った一般的な物にまで波及しているのが、現状。このような魔石を使った道具を、一般的には魔道具と呼んだりしている。今乗ってる船だって、恐らく船体の安定や察知の魔道具が使われている事だろう。
「チオンさんは、これから王都に?」
「はい、討伐の報告をしに行くところなんです」
そうなのかと思っていると、依頼完了証を見せてくれた。……この魔物か。確かに、俺の街でも危険な魔物とされているヤツだ。これを単独で討伐したとすると、本当に父さんレベルかもしれん。
「…チオンさん、1つお願いしたい事があるんですけど……」
「お、お願い?」
「俺、王都に着いたらギルドに所属して冒険者になるんです。もし冒険者になれたら、俺の事を指導してくれませんか!」
「え……えぇ!?」
かなりの声量で、そう叫ぶチオンさん。無理もない。初対面の人に指導を頼まれているのだ。普通なら、断られるか見向きもされないかだろう。それでも、叫んだ後にしっかり考える素振りを見せてくれている辺り、優しい人なのだろう。
そして返って来た答えは、意外なものだった。
「…まだ依頼が残ってるから、その後でいいなら……いいよ」
「!ありがとうございます!」
まさかのOK。感謝が尽きない。ここだけの話、あの街を出た後にどうやって鍛錬しようか悩んでいた。ギルドの人にお願いするにも、他郷からやって来たばかりの新人が突然指導を頼んだとして、取り合ってくれるかも正直怪しいと思っていた。魔物ばかりを相手にしたところで、後々対人戦の課題が生まれるのは、目に見えていたしな。
どんな異能を使うんだろう。どんな戦い方をするんだろう。今から、指導の時間が待ち遠しい。
「お?あれがラウンテか」
そうしている内にラウンテが見えてきた。俺の冒険が始まる場所。何もかもが新しく映る、期待の地。
楽しみだ。