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異能旅語  作者: No Name
Prolog 旅の始まり
3/10

旅立ちに揺られて

「忘れ物はない?」


「うん、本も剣もお金も持ったよ」


あれから少しの日が経って、今日。俺がこの街を出る日だ。あの日から今日まで、父さんの稽古と母さんの講義は今までより厳しいものになった。実際に外に出る事を加味しての事だと思う。嬉しい限りだ。


どこか、母さんはオロオロしている様子。俺が旅立つとなってから時折、こんな感じである。一方の父さんはというと、母さんとは逆に至極冷静であった。


それどころか。


「お前は俺と同じ道を行くのか!心配だが、嬉しいなぁ!」


ほとんど毎日、こんな事を言っている。毎日同じ事言ってて、よく飽きないな。……というか、若干母さんにマウント取りにいってない?…気のせいだといいんだけど。


それはさて置いて、俺は母さんを落ち着かせる。出立の日なんだから、せめてもう少し落ち着いて欲しい。心配してくれる気持ちそのものは嬉しいけれども。


「たまには、顔を出してね?」


「うん、いつ帰れるかは分からないけど、落ち着いたらね」


「お前が帰ってきた時の手合わせが楽しみだ。どれだけ強くなってるか……今からでも待ち遠しい」


母さんの心配も、父さんのいつになるか分からない楽しみも。何だか心地良い。変に期待を背負うような気にならず、帰ってきても温かく迎え入れてくれるだろうと思わせる。


2人の名に恥じない冒険者になろう。俺は、そう強く思った。


「じゃあ、行ってくる」


「気を付けてね、ティセロ」


「うん、母さん達こそ元気で」


まるで、今生の別れのような言葉を言ってしまう。ここで一生のお別れという訳でもないというのに。


「ティセロ!」


突然、父さんが声を大きくして俺に話しかける。驚きで身体がビクつきながら、父さんの方を向く。


「……死ぬ事無く、帰ってこい!」


「!……はい!」


父からの、試練。冒険者になる者にとって、それは簡単に見えて難しい試練だ。上位にいる人ですら乗り越える事が出来ない場合もある、そんな試練。


けれど、やらなくてはならない。俺は、知れるだけの事を知る。助けられるであろう人を助ける。元より、未練を残して死ぬ訳にはいかないしな!


「行ってきます!」


今は、振り返らない。次に2人を見るのは、オレが立派になってからだ。





「……行っちゃったわね」


「だな」


息子の出立を見送った。妻の声は、未だ震えている。どこかしらで悲しく思っているのだろう。或いは、寂しく。俺達の間に産まれた唯一の子、ティセロ。クウェロテ家の、そして俺達の自慢の息子だ。


あいつは、身内贔屓抜きに才能があった。この世界に生きる者のおよそ全員には、異能(ヴルシア)が与えられる。与えられる仕組みとか誰が与えるとかの細かい事は、未だ謎らしい。大体が子どもの時、或いは大人になって少し経つくらいに得る事が多い。


ティセロも例外に漏れず、異能が与えられた。が、ほとんどどんな能力なのか分からないものだった。確か、【??力】だったか。多種多様に存在する異能だが、ここまで秘匿された異能は例を見ないのだとか。実際、俺らも当初は目を疑った。


が、アイツはめげなかった。普通なら、得た異能に一喜一憂するものだ。異能によっては優遇される事もあれば、その逆も然り。俺が属してたギルドでも、異能によっては差別するとかいう輩もいた。ギルド職員の注意喚起とか国の呼び掛けによって表面下では減っているように見えるも、真相は定かでない。


アイツは、剣を振るい続けた。教えを乞い続けた。俺から剣を教わり、妻からは知恵を教わった。ひたむきに、愚直に。その気概は、現役時代に見た冒険者達に引けを取らない程。


誇らしかった。自分の才能に手を上げて喜びもせず、見て分かる程に落胆せず、それまでと同じように鍛錬するその姿が。


コイツには、才能がある。俺も妻も、次第にそう感じていった。異能ではなく、努力の才能。それは、異能なんかよりずっと誇るべきもので。


「やっぱり、心配だわ。あの子が強いのは分かっているけれど……」


「大丈夫だ」


妻の言葉に、何故か俺は間髪入れずにそう言っていた。でも、そうだ。心配する事は無い。


アイツには、人を思いやれる優しさがある。物事を広く観る器がある。物事に立ち向かう勇気がある。周りを豊かに出来る知恵がある。


そして。


この世界を生き抜くだけの、強さがある。


「信じて待とう。俺達には、それしか出来ねぇさ」


「……そうね。ティセロが帰ってくるまで、長生きしないといけないわ」


「ガハハ!その点に関しては、俺が頑張らないとなぁ!」


お前が世界を見に行くなら、俺達はお前の帰る場所を守り続ける。そうしていつか帰ってきた時は、アイツの話を聞いてやる。


これが、親ってものか。





「っと、揺れが少ないとはいえ、多少は揺れるなぁ」


アロンの港から出るラウンテ行きの船に乗って、船の揺れを経験中。ラウンテ行きの船は凄いな、こんなに揺れないものか。時折見る商業船なんかは、結構揺れそうな見た目をしていたのに。流石、1番発展してる国行きなだけある。


船に揺られる時間はそれなりにある。何か復習でもしておこうかな。とはいえ、大体は復習しきったんだよな。後復習出来てないところといえば……。


あ、異能(ヴルシア)があった。そういや、最近確認してなかったな。異能の種類とか派生とか、結構多いんだよな。色んな分野を勉強したけど、何だかんだ異能に関しては結構苦手意識を持っていたりする。これは流石に本を何度も呼んだりノートと見比べたりしないと、大変だな。


……船の上でやる事じゃないかもな、コレ。いくら揺れの少ない船だとはいえ、揺れない訳じゃないんだし。ま、いっか。


異能とは。凄くざっくりと言うなら、能力である。御伽話に登場するような魔術に関するような異能もあれば、剣や槍、はたまた拳術といった武術に関する異能も存在する。更には、職業に関する異能もある。例を挙げるとするなら、【鍛冶術(ブラクス)】や【農術(ファム)】、【治癒士術(ヒルア)】等だろうか。職業に関するものは何故か、異能名の最後に"術"が付いているのが特徴。


ここが異能の難しい所なのだが、光属性の魔術に適性がある人や習得した人、光属性魔術に関連する異能持ちの人は、光属性の魔術である単体治癒(ノムル=ヒール)範囲治癒(エリ=ヒール)が使える上、それ以外の攻撃魔術も使える。が、【治癒士術】は攻撃魔術の適性は無い。一応、何らかの魔術の適正があるとかであれば使えると言われているが、【治癒士術】にはあくまで回復関連の魔術の習得にのみ関係する。こうした異能のちょっとした差異が、勉強する者としては非常にこんがらがる。実際、俺も何度混乱した事か。二桁を超えた辺りで数えるのを止めた事だけは、覚えている。


こういうハッキリとした分類に分けられている異能もあれば、【千里眼(クレヴァ)】とか【隠匿(クォセル)】等というような所謂その他にあたる異能も存在する。…何なら、こっちの方が多いとか何とか。母さんから聞いた話だと、その他分類の異能の全容を把握しきるのは、無理なのだとか。その理由が、膨大な数。その他の異能全てを覚えようとすれば、分類済みの異能を何十周もしないといけない程の膨大さなのだとか。


と、ここまで復習した異能は全て常異能(アヴルシア)と呼ばれる分類だ。誰が持っていてもおかしくなくて、持っている人が沢山いる異能。異能には、もう1つの分類がある。それが、特異能(リヴルシア)。所持している人が原則として2人以上いる事が無く、能力が結構クセの強いものだらけ。この分類の異能を持っている人は少なく、クレイアで多大な実績を上げる人は、大抵特異能を持っていたりする。勿論、持っていないで実績を上げる人も少なくないが。現に、父さんと母さんも特異能を持っていないで活躍していた訳で。


その他の分類は、合異能(デュアヴルシア)異神能(カレッド)がある。合異能は、常異能が2つ以上合体した異能で、異神能は……正直、明確な定義がない。一応、特異能の進化系と言われている。何せ、発生例と研究例が非常に少ない。だからこそ、研究者達も定義付けしあぐねているのだろう、と思う。


後、異能についてはどうやら、魔術の練習を重ねたり、剣術を勉強したり実践したりすると、(いつになるかは分からないが)異能を獲得しているケースも少なくない。その為、一個人で複数個の異能を所持している、なんて事も全然珍しくない。更に、特異能も例外に漏れないらしい。特異能2つとか、特異能1つと常異能複数個、なんて人もいる。


…と、こんな感じか。これを復習すると、いつも頭が痛くなる。覚える事も多ければ、ごっちゃになる事柄が多過ぎる。勉強する上で悩みの種の1つだ。果たして、異能関連の勉強が苦にならなくなる日はいつ来るのやら。

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