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望 編

主人公の娘の話になります。


父親に似たこのキツイ顔立ちは誤解をよく産んでいた。


学生の頃から何故かヤンキー疑惑を持たれたり、下級生からはビビられペコペコされて更に怖がられたりしていた。


私は普通に接してるつもりなのに何故か遠巻きにされてしまう。

社会人になった今でも何故か人と距離ができてしまう。

なるべく優しくしたり笑顔も絶やさないように気を使っているが…どうにも上手くいかない。

母のような穏やかな美人になりたかったのになぁ。


そんなコンプレックスを抱えながら過ごしている。



「あの、これちょっと数字が間違ってると思うんだけど」

新入社員の子に話しかけると、その子はビクビクしながら

「あ、あの、す、すいません!」

と涙目になりながら受け取った。まるで小動物のような見た目の可愛らしい女の子な新入社員に皆は同情の目を向ける。

「わからないことあったら全然聞いてね」

となるべく穏やかに声をかけてから自分のデスクに戻る。私はいつだってこうなのだ。


すると背後から声が聞こえた。

「確かにこれだけ間違うと分からない所は確認した方がよさそうだよね。優しい月代先輩に習いながら頑張るといいよ」

と穏やかな低音ボイスが聞こえてくる。振り返ると同期の平城院へいじょういん騰志郎とうしろうが居た。噂ではやんごとなき家系のボンボンだという彼は、社内でも有能で穏やかで大人気だ。

私とスタートは同じだったはずなのに、今では大きな差をつけられていた。

(優しいって嫌味なのかしら)

と私はため息をつき、その言葉に反応しないようにしていた。同期なら私の評判知ってるでしょうに。


私はそのまま仕事を続けていた、平城院は隣の席に突然腰掛けてきて

「あのさ、月代。さっきの事なんだけど・・・」

「何?気にしてないわよ、私もなるべく優しくするよう心がけているから」

「いや、本当に何というか俺は月代の誤解を解きたいなって」

私はこのどこまでも優しくて穏やかで、人気者な彼が苦手だ。私に無いものを持っているという事もあるが、この表面上はすましていて何を考えているか分からない感じが苦手なのだ。

私には兄が2人いるがガサツで元気な兄たちとは正反対なこの男は私たちとはきっと住む世界が違うのだろうなと思わされる。

「そこまで考えてくれるのは有難いけど大丈夫だよ。相手がどう考えるかは相手の自由だし私がアレコレ言うことではないと思うから。気にしてくれてありがとう」

「あ、いや・・・」

「大丈夫だよ。平城院も忙しいでしょ?気にしないで」

と私はこの会話をシャットダウンした。


私と彼との関係に変化があったのはそれから暫くしてからのことだった。

「本当にごめんなさい!!」

あの小動物新人の女の子が大きなミスをしてしまった。商品を大量に発注ミスしてしまい、その事で取引先から問い合わせがあったのにメールに気づかず直ぐに対応せず相手先はカンカンに怒っていた。

「相手先のメールを見せて?」

私が確認したところ、相手先の担当は一週間も前からメールを送っていたらしく更に電話で確認の連絡も入れたところ新人の子は有給でいないという事でだいぶ待たされてしまったらしい。

こちらの完璧な連携ミスだ。

(そりゃ怒るよね・・・こりゃ大損害だ。なぜ誰にもこの事を共有しなかったのか、早く対応してれば良かったのに)

私はその新人の子に

「ミスは誰にでもあるけど、報告してくれないとわからないわよ?こうして時間がたつと不信感を相手に与えてしまうでしょ?いくら有給でいなかったとしても引継ぎくらい・・・」

「す、すいません!!本当にごめんなさい!月代さんに怒られると思ったら怖くって言えなくてぇ!」

と大泣きしてしまった。ギョッとしたが周囲を見ると

「月代がプレッシャーかけすぎたんじゃないの?」

「っていうか、これ誰が責任取るの?相手は大口だったのに」

「やばくない?」

とヒソヒソと声がする。目の前には大泣きしてる新人、背後にはヒソヒソと批判する目と声。

(いいわよ!腹括ればいいんでしょ?!)

私は覚悟を決めて、書類を持って部長のデスクに向かう。私の表情に部長は一瞬ひるんだが私に向き直ると

「どうしたんだ?」

と真剣な顔で聞いてきた。私は息を吸い込んで言葉を告げた。

「部長!すいません、私の指導不足が原因で先方を怒らせてしまいました。発注でミスがあった事に気づけず、問題を放置してしまいました。先方にこれから謝罪をさせていただきミスの挽回ができなかった際には責任をもって辞めさせていただきます」

と頭を下げた、皆は静まり返っている。部長は咳払いをして

「相手は大口の取引先で何年も懇意にして頂いている。確りとした謝罪をするように」

「わかりました」

私は取引先に連絡をして事情を説明し謝罪に向かうため、会社から出る寸前に

「月代!どうしたんだよ、責任もって辞めるって聞こえたけど・・・」

「ちょっと大きい失敗しちゃって。相手が許してくれない時は辞めちゃうかも」

「けど・・・」

「ごめん時間ないから行ってくるね」

「おい!」


その後取引先に頭を下げまくった。菓子折りも最初はいらないと突っ返されたがどうにかお許しを頂く事ができた。

今後このような事が一度でもあれば次はないと何度も念を押された。

そして会社に戻ると

「月代すまないが、今月で辞めてくれないか?」

と部長から言われてしまった。

「お前が全部悪いとは言わない。しかし、新人から威圧的だと声があった、今のご時勢ハラスメントとか色々うるさいからな・・・表面上は責任を持って解雇という形にするから次の職場であまり影響がないよう評価するようにする。退職金も多めに出すから今回は申し訳ないが・・・」

結局いつもこうだ、私は部長を睨みながらデスクにドン!と辞表を出した。

「お気になさらず!自己都合での退職という事で結構です、お情けはいいです!私の指導に問題があったのですよね?そういった声があったという事は分かりました。取引先にも私の指導不足という事は伝えてありますので、退職金も通常通りで結構です。どうも大変お世話になりました!!」

と、睨みつけながら部長にそういうと部長は呆気に取られたような顔をしていた。

社内の人たちも私と目を合わせないよう下を向いている。

(上等だよ!この野郎!!)

と苛立ち紛れに歩きデスクに向かう、ダンボールに荷物をどんどん詰めていく。隣のデスクの人たちは私の剣幕に離れていく。

最後の荷物を入れてデスクを片付けて運び出そうとしてると


「月代!」

「あぁ。何よ」

と最高に機嫌の悪い私は平城院を睨みつけた。

「辞めちゃうのか?」

「そうよ、さっき部長に辞表出してきたわ。今までありがとうね」

と月代に告げた。何考えてるかわかんない奴だったけどコイツだけは私の目をみて確りと話しかけてくれてたんだよな。

「じゃあね。元気でね」

と荷物を抱えると平城院は私のダンボールを掴んで私の行く手を阻止してくる。

「なに?」

「なら、俺と結婚してください」


社内はシーンと静まり返り、後に女子社員の悲鳴と男性社員の驚愕の叫びが社内に響き渡った。

「は?」

「俺と結婚してください」

「・・・状況見て言ってんの?」

「考えてなかった。このまま会えなくなるの嫌だったから」

「あのさ、付き合っても無いのに結婚なんてしないでしょ?どいて」

「うんって言うまでどかない」

「私辞めたの、ここから出たいの」

「なら結婚して」

私はダンボールを手放した、平城院は慌ててダンボールを抱えなおす。

「あぶな!」

「危ないのはアンタの頭よ、平城院。悪いけど私アンタの事そんなに好きじゃないのよ、荷物ほしかったらあげるわよ」

と鞄を持ち直してオフィスから出る。平城院はダンボールを抱えたまま私についてくる。ボンボンだと思ったら意外と体力あるな。

「ごめん、月代!荷物は返すから、話を聞いてくれよ!!」

「何よ」

私を追いかけながら息も上がった平城院は言葉をつむぎ始める、私は歩く速度を緩めないまま平城院の声を背後から拾う。


「ま、まず!月代が好きだ!」

「へ?」

私は顔に熱が集まるのが分かった、しかしこんな顔を見られたくない。歩みを止めずに私は進む。

「入社した時からどんな時でも一生懸命で、ちょっと空回りしてる所も可愛くて好きだ!」

「・・・」

「どんな事も言い訳しなくて真面目で、顔怖いくせに意外と可愛い小物とか好きで、子供が好きなのに泣かれると困るからって遠くで微笑ましく見てる所も好きだ!」

「怖いは余計でしょ!」

信じられないくらい顔に熱が集まる。道行く人は何事だと私たちを見てるけど、恥ずかしくて顔を上げあられないし歩みを止められない。

ダンボールの中の荷物がガシャガシャなる音が聞こえる。平城院が一生懸命ついてきてるのが分かる。


「それから、月代は本当は優しいのに不器用で何でも真正面から受け止めて一々傷ついて、本当は泣きたいくせに我慢してて、俺が守りたいって思ってた!!」

「でかい声で言わないでよ!」

「だって、月代止まらないから!」

「今顔見せたくないの!!」

「俺はどんな月代でも可愛いと思うよ!」

私は泣きそうになった、誰かが私を見てくれていたことが嬉しかった。

どうせ分かってもらえないと諦めていたことだった、それなのに何で私が欲しかった小っ恥ずかしい言葉を全部、全部平城院が言うんだろう。

「可愛いわけないでしょ」

私は振り返って涙が溢れたグチャグチャの顔で

「アンタ馬鹿じゃないの!わた、私なんて可愛くもないし・・・素直になれないし、意地ばっか張ってるだけなのに・・・!」

恥ずかしい、こんな顔を見られるなんて。袖で涙をぬぐって顔を隠した。

「やっとこっち見た・・・」

息も上がった平城院は傍らに丁寧にダンボールを置いて、私の腕を掴んで顔を見ようとする。

しかし私は顔を見られたくないので

「見ないでよ!メイクも崩れてんの!」

「ハンカチで拭いてあげるから、見せてよ」

「嫌よ」

「どんな月代も俺は好きだし可愛いよ」

と突然私の頭のツムジに口付けをしてきた。

「ちょ、ちょっと!何すんのよ!」

と私が頭を守るためにツムジ右手を押さえると、左手を取られて顔が露になった。

「見ないでよ・・・」

「何で?こんなに可愛いのに?」

と平城院は見たことも無いくらい優しい顔で私を見ている。

私はどうしたら良いか分からずうつむいた。

「アンタぐらいよ、私に可愛いなんていう人」

「そうかな?俺意外と趣味はいいんだけど」

「・・・変な人」

と私は何だかおかしくなってしまい、どうでも良くなって笑ってしまった。

月代はそれからぎゅっと私を抱きしめて

「もう、可愛すぎ反則。絶対結婚して」

「はい?」


それからお互いに連絡先を交換して私たちは交際をスタートすることになった。


月代は私を本当に大事にしてくれた、喧嘩したり色んなことがあったけど色んな事を乗り越えて私たちは2年間の交際を経て結婚することになった。

「望、可愛い。やっぱりこのドレスでよかった」

と綺麗なマーメイドドレスをほめてくれた。

「お父さんにも見せたかったな」

私の父は私が就職する頃に亡くなってしまった。お父さんはお母さんが大好きで、口は悪いけどいつもお母さんや私たちを守ってくれる人で大好きだった。

「俺も望のお父さんに会いたかったなぁ」

「ふふふ、私とそっくりなのよ?」

「え?そんなに可愛い人なの?」

「アンタ・・・やっぱり特殊だわ」


その頃式の会場では

「あの二人が結婚するなんてねぇ」

と会社のお局である女性2人がつぶやいた。

「あら、知らなかったの?平城院君ったら結構月代さんにアタックしてたのよ?けど本人も鈍感だし、周りもあの子を怖がってたから気づかなくってねぇ」

「へぇ」

「私はそれを見るのがおかしくて、フフフ」

「いじわるねぇ」

「あら、私よりあの時の部署のメンバーの方が意地悪じゃない。月代さんに責任全部かぶせちゃってさ」

「まぁね、今日は来てないの?」

「さぁ会社からは私とアンタと社長くらいじゃないの?」

「そうよねぇ、なんって言ったって平城院君って大企業の社長のご子息だったんでしょ?うちなんてその会社の下請けの下請けだもんね」

「今頃社長はあいさつ回りで忙しいんじゃないの?」

と2人の女性はあちこちのテーブルで挨拶してる社長を冷たい目で見ていた。

「大変よね」

「しょうがないんじゃない?部下の失敗は上司の責任だって月代さんを辞めさせた手前もあるからね」

「嫌味言われてそう」

「確かにフフフ」

「そういえば、あの部署のメンバーってどうなってるの?私部署移動になったから分からないんだけど」

「あぁ、若手の子は不倫がばれて辞めちゃったのよねぇ」

「うわぁ」

「それに色んな男性社員とも関係持ってたらしくってさもう部署内は散々な空気でね、辞めた人や部署移動になった人が沢山居て今じゃ私と他の部署から移動になった人と今年入った新人しかいないわよ」

「あらぁ、悲惨ね」

「ほんとよ、こっちはいい迷惑よ。私の婚期が遅くなったのはそれのせいよ」

「それ関係あるの?」

「関係あるでしょ。アンタだって人の事とやかく言えないくせに」

2人は見詰め合ったあと、ため息を吐いて

「「結婚したい・・・・」」

と呟いた。


式は和やかな空気で始まり、幸せそうな2人は祝福されどこまでも幸せだった。



おまけ


天国の朔ノ丞は娘である望が心配で天国の蓮池から覗き見ていた。

「ったく、誰に似ちまったかなぁ?意地っ張りで頑固で嫁の貰い手あるのか心配になるなぁ」

と心配そうにしていると背後から

「そりゃお前さんと似たのよ」

「え?お、親方!?」

と朔ノ丞のかつての上司である大工の親方が声をかけてきた、親方も蓮池から除き見ている。

「こりゃ朔の女版って顔してるなぁ。小さいときに見たきりだがよく似てらぁ」

「顔立ちがキツイってんで気にしてんですよ。望は」

「キッツイ顔だけど美人じゃねぇか。女王様みたいでよ」

「人の娘に向かって止めてくれませんか?」

「冗談だよ。安心しなって大丈夫だよ。ほら、見て見ろよ!男がダンボール持って追いかけてくるじゃねぇか」

朔ノ丞は親方の言葉に再び覗き込むと娘と男が何やらいちゃついている。

「な?親が心配するより大丈夫だって」

「け、けど変な男かも知れないじゃないですか」

「なら見守ればいいじゃねぇか」

そうして2人は時折蓮池の隙間から現世を覗き見ていた。


望と騰志郎の恋を天国から応援されているとも知らず二人は結婚式をあげることになった。

「望ぃ、綺麗だなぁチクショウ」

「よっかったなぁ朔ぅ」

とオジサン2人は蓮池の側でオイオイ泣いている。

「もし望を不幸にしたら呪い殺してやるぅ」

「朔、それは洒落にならん。地獄行きになっちまうから止めとけって」

「親方ぁ、娘が嫁ぐってのは・・・寂しいけど嬉しいもんですね」

「そうだなぁ」

「はぁ、こんな時は酒が飲みてぇな」

「また生まれ変わったら飲み交わそうや朔よぉ」

「へい」


おっさん2人に天国で祝福されてる事を知らず2人は微笑みあっていた。




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