祭りの舞 【月夜譚No.252】
神事の前は、いつも緊張する。特に今日は夏祭りだから、人の目も多い。
華やかで賑やかなのは好きだ。楽しいことをして笑い合う人々を見ていると、心が柔らかくなったように穏やかになるのを感じる。
しかし、皆が注目する中で儀式を行うのは、いくら経っても慣れない。
彼女はそっと境内を覗き込んで、舞を楽しみに待っている氏子達を見渡した。彼等の為にも頑張りたい。けれど、緊張するのはどうしようもない。
「よし」
声がして振り返ると、巫女姿の少女が気合いを入れるように拳を握っていた。その手が微かに震えて、少女もまた緊張しているのが伝わってくる。
そうだ、自分だけではない。彼女は深呼吸をして、舞台に足を踏み入れた。
巫女が舞い、それを見守る氏子等の目が微笑む。彼女は巫女と舞いながら、楽しげに口元を緩ませた。
皆が彼女を瞳に映さなくとも、彼等はその存在を今、感じている。
一柱の女神は緊張を覚えながらも、月の下、雅に舞を踊り切った。