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8話 邂逅

「魔王フェリベール!直ちに魔物を引かせろ!でないと、俺はまた、お前と殺し合わなければならないんだ!」


 ――ルービー、2度目の転生での事だ。


 自分の住んでいた国の国王に請われ、ルービーは再び魔王城を訪れていた。

 

 1度目の転生時と同じく、魔王に戦いを挑むも、恐ろしいまでの魔法でもって抵抗され、勝負は膠着状態となっていた。

 このままではルービー自身の魔力もじきに尽き果て、再び相打ちになりかねない。

 美亜に出会えないまま命を捨てたくないルービーは、魔王も同じ考えである事を願い、撤退を申し入れた。


 白髪の交じった黒髪に、真っ黒な力のある眼差し。

 余裕があるのかないのか……。どっこいしょ、と玉座に座る、見覚えのあるその姿にルービーは、魔王もまた、転生者だと知った。

 

 魔王はこの停戦状態に満足したのか、足を組み、腕に頭を乗せると俺に向かって気だるげに言った。

「はぁ……お前は分かってないな……。勇者なのに残念だ」

 その時のルービーは16歳。血気盛んな年頃だったせいもあり、魔王に食ってかかった。

 

「何が分かってないと言うのだ!?言ってみろぉ!」

「魔物について、だよ。勇者ルービー、お前も転生者だろ?なら、知っている筈だ。この世界の生き物の持つ、ポイントなる物について」

 興味のある話に、俺は思わず耳を傾けてしまう。

 

「ポイント?女神の言っていた、イイネポイントの事か?それが魔物と何か関係があるのか?」

 ふっと笑うと、魔王は姿勢を正した。

「お、ようやく聞く耳を持ったな。いきなり突っ込んできやがって……全く、せっかちな奴だと思ってたが」

 

 その目に呆れが見え、俺は思わず謝ってしまう。

「それは、ごめん!って、謝らんぞ!! お前のせいで、この世界の人間たちがどれだけ苦しめられているか、お前は知っているのか!?」

 腕を組み、指を突きつける俺に、魔王はため息をつく。

「ああ。魔物のせいで、な。……だがな、それは魔物のせいであり、私のせいではない。お前は魔物が俺の腹から産まれるとでも思っているのか?」

「え……?」

 

 言われて見ればおかしい気もする。魔王は男だし、卵を産むとは思えないからだ。

「勇者よ。話を聞く気があるのなら、もてなそう。こい」

 魔王は立ち上がり、おもむろに歩き始める。

 俺は興味が抑えきれず、頷き、魔王を追った。


 人気のない魔王城の中。そうして連れてこられたのは、落ち着いた小部屋だった。

 魔王は軽く指を振り、蝋燭に、暖炉にと小さな火球を投げ、火を灯す。暖かな光に照らされた部屋は、山積みにされた本に占領された、心地よさそうな部屋だ。

 

「ここ……は?」

 ボロボロになったローブをその辺に放ると、魔王は俺に、まあ座れ、と椅子を勧めた。

「私の部屋だ。骸骨でも愛でてるイメージだったならすまん。私の趣味は読書なんだよ」

 魔王は読書家だった。

「……まあ、書くのも好きだがな」

 作家でもあった。

 

 魔王は暖炉で湯を沸かし始め、カップを棚から出してくる。

「まあ、聞け。この世界の魔物について俺が研究したところによると……」

「学者でもあるのか……!?」

「黙って聞け!せっかちだな。いいか、魔物はな、動物や植物が魔素を過剰に摂取し、進化した生き物の事を言うんだ。これは分かるか?」

「ああ。常識だ」

 ルービーの答えに魔王は頷くと、先を続ける。

 

「じゃあ、そもそも魔素とは何か。それを知るものは少ない。何故ならそれは、生き物が持つ魔力。すなわち女神の言っていた、ポイントなるものだからだ。そのポイントが、生き物の死によって放出され、空気中に漂っている状態の物なんだよ。お前も見た事があるだろ?魔物を殺した時、その周りに何かが散るのを」


 俺は少し考え、頷く。 

「ああ、そういえばいつもホタルの様な物が散るな」

 俺の答えに、魔王は柔らかく微笑んだ。

「俺には雪にみえるな。ホタルか……それはまた、趣のある表現だな。お前のひととなりがみえるようだ。その、ポイントが見えるのは、上級スキルのひとつだよ」

 魔王城のあるこの場所は暖かく、雪など降らない。なのに、雪とは!趣があるというなら、魔王の方が上だと俺は思った。

 

「なるほど……だけど、なぜ魔物がポイントを持ってるんだ?」

「生き物はな、もれなくポイントを持って生まれてくるんだよ。その中でも、動物は他の生き物からもポイントを摂取出来るため、より沢山のポイントが自然に貯まっていく。植物を食べるだけでもポイントは貯まるんだよ」

 それは知らなかったと、俺は目を見張る。


「そうだったのか!わざわざ魔物退治なんてしなくても、魔力は維持出来たんだな!」

 身を乗り出す俺に、魔王はバカかと呆れる。

「おいおい、お前。いくらポイントアップがついてても、飯食うだけで、魔王は倒せないからな」

「別に俺は魔王を倒したい訳じゃない」

「ふん!1度倒しておいてよく言うよ。……まあ聞け。大抵の生き物は、他の生き物に食べられない限り、ポイントを消化できない。家族や知人にポイントを分け与える事が出来る人間とは違うんだよ。だから、その生き物が死んだ時、貯まったポイントは、空気中に一気に放出されてしまうんだ」

 

 大量に放出されたポイントは、魔素と言われ、大気中を漂う。そして、たまたまそこにいた別の生き物が過剰に摂取してしまうと、体に影響を及ぼし、魔物になってしまうのだそうだ。


 有り余る魔力は、それを持つものを尊大にし、頂点に立とうと他を攻撃する。その、凶暴性から、魔物と呼ばれるようになると、魔王は悲しげに言った。

 

「争いの場に魔物が多く現れるのは、そこに魔素が多く漂うから。より強くなりたい、と魔物が吸い寄せられてくるからなんだよ。だから、私が魔物を人間にけしかけている訳じゃない。お前らが魔物を招くんだ。理解したか?」

「そうか……」

 

 確かに争いの多い国ほど、魔物の出現率が高い。その原因が人の死であるとするなら……頷ける。だけど。

「ならば、なぜお前は魔王と呼ばれているんだ?」

 俺の問いに魔王は眉を寄せる。

 

「分からんな。私はただ、自分の大切なものを攻撃する人間らを追い払っていただけなんだがな。まあ、魔力だけは半端なく持っているから、自然に魔物が集まってしまうのも原因の1つかもしれない」

 

 魔王城は人の往来のない山間部にある。そこに住み着いた変わり者を、いつしか人は恐れる様になり、魔王と呼ぶようになったのかも知れない。

 

「なるほどな。理解した」

「え?……ああ、そうか。なら良かった。もう、襲うなよ」

「ああ。分かった」

 お前、素直だな。と魔王は呟くと、ここに暫く置いてくれと言う俺の要望に破顔し、頷いてくれた。

 

 俺はそれから数日間を魔王城で過ごし、魔王フェリベールと色々な話をした。そして、彼が人間を襲わないだろうと確信した俺は、それを俺の国のやつらにも理解してもらおうと、魔王城を後にし、国王の元を訪れたのだった。


 だが……それは、間違いだった。

 他国の侵略を正義とする国王にとって、魔王を庇い、平和を宣言した俺は、ただ邪魔なだけの勇者だったのだ。

 

 異端者とされた俺は、魔王との戦いで魔力を使い果たしていた為、あっさりと捕まり地下牢に繋がれた。

 そして、ポイント稼げず、そのまま逃げる事も叶わないまま……死を迎える事となった。

 

 フェリベールは言った。

 獰猛な生き物ほど、魔物になりやすい。互いを殺し合うからだ、と。

 俺はその時、彼は猛獣か何かの事を言っているのだと思っていた。しかし俺は、自分が牢に繋がれてみて、初めて悟った。

 一番獰猛な生き物は人間なのではないかと。


◇◇◇ 

 

 フェリベール……。

 もし君だとするならば、魔物を率いる理由は別にあるだろう。

 彼の住む場所には自然に魔物が寄って来ると言う。魔物は魔力の強い者が好きだから。

 

(彼の住居に我々が近づきすぎたのかもしれない)

 彼はきっと森の中で今も静かに暮らしている事だろうに。

 

 死人は出ていないし、これくらいの怪我人で済んだのは、フェリベールが自らの魔力を餌に、魔物を引き付けてくれたおかげではないだろうか。

「近くにいるのか……?」

 いるのなら、また会いたいと思う……だが。

 

「ルービー?何か分かったか?」

 応援が到着したのか、松明が増え、賑わいの増した野営地の端。考え事をしながらウロウロしていた俺の肩に、フィンが手を乗せた。

「いや……何でもない……」

 

 俺は真実を話すのが怖くてたまらなかった。

 そこに再び、死が待っているようで……。

 (許してくれ。フェリベール……俺はもう少し生きたい)

 

 でも……。

 こんな俺では、美亜の前に胸を張って立てない。

 ……せめてフェリベールに会い、庇えない事を謝ろう。

 

「少し出てくる。もう大きな魔物は出ないだろう。構わず休んでくれ」

「いや、俺も行くよ」

 フィンは、俺の腕を躊躇いなく取る。俺の行こうとしている先には、先程までの恐ろしい魔物がまだ残っているかもしれないのに。

 

「単なる調査だ。来なくていい」

「それは来るなって事か?」

 何も言わない俺に、フィンはため息をついた。


「……はぁ、分かったよ。ルービー、君が強い事は分かってるけどさ、俺は心配なんだよ。頼むから、全てを倒そうとはせずに、危ない時はちゃんと逃げてくれよ?」

 フィンはそう言うと、絶対だぞ、と更に念を押す。

「分かってる」

 俺は苦笑すると、松明も持たずに、森へと入っていった。

 

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