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40話 特別な夜のお茶会

 その日、ノースティアラ王国、改め、ティアラ王国の中心、ティナ城の庭園では特別な夜のお茶会が開かれていた。

 

 美しいドレスを着飾った令嬢らが、夜空の元、たくさんのランプに照らされた、みずみずしい芝生の上を歩き、可愛らしく装飾された会場へと吸い込まれていく。


 その中、ひときわ目立つ美丈夫。ルービー・スタンリー様が、非常に珍しい事に、そのお顔に優しい微笑をたたえながら入って来た。

 その瞳は澄んだ青。銀糸のようなプラチナブロンドの髪が、ランプの明かりに照らされ、淡く輝きを増す。

 まるで星空を閉じ込めた様な美しさに、皆が息を飲み、道を開けた。


 だが、驚きはそれだけではなかった。

 ルービー様のその隣に、ほっそりとした女性の姿が見えたからだ。なんと、ルービー様はおひとりではなく、女性をエスコートしていたのだ。

 

 白磁の様な肌に、柔らかそうな白い髪。まつ毛まで真っ白なその女性は、まるで雪から生まれた妖精の様に可愛らしかった。その儚い美しさに、会場にいる男性が皆、感嘆のため息を着いた。


 しかし、ルービー様を目当てに出席したご令嬢らは、いきなり現れた手強そうな敵に、ギラギラした嫉妬を燃やしていた。

「何!?あの女!!」

「ルービー様の腕を取るなんて、100年早いわ!!」

 口元を扇で隠し、呟く罵声で会場内は熱くなっていた。


 出席者の視線を集めながらも、2人は真っ直ぐにフィン王太子の元へと歩いてゆく。そして、フィン王太子が振り向いた時、更に驚くべき事が起きた。

 

「ミーア!何て可愛いらしさなんだ!!」

 フィン王太子がそれはそれは嬉しそうに、その娘へと駆け寄る。そして泣きそうな顔でその顔を覗き込み、

「ずっと会いたかった……。元気そうで……本当に良かった」

 その頭を撫でたかと思うと、優しく抱き込んだのだ。


「「きゃぁぁぁ――!!」」

 途端、ご令嬢らの叫び声が会場内に鳴り響く。ミステリアスなルービーの人気を上回るリアル王子様、フィン王太子のご乱心に、ご令嬢らは皆、驚きに悲鳴を上げていた。

 その声に、フィン王子はハッと気付き、娘を放すと、ルービー様に謝った。そして、少し照れた様に手を挙げ、皆を静めた。


「さあ!そろそろ時間だ。始めようか!」

 気絶する令嬢のいる中の、波乱のお茶会の始まりである。

 


「では!只今より、月下の乙女の為の特別な夜のお茶会を、開催したいと思います。でもその前に、アルビー国王陛下より、一言、お言葉を賜りたいと思います。月下の乙女、前へ!!」

 数週間前とは別人の様に、しっかりとした口調で会を仕切るのはアレン王子だ。アレン王子は月下の乙女を中央の大きなガゼボの前に並ばせると、その人数をしっかりと確認した。その数、25名。その多くは、人に戻れない事への心労からか、とても憔悴して見えた。


 何が始まるのだろうかとザワつく会場に、程なくしてアルビー国王が姿を現した。皆、膝を折り頭を下げる。

 

「皆の者、楽にしてくれ。此度のお茶会に参加してくれた事、大変有難く思うぞ。今日は心ゆくまで楽しんで欲しい。……と言いたいところだが、そなたらは楽しむどころではないと言った様子だな」

 王は目の前に傅く、月下の乙女らへと目を向ける。

 

「今日のお茶会はそなたらが主役。なのに、そんな浮かない顔をさせておく訳にはいかないだろう。フィン!お菓子を持て!」

 王はそう指示すると、ニコリと魅力的な笑みを乙女らに向ける。

「ハッ!」

 子気味良い返事と共に、フィン王子は可愛らしく装飾されたワゴンを王の前に持たせた。

 

 まるで花屋の屋台のような大きなワゴンには、幾つもの可愛らしい花が載せられていた。甘い香りのする花は砂糖菓子のようで、小さな薔薇の様な可憐なお菓子に、乙女らは、皆、ほぅと目を見張った。

 

「これは、そなたらの為に用意させてもらったプレゼントだ。今から皆に、これを食べて貰おうと思う。だが、配る前に、この花、月花について語らせて欲しい」

 月花。その花の名前に、皆、息を呑み、見上げた。王は楽しそうに続ける。

 

「そう、これは皆も知っておる、あの、月花だ。この菓子には、月花の雫の素である月花が大量に含まれているのだよ。その効能は、察しの通り、食べれば、たちどころに月下病が治ると言う代物じゃ」


 王の御前だと言うのに、ザワザワと会場内がどよめいた。

「ああ……そんな!!」

 乙女の1人が感極まって声を上げる。王はそれをたしなめるどころか、その乙女の前に膝まづいて、優しくその肩に手を置いた。

「時間がかかってすまなかった。だが、もう大丈夫」

 泣き出した乙女の頭を撫で、王は立ち上がる。


「これを手に入れてくれたのは我が息子フィンと、スタンリー家執事だ。だがその治癒効果を確たるものにし、研究を重ね、工夫してくれたのはディディエラ学園の生徒たち。どうか、皆、彼ら彼女らに感謝しながら、食べて欲しい。……最後に一言!皆のいっそうの幸せを祈る。おめでとう!」


 会場内は割れんばかりの拍手で埋め尽くされた。乙女だけでなく、乙女の家族もまた、涙を流していた。

 すぐに、フィン王子とアレン王子の手によってお菓子が配られる。

 乙女達は満面の笑みで受け取ったそれを、家族らに見守られながら口に運んだ。会場内は幸せで満ち溢れていた。


 

 ワゴンに群がりお菓子を受け取る乙女たちを、後ろの方から眺めていたミーアは、不意に肩を抱かれて振り向いた。

「ミーア。君も貰いに行くんだよ」

「私も、ですの?」

 ルービー様は少々強引に、首を傾げるミーアをお菓子の方へと連れて行く。

 

「そうだよ、ミーア。ようやくこれで君の魔法は解ける。もう猫にならなくていいんだよ」

「猫に?不思議……」

 夜には人間になるけれど、ミーアは自分を猫だと思っていた。ミーアになる前は人だった様な気もするけれど……。

「何が不思議なのかい?」

「だってミーアは猫ですのに……」


 その言葉に、お菓子を配っていたフィンが、ギンッ!と振り向き、慌ててミーアに駆け寄るとその口を塞いだ。

「ミーア、やだな……。君は猫じゃないだろ?」

 そのあからさまな誤魔化しに、ルービーの眉間にシワが寄る。

「どういう事だ?フィン。……そうか、オーラン家の奴ら……ミーアを猫と……なるほど」

 ブツブツと言いながら、どんどん眉間のシワを深くするルービー。

 と、そこに、お菓子を配っていたアレンの焦った声が聞こえてきた。

 

「何故?……何故だ!!お菓子が足りない!!」

 その唖然とした声に、フィンも駆け寄り、ワゴンを覗き込んだ。

「本当だ……。1つ足りない……」


 お菓子は残り1個。

 確かに残る月下の乙女はミーア1人だ。だが、もう1人、乙女ではないが、お菓子を必要とする者がここにいた。そう……フィンだ。

「なんて事だ。誰か――!!2つ持ってはないか!?」


 ほとんどの乙女は、お菓子を既に食べてしまっていた。残る乙女も、慌ててパクリと口に入れる。

「そんな……数は何度も確かめた……問題なかったんだ……」

 

 月花の結晶は、その効果が確実に表れるよう、きっちり人数分に分けてあったはずなのだ。

 がくりと座り込むアレン。

 これにはさすがのフィンも、落胆が隠ず、片手で顔を覆った。


 そこへ、注目のワゴンを皆と一緒に覗き込んでいたミーアが、その残る1つのお菓子を手に取り、フィンへと差し出した。

「どうされたのですか?足りなくはないですわ。これはフィン様の分ですわよ?」

 

 それを聞き、ハッとアレンは立ち上がる。

「そうだよ、それはお兄様が食べるべきだ。お兄様はこの国には欠かせない人物だ!」

 うんうんと、周りにいる者達も頷き、口々に呟く。

「そんなの当たり前の事だ」

「そうだな、他は有り得ない」

「ご令嬢には悪いが、フィン様はこの国にとって大切なお方だ」

 

「フィン。お前が食べろ」

 最後にルービーがそう言い、顔を伏せていたフィンは驚きに顔を上げた。

 

「俺がそんな事、出来るわけないだろ!?俺だってミーアの魔法を解きたい!彼女を幸せにしたいんだ!!」

 そう叫ぶフィンの肩に手を乗せ、ルービーは落ち着く様にポンポンと叩いた。

 

「気持ちは分かる。だが、心配ない。俺はミーアがたとえ猫であろうとも、手放すつもりは一切無い。ミーアは俺が必ず幸せにするよ。ね?……そうだろ、ミーア?」

 ルービーは優しくミーアを抱き寄せた。

「はい。ミーアは猫ですが、出来る猫なので、問題ありません!!」

 

 分かっているのかいないのか……。

 ミーアのキッパリとしたその返事に、フィンは苦笑した。そして、決心したように、ミーアの差し出したお菓子へと手を伸ばす。

「分かったよ。ミーア、本当にいいんだね?」

 ミーアは素直にこくんと、頷いた。

 

「分かった……でも、見られてると食べづらいから、目を閉じていて欲しい」

 フィンはそう言うと、お菓子をつまみ上げる。そしてミーアが目を閉じるのを確認すると。

 

「いいかい?」

「は……いっ?」

 返事をするミーアの口に、それをぽんっと差し入れたのだ。

「……むぐ」

 …………ゴクン。


「ミャー!!食べてしまいましたわ!!」

 あまりの事にシンとなる会場に、ミーアの叫び声が響き渡る。

 

「なんて事を!お兄様!!」

 アレンは慌ててフィンの肩に手をかけた。

 フィンはそんなアレンに晴れやかな微笑みを向けた。

「アレン、俺の大志はお前に託すよ。大丈夫、お前なら絶対にやれるから」

 

 そして、フィンは唖然とするアレンをそのままに、ルービーに抱き寄せられたミーアをの前に膝をついた。そして、今にも泣き出しそうな彼女のその両頬に手をやり、上を向かせると、真剣な顔で語りかけた。

 

「ミーア、ちゃんと聞いてくれ。大切な事なんだ」

 こくんと頷くミーアに微笑むと、フィンは続ける。

「ミーア、君は猫じゃない。人間なんだよ」

 

「人間?ミーアは猫で……?」

「違うんだ。君は最初から人間だったんだよ。魔法にかけられていたんだ。そして、今、その魔法が解けた。分かるかい?」

 

 ミーアは思わず自分の手を、身体を見、首を傾げた。

「ふふっ。分かるのは明日の朝だね。太陽を浴びる君の姿は、さぞかし美しいだろうね、楽しみだ」

 ミーアはプルプルと首を振る。

「けれど、フィン様が……」

 

 フィンは、ポロポロと流れはじめたミーアの涙を拭き、優しくその胸に抱いた。

「ミーア、ルービーを幸せにできるのは君だけなんだ。ルービーを頼むよ」

 フィンはミーアを抱きしめたままそう言い、ミーアの肩に顔を埋め、自身の涙を隠したのだった。


 皆がその涙につられそうになったその時、静かな悲しみとは無縁の金切り声が会場の中に響いた。

「そんな……なんで?……なんでミーアが食べちゃうのよ。ルービー様だけじゃなくてフィン様まで……なんで!?」

 

 ギョッと振り向いた先には、ギトギトと化粧をした1人のご令嬢が、両手をブンブンと振りながら、悔しがっていた。

「みんなもそう思ってるんでしょ!?なんであの子だけが可愛がられるの!ただの猫なのに!!」

 令嬢のその言葉にいち早く反応したのは月下の乙女達だった。


「ただの猫ですって!?私見ましたわ!乙女でもないあの方がお菓子を貰うのを!」

「私もですわ!」

 乙女たちの指摘に、守衛はすぐに動きだす。

 令嬢は抵抗虚しく、あっという間に拘束された。

 

「ちょっと!!何?辞めてよ!!ミーア!全部あなたのせいよ!!」

 だが、その叫び声はミーアには届かない。フィンとルービーがしっかりとミーアの目と耳を塞いでいたから。

 

 駆けつけたアレンの手によって令嬢のバッグの中からお菓子が見つかり、金切り声は嗚咽と変わる。

 不届き者は引っ捉えられ、お菓子はすぐにフィンの元に届けられた。


 涙の残るフィンは、皆の前で照れながらお菓子を食べ……泣き笑いするフィンに、自然と拍手が沸き起る。

 お茶会会場は再び幸せで溢れたのだった。


「さあ、これで全ての乙女に菓子が回った。皆、存分に楽しんでくれ!!」

 アルビー国王の掛け声に、皆の顔は綻ぶ。

 

 参加者は皆、思い思いに好きなテーブルに付き、豪華な食事に舌鼓をうった。何よりも憂いのなくなった乙女たちの笑顔が、その会を盛り上げ、その特別な夜のお茶会は大成功をおさめたのだった。

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