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38話 ミーア救出作戦

 お天気のいい午後、窓辺に座ったプリシラのお膝の上で、日向ぼっこをしていたミーアは、乱暴にガシガシと撫でられ、ビクリとしっぽを立てた。

 

「もう、お父様ったら、どうしてお茶会に行かせてくれないのかしら。今回も私が1人でミーアを連れて行けばいいだけの事じゃない?」

 今日のプリシラはとても機嫌が悪い。今話題のお茶会に行けなくなってしまって、悲しんでいる様子だった。

 

「そうね。でも、プリシラ。あれだけの贈り物をいただいたのよ?ルービー様があなた以外の女性に乗換えるってなんて、有り得ないんじゃない?」

 そんなプリシラを慰めるのはミリシアお母様だ。ミリシア様はとても美しい。ミーアは恐れ多くて、お話すらした事がないけれど、プリシラはよく、お母様に甘えて手をあげていた。今も……。

 

「分からないわよ。きっと皆、猛アピールするに違いないわ!!……お母様、早くルービー様と婚約出来るよう、もう一度、お父様にお願いしてちょうだい!」

「分かったわ!分かったから、叩かないでちょうだい、プリシラ!!」

 

 ルービー様のお名前が出る度に、ミーアの小さな胸は苦しくなる。その原因不明の痛みにミーアはずっと眠れず、昨日は屋敷の廊下、全てを隅々まで磨き上げてしまった。

 そのお陰か、ふわふわとした眠りがようやく訪れた時、不意にプリシラが立ち上がり、ミーアはコロりと落とされてしまった。

 

「まあ!スタンリー家の執事様よ!今、大きな花束を抱えていらっしゃるのが見えましたわ!」

 プリシラはそう叫ぶと、すぐに支度を整え始める。

「まあ大変!そろそろだとおもったわ!」

 ミリシアも慌てて部屋を出て行き、ミーアのドキドキは最高潮になる。ミーアは震え、部屋の隅に蹲った。

 

 

 一方、大きな花束を抱えた執事が向かった客間では、キラキラと期待に満ちた顔を向けるミリシアと、対照的に憔悴した様子のジェスが、吹き出す汗を懸命に拭いながら必死に弁解していた。

 

「いや、あんな娘など、嫁に出すわけにはゆきません。あれは、何と言うか、その……猫なんですよ?それより、うちにはちゃんとした娘がいましてね。それはそれは美しく、聡明な娘でして……プリシラ!いるのだろ?入りなさい!」


 扉に耳をつけて聞いていたプリシラは、静かにドアを開けると綺麗なお辞儀をして見せた。

「プリシラ・オーランと申し……」

「ルービー様はミーア穣との結婚をお望みです。まさか、また森で行方不明なんて事、ありませんよね?」

 プリシラの挨拶を遮り、執事はジェスへと詰め寄った。

 こちらを見る事すらしない執事の横柄さに、プリシラとミリシアは唖然と固まる。

 ジェスは寒気を感じ、顔を紫に染めた。

「い……いや、まさか……ははは」

 

 ジェスは怖かった。

 ミーアを嫁に出せば、ミーアを森に捨てた事がバレてしまうだろう。補助金の不正所得もバレては困る。何故ならそのお金は全て、浪費癖のある妻と娘が使い込んで、残ってはないからだ。

 

 そうだ、こうなったらミーアが猫のうちに、処分屋に頼んで殺って貰おう。飼い猫が街にでて、行方不明になる事はよくある事だ。

 ジェスは心に決め、今日はどうにかこの執事を追い返そうと取り繕う事にした。

 

「英雄ルービー様ほどのお方が、あの猫のどこがお気に召したのか知りませんが、月花病はもう治らないと聞きますし、そんな猫モドキを側に置けば、そのお名前にも傷がつくのではありませんか?」

 ピクリと、執事の眉が上がる。何かが引っかかった様だ。

 

 そこでジェスは思い出した。薬なしでは生きられない月下の乙女は、従順で言う事を聞かせやすい。そう、あぶない趣味を持った友人が話していた事を。

 そうか、ルービー様も娘を奴隷の様に扱いたいのかと、ジェスはグレソンに卑下た笑みを向けた。


「あ、もしかして、ルービー様も月下の乙女を飼うのが目的で?」

 

 だが、それを聞いた執事は、静かに怒りを露にしていた。

「主人を侮辱する事はやめて頂きたい」

「ひっ……」

 地を這うような声にジェスは震えあがる。だがここで執事様は諦めた様に息を吐いた。


「しかし、それをあなたに言ったところで理解して頂けそうもありませんね。……ところで、今日こそは、ミーア穣にお会い出来ますでしょうか?」

「……へ?」

 突然の申し出に、戸惑うジェスは汗の滴るハンカチで、更に額を潤わせた。

 

「いえ、何も言わなくて結構です。今の時間は恐らく猫の姿をしておいででしょう?ああ、勿論、誰にも喋りませんよ……今はね。ですが、ひと目、確認しておきたくてね。何せ、主人は月下の乙女であるミーア嬢が大好きでして、結婚を許していただけるのなら、感謝の気持ちに、御礼金は惜しまないと申しておりましてね」 

「そう言う事でしたら、すぐに連れて参ります……!」

 そう、これは月下の乙女売買の取り引きだ。ジェスは晴れやかな表情で申し出た。

 だが、執事は厳しい表情で立ち上がる。

 

「いえ、結構。勝手に探させて頂きます。では、また妙後日、書類を揃えて伺わせて頂きます。先に言っておきますが、それまでにミーア嬢に何かあれば、今の話しは無かったことに。それと、明後日のフィン王太子主催のお茶会にはルービー様も参加されます。ミーア嬢は必ず出席させる事。いいですね?」

 無言で頷くジェスを確認した執事は、疲れた様子で扉へと向かった。そして、これだけはやりたくなかったんだがな、と独りごちながら客間を出た。

 

「何でミーアなの!?お父様の馬鹿――!!」

「そうですわよ、あなた!!プリシラという娘がいながら、何と言うことを!!」

「黙れ!!お前らが金を使い込むからだろ!!」


 

 閉めた扉の向こうから、妻と娘の金切り声が聞こえ、グレソンはこれで良かったんだと自分を納得させていた。

 しかし、廊下の向こうでお辞儀する、赤毛の少女を見た時、グレソンは思わず顔を背けてしまった。

 

「ミーアを買うとは思い切った事をするのね」

 ミーアと一緒に育ったというカミラは、グレソンに近づき、一言目から憎まれ口を叩いた。グレソンは思わず声を荒らげてしまう。

「あの手の人間に、ルービー様やミーアの様な善人の事を理解させるのは無理だ。これ以上脅せばミーアに危険が及ぶと判断した……悪いか?」


 だが、カミラは大きく頷いた。

「いいえ。正しい判断ですわ」

「え?」

 呆けるグレソンに、カミラはスカートの裾を摘み、美しいお辞儀をした。

「よくお越しになられました、グレソン様。完全にお忘れになっていたのだと思っておりましたわ」

 

 グレソンはピクリと眉を上げ、ようやくカミラを見た。

「そんな訳はないだろ?ルービー様が大切な人を忘れるなど有り得ない。……で?ミーアはどこだ?」

 グレソンは気を取り直し、数日前に別れたばかりの白猫を探し始めた。

「そこよ」

 グレソンがカミラの指さす先に目をやると、扉の影からこっそりこちらを伺う子猫がチラリと見えた。


 グレソンは心の底から安堵した。別れた時は、とても疲れた様子で、眠ってしまっていたからだ。

 だが、いつもならここで、お兄様!と言わんばかりに駆け寄るはずのミーアは、寄って来るどころか、脅えた様に姿を隠してしまった。

 

「カミラ。あいつ、どうしたんだ?」

 グレソンの慌てた様子にカミラは悲しそうに目を伏せた。

「あの子、この屋敷を出てからの事、全て夢という事にしちゃったのよ。ミーアらしいでしょ?」

「何?夢だって!?……そんな、馬鹿な事……」

 

 グレソンは唖然とする。だが、ミーアなら有り得るかもと眉を寄せた。

 外の世界を知らない彼女は、現実離れした日常の変化を、全て夢だと思ってしまったのかも知れない。

 しかし、これはあんまりじゃないか?

 グレソンは寂しさを感じる自分に気付き、そんな自分に驚いていた。


 戸惑うグレソンに、カミラは、更に追い討ちをかけるように、涙声で叫んだ。

「だって仕方ないでしょ、期待するだけ無駄。ミーアの居場所はここしかないのだから!……希望すら与える事が出来ないとは、スタンリー家の執事も大した事ないのね。ちなみに、お茶会は欠席よ。ドレスも靴もないの。行ける訳がないわ!」

「なんだって!?」

 迎えに来れば、喜んでくれると思っていた。

 グレソンは自分の考えの浅はかさに、唇を噛んだ。

 守るべき相手の気持ちを読み違えるなど、執事失格。癒し系執事を語る資格もないではないか!

 

 グレソンはぎゅっと拳を握りしめる。

「分かった。待ってろ。これから、全て現実だったと、思いしらせてやる。全力でミーアをサポートすると誓うよ」


 グレソンのその悔しげな宣言に、カミラもようやく溜飲が下がったのか、笑顔を見せた。

「そういう事なら、私も協力を惜しまないわ。絶対にミーアを幸せにしてみせるわよ!」

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