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37話 ミーアは夢から覚めました!

 目を覚ますと、そこは、オーラン家のカミラの部屋だった。

 ミーアは質素なベッドの上に起き上がり、キョトンと首を傾げた。

「あら?夢……だったの?」

 ミーアがキョロキョロと辺りを見回した時、扉が乱暴に開けられ、カミラが飛び込んで来た。

 

「ミーア!!起きたのね!良かった」

 カミラに思い切り体当たりされ、抱きしめられたミーアは驚きに目をぱちくりさせる。

「どうしたのですの?カミラ」

「どうもこうもないわよ!ミーア、あなた、2日も眠っていたのよ!どれだけ心配したか……」

 カミラは声を詰まらせると、見る間にその瞳を潤ませる。ミーアは慌てて、カミラの手を取った。

 

「ごめんなさい。でも、寝坊しただけですのよ?……カミラは大袈裟ね」

 ミーアはにこりと微笑んだ。天使の笑顔にカミラはぽわぁーとするも、すぐに嫌な予感に眉を顰める。

「ミーア……あなた、もしかして夢だと思ってる?」

 


 あの日、王都を襲った魔物の群れは、フィン王子と魔導師ルービーの放った魔法により浄化され、月海の森の中へと散り散りに散って行ったと言う。

 

 人々は歓喜に湧き、王都はお祭り騒ぎとなった。

 国王と魔王は固く手を結び、友好を宣言し、その勝利の立役者、フィン王太子とルービー様は、皆に囲まれながら、王城へと華々しい凱旋をした。

 

 その中、力を使い果たし、眠ってしまった猫のミーアは、スタンリー家の者によって保護され、カミラと共に自分の家へと丁寧に送り届けられたのだった。

 

 

「ええ。夢オチってやつですわね!とっても素敵な夢でしたのよ?」

「嘘でしょ……」

 フワッとした性格もここまできたら、手が付けられない。カミラは頭を抱えた。

 

 だが、カミラはミーアに期待を持たせる様な事を、迂闊に口に出せなかった。

 だって、あの戦いでミーアは大活躍したはずなのに、以前と変わらない扱いのままだし、この2日、あれだけミーアを大切に扱ってくれたスタンリー家からも、全く音沙汰無し状態だったのだ。


 しかしカミラは、ムカつきながらも気持ちをバッサリと切り替える。金持ちの考える事など、当てにするだけ無駄。ミーアが良ければ全てよし!なのだ。

「ま、ミーアが無事ならそれでいいのよ。それに、1ついい事があったとすれば、ジェス・オーランの死ぬほど驚く顔が見れた事ね」

 ニヤニヤと思い出し笑いをする。

 

 帰って来たミーアとカミラを迎えたジェスは、驚きに、その顔を、青を通り越し、紫に変色させた。

 お陰で、カミラの頭の中で、ジェスはイノシシからガマガエルへと、めでたく降格していた。


「さ、ミーア。お腹すいたでしょ?すぐに何か持って来るわ」

 カミラが言う。

「大丈夫、自分で行けますわよ?」

 そう言い、ベッドから降りる白い妖精を、カミラは慌てて止めた。

 

「ミーア、待って。実はね、オーラン家の使用人はみんな辞めちゃって、今は違う人が執事になって管理してるの。それが頭の硬いジジイでさ、めっちゃケチなの。ミーアが出て行ったら、多分、ミルクしかくれないわよ?」


 ジェスは未だミーアを人間だと認めていない。恐らくこの先も、一生、認める事はないだろう。

 何故ならば、月花の雫は永遠に失われたのだから。


 聖女の失踪。

 今、王都で1番の問題がそれだった。

 今はまだ、月花の雫の効果が残っているものの、効果がなくなれば月下の乙女が人に戻れるのは夜だけになる。国は全力を上げて、聖女を探していた。

 

 しかし、月下の補助金を不正に受け取っていたジェスは、憂いが無くなったと大喜びし、お陰でミーアは猫扱いのままとなってしまった。

 そして、それはオーラン家全体の決定であり、ミーアは再び猫として、この家に飼われる事になってしまっていた。


「わたくし、ミルクは好きですわよ?」

 首を傾げるミーアに、カミラの胸は潰れそうに痛む。

「クソっ……こんなに可愛いのに、この仕打ち……」

 相変わらず口の悪いカミラは、神様を呪いながら部屋を出ていった。

 


 だが、次の日……。

 そんなオーラン家に、それはそれは素晴らしい花束が届いた。

 

 その差出人は、ルービー・スタンリー公爵様。この国を救った英雄の名に、ジェス・オーランの妻、ミリシアは舞い上がった。

 でも、その宛先は……。

 

「ミーア?猫に花束?」

 名前を間違えたに違いない。

 花束はプリシラに渡され、プリシラは飛び跳ねながら喜んだ。

 

(まあ!良かったですわね!)

 猫のミーアは、部屋の隅でプリシラを見ながらミャーと鳴いた。

 

 プリシラの喜ぶ顔が見れて嬉しい。でも、その小さな胸はチクリと痛む。

(渉様がルービー様だなんて、そんな都合の事なんて、ある訳がありません。あれは夢でしたのよ)


 だが、そのまた次の日、今度は見るからに高価なネックレスが届き、オーラン家は歓喜に震えた。

 しかしその宛先も……。

 

「猫にネックレスなんて無理ですのに……。ルービー様は少し抜けてらっしゃるのね」

 首を傾げながらもミリシアは笑いが止まらない。

 プリシラの喜びようは更に凄かった。

 

「お母様、お父様。婚約の準備をお願い致しますわ!」

「そうね、ジェス!そろそろ……って、あなた?どうされたのですか?具合が悪いのですの?」

 喜ぶ妻と娘を見ながら、ジェスは震える手で胸を押さえていた。


 ジェスは覚えていた。スタンリー家の執事の執拗さを。これは何かの嫌がらせなのではないかと、疑い始めていた。

「ああ……今夜も眠れそうもない……」


 更に追い討ちをかけるように、次の日には、とても美しい靴が届き、その次の日には、見た事もない程、豪華なドレスが届き……。

「まあ、サイズをお間違えじゃないかしら?」

 妻は首を傾げ、ジェスはとうとう寝込んでしまった。

 

 そして、そんなジェスに、とどめを刺す様に、次の日、その招待状は届いたのだった。


「『月下の乙女の為の特別なお茶会』だと!?ああ……胸が苦しい。死にそうだ……」

「あなた!!」

「お父様!!」

 

◇◇◇


「おっと……不参加とは。これはまずいですね」

 

 日が暮れ、明かりの灯された王宮騎士団の執務室の中。

 つい先程、猫から人間へと戻ったフィン王子は、王宮魔道士のルービーと、仮の騎士団副隊長として呼んだアルスターとで、オルス捜索の打ち合わせをしていた。

 

 思わず、といった様子で呟いたのは、グレソンだ。

 未だ、スタンリー家に滞在している猫のフィンを、城の執務室に送るついでに、お茶会出欠の確認を手伝っていた執事のその呟きに、ルービーは顔色を変えた。

 

 不参加の理由は伯爵の体調不良。グレソンは不機嫌そうに、眉をひそめていた。

「大丈夫なのか!?」

 グレソンに詰め寄るルービーの心配は、勿論、オーラン伯爵の体調ではない。

「だから、無理矢理にでも連れ帰るべきだったんだ……」

 ルービーは立ち上がり、扉の方へと歩いてゆく。

 

「そんな事をしたら、御家に傷が付きます。然るべき手順を踏んで……って、何方に行かれるのです!?」

 扉に手をかけ、ルービーが言葉を投げ返す。

「俺が直接行けばいいだけの事。最短で婚儀を結んでやる」

 だが、扉を開けたところで、フィンが静かに窘めた。

 

「かなり強引だね、ルービー。彼女にとっては一生に一度の大切な事だよ?そんな投げやりでいいのかい?」

 グッ……。ルービーは呻くと引き返し、ソファにドスンと座る。

 

「では、どうすればいいんだ?恋文は無理だが、思いつく限りの贈り物はした。後は会いにゆくしかないじゃないか。もし、ミーアがまた森に捨てられたらと思うと……」

 ルービーは頭を抱え蹲る。この国を救った英雄が半泣きとは。フィンはグレソンにしかめっ面をして見せた。


 だが、グレソンには慎重にやらなければいけない理由があった。ルービーが今のミーアの状況を知れば、激昂し、オーラン家当主を殺しかねない。グレソンはルービーを全力で引き留めなければならなかったのだ。


「大丈夫ですよ、護衛として、影は入れています。ですから、どうか、お茶会まで待って下さいませんか?」

「嫌だ。ミーアに会いたい」

 まるで子どもの様な主人の言い草に、グレソンは眉をひそめるも、それも仕方ない事だとため息をついた。

 

 自分の事を話さない寡黙な主人だが、戦いの後、かなり長い間、ミーアだけを探し求めていた事をボソリと漏らしたのだ。いつからかは明かさなかったが、その純愛に、さすがのグレソンも心をやられた。だからこそ、完璧なカタチでミーアを我が屋敷に迎えなければならない。グレソンは、ここはルービーを厳しく制する事にした。


「ルービー様。あなたはミーアと約束したとおっしゃりましたが、恐らく今、婚儀を執り行うのは不可能です。ミーアは自分を猫だと思っております。ですから、あなたはどんなに頑張っても、飼い主にしかなれないでしょう」

 これにはルービーも、確かに……と思わない訳にはいかない。何せ、ミーアはかなりふわっとした性格。そのせいで、前世で一度、プロポーズに失敗しているのだから。

 フィンも頷く。

 

「俺だって、ミーアには誰よりも幸せになって欲しいと思っている。だからこそ、今度のお茶会は必ず成功させなければならないんだ。準備に時間がかかってしまって申し訳ないが、あと少しだけ、俺に時間をくれないか?……グレソン。頼むから、ミーアをお茶会に参加させてくれ。これは王命だと思ってくれていい」

 フィンの厳しい顔に、グレソンも真剣な顔で頷いた。

「命令されなくてもそのつもりですよ。ジェスめ……覚悟しとけよ……」

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