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34話 王都攻防戦

 王都の東門は通称裏門とも呼ばれ、大きな都市との繋がりがない為、最も人通りの少ない門だった。長閑な田園風景の広がる、よく言えば田舎道で、門を出れば手付かずの自然広がる大地だった。

 これを幸と呼ぶか不幸と呼ぶか……。

 

 人的被害はないものの、魔物の群れは障害物もなく、順調に突き進み、想像を超える速さで王都に到着しつつあった。

 王都を取り巻く深い堀の向こう側、互いを威嚇し、牽制し合いながらも行進する魔物の数は万を超えるだろう。多いのはネズミや狼だが、中に人間であったであろう姿が見え、城壁の上の最も高い尖塔より監視していた兵らは体を震わせた。


 対して、固く閉められた東門を前に集まった者は多くない。だが、兵や冒険者に混じり、武装した市民や、手を貸そうと集まった市民らが混じっているのを見、アルビー王はとても満足気な様子で、ノースティアラ王国の貴重な有志を激励した。

 それは、まず隣に立つ男についての説明から始まった。

 

「さて、皆はここにいる者についての説明を求めておる事だろう。この者をただのオッサンだと言う者もいれば、魔王だと言う者もいる。正解はそのどちらも、だ。彼の名はフェリベール。この国の真なる王である」

 

 真なる王。その言葉に、集まった者たちはどよめいた。アルビー王が自身の口で、その男が魔王であると宣言したが、それが霞むほどの衝撃に皆、声をあげずにはいられなかったのだ。

 中にはフェリベールの書を知るディディエラの様に、羨望の眼差しを向けるものもいる。しかし集まった者の多くは困惑し、互いに顔を見合わせた。

 王は楽しそうに続ける。

 

「かの真王は、自国を魔物や他国から守る為、自ら魔王を名乗ったと聞く。まあ、詳細は戦いの後でディディエラから聞くといい。問題は、何故、彼が魔王となったかだ。見てわかるように、フェリベールはかつては普通の人間であった。それがこの様に、角を持った魔王へと変貌させるきっかけ。それは……戦争だ。皆も知っての通り、戦が起きれば魔物が生まれる。フェリベールもまた、その被害者なのだ!」

 

 まさか……。

 人々がざわめく中、衛兵たちが声を大にしてそれを肯定する。魔物の群れの中に、人間の姿があるのを見た!と。アルビー王は頷く。


「フェリベール王は魔物となりながらも、自国を守る為に戦い続け、敵を退けたと、この国の古き書物に記されていた。では、何故、彼は魔物になりながらも、人の心を失わなかったのだろうか。それは……愛国心ではないのか?今、彼がここに立っているのがその証!皆、聞け!!」

 

 門の外では、獣の足音が地面を揺らし、吐く息と鳴き声が空気を轟かせていた。だが、東門に集まった者らは皆、一身に王の次の言葉を待っていた。


「フェリベール王の守った国の名はサウスティアラ王国、ノースティアラ王国に融合された、今のこの国だ。彼はこの国の危機を知り、再びこの国を守ろうと立ち上がったのだ!」

 

 アルビー王は静かに皆を見据える。

 

「今、我が国は最大の危機に陥っている。それは、我々がこの苦境から目を逸らし続けてきた結果なのかも知れない。だが、悲観するにはまだ早い。何故ならここに、かつて魔を退けた英雄がいるからだ!」

 

 王は声を張り上げる。

 

「現実を見据えるのは恐ろしい。だが、今度こそ、しっかりと目をそらさずに立ち向かおう。さすれば、お前たちは素晴らしいものを手にする事が出来るはずだ。背中を預け、助け合った仲間とは友情が。そして、道を切り開いてくれた上官には尊敬が生まれるだろう。何より、戦い抜いた汝らの心の中には、誇りが生まれるはずだ。共に戦おう!この国を皆の誇れる国にする為に!!」

 

 おおおおお――!!

 人々の心がひとつになった瞬間だった。

 

◇◇◇

 

「投石開始――!!」

 東門の尖塔から戦闘開始の合図と共に、城壁の上の歩廊にし付けられた投石器から、火のつけられた大石が一斉に放たれた。


 ドーン!ドーン!と雷が落ちるように、大石が魔物の群れの中に落ちては、ゴロゴロと魔物を押し潰し、転がる。石には油が塗られており、辺りに火の粉が舞えば、さらに勢いを増し、燃え広がった。

 

 しかし、どんなに押し潰されようと、魔物の群れは、東門の城壁の上、歩廊にいる魔王フェリベールを真っ直ぐに目指すのだ。

 すぐに王都の堀は魔物で埋まり、堀の仕掛けで息絶えた魔物の死体を足掛かりにし、城壁のすぐ下まで近付いていた。


「構えろ――!!」

 ディディエラの力強い合図に、門上方、歩廊の狭間から生徒たちが、身体を乗り出した。

「撃てぇ!!」

 

 乾きし空気よ、太陽を求め、更なる熱へと近付きたまえ。火よ!降り注げ!!


 魔術科の生徒たちにより、一斉に火球が下方向へと放たれた。城壁に折り重なるようにして、今、正に城壁を登らんとする魔物たちが、見る間に撃ち落とされていく。

 だがしかし、一時は治まった魔物の登壁も、すぐに勢いを取り戻す。魔物は、その死体を足掛かりに更に上を目指すのだ。


 更には、城壁の下に死体の山が築かれるにつれ、それをエサに、魔物は肥大化していく。

 それは、食物連鎖。小型のネズミの様な肉食魔物の魔素は、より大型の魔物に食われ、更に肥大化するのだ。

 

「魔術科、引け!!体術科、剣術科、出ろ!!」

 思ったよりも魔物の動きが速い。ディディエラは急ぎ次の指示を出した。

 魔術科の生徒の退路を作るように、未来の剣士や体術師が歩廊へと駆け出す。

 するとそこへ、城壁を超えた、1頭の大型の猫が飛び出し、学生らの列へと突っ込んで行った。

 

「きゃぁぁぁ――!!」

 

「子どもを守れ――!!」

 すぐに、長槍を持つ衛兵らが、生徒らの前に飛び出し、襲い来る大猫に立ち塞がった。しかし、大猫はまるで、ネズミでも見つけたかの様に、強烈な猫パンチで衛兵らを吹っ飛ばした。

 

 その隙にディディエラは生徒らを尖塔の方へと誘導し、火よ!!と、強烈な火球を連発。大猫を威嚇する。

 だが、動きの速い猫は、飛ぶように歩廊の上を逃げ回り、火球はかすりもしなかった。

 

「土よ、我が意思に従え。隔壁!!」

 その時、突然の魔法詠唱がディディエラを援護するように唱えられ、ドン!と歩廊が揺れた。

 そして、いきなり大猫の足元のレンガが一部分だけ盛り上がり、そのまま、大猫を城壁の外へと放り出した。

 

「ディディエラ!生徒らを中へ!」

 魔法を放ったアルビー王はそう叫ぶと、歩廊の端へと駆け寄り、再び城壁を登らんとする大猫へと目を移す。

「益々大きくなりおる……」

 大猫は魔素を吸い、体を変化させながら城壁の上を目指す魔物を足掛かりに、踏んずけては飛び移り、上へ上へと登ってくる。

 

 そして、とうとう壁を上りきると、城壁の上に再び顔を出し、歩廊へと飛び乗り……。

「炎よ、氷を纏いて(くう)を拒み、蒼き火となりて進め!――氷解!!」

 王の後ろから、ドゥン!!とアルスターの氷の塊が放たれ、大猫へと命中、バァン!と弾けた。


 ニギャァァ――!!

 散り散りになった灼熱の炎に焼かれ、大猫は悶える。

 

「「うおぉぉ!!」」

 派手に飛び散る火花に衛兵らは皆、頭を抱え、伏せた。

「アルスター!シャレにならねぇよ!!」

 古参の兵士が叫んだその時、空気が揺れ、息が詰まった……と。

 

「空気よ、熱をエサに膨れろ!!飽爆!!」

 ぼふっ!と空気が爆ぜ、火の粉が吹き飛ぶ。突然の風圧に兵らは皆、体制を維持できず、転がった。アルビー王ですら、城壁に縋り付き耐える。


「グレソン、てめぇ、何しやがる!!」

 喚くのは、いつぞやの学園の守衛だ。

「火は消えたろ?ほら、これ飲んでろ」

 グレソンは守衛に薬瓶を幾つか渡し、大猫へと駆け寄った。

 

 アルスターも大猫に飛びつき、その角を急いで叩き折り、トドメを指す。と、安全を確認した衛兵らが見事な編隊で、ズラリと歩廊に整列し始めた。狭間の前に綺麗に並んだ所で、構えの合図と共に弓が引かれる。

 

「撃てぇ――!!」

 歩廊より、一斉に矢の雨が放たれた。

 それは矢の雨となり、歩廊に近づく魔物を撃破していく。

 効果は絶大。魔物はその矢尻がかすっただけで、大きな魔物も、どうと倒れ始めた。

 

「これは……?」

 驚いた王の問いかけに、アルスターが答える。

「毒ですよ。専門家の助言により、ボ……某商会のアジトを制圧して参りました。この毒は押収品でございます。すいません、その為に出撃が少々遅れた事、お許し願いたい」

 アルスターの謝罪はディディエラに向けていた。アルスターも、生徒を危険に晒すつもりはなかったのだ。

 ディディエラが微笑み、頷いたその時、わぁぁぁ――!!と歩廊が湧いた。

 

 正門方向からフィン率いる騎士団が、北門からチャーリー率いる冒険者らが出撃し、魔物を取り囲むように、攻撃を始めたのだ。


「ルービーは大丈夫なのか!?」

 尖塔の上で魔素を吸収していた魔王フェリベールが心配そうな顔をして、慌てて駆け降りてきた。馬に跨がり駆ける騎士たちの、その先頭を走るフィンの横に、ルービーの銀髪が見えたからだ。

 

「問題ありませんよ。こちらには天使がいますから。彼女には先程、素晴らしい差し入れを貰いましてね」

 グレソンは魔王に大猫の角を渡しながら、守衛に渡したのと同じ薬瓶を振って見せた。

「うおっ!こりゃすげぇポーションだ!!」

 グレソンの後ろで、薬を飲んだ守衛が、シャキッと立ち上がった。

「ね?」

 

「なるほど。……ではそろそろ私も本気を出すとするか……」

 フェリベールはニヤリと笑うと、ローブの裾を腕まくりした。だが、グレソンは、魔王の角を見、それを片手で制する。

 

「待て、まだチャージ半分だろ?」

「半分?……何故分かる」

 フェリベールは訝しげにグレソンを見た。

「だって、そこ、メモリあるじゃん」

 グレソンは魔王の角を指さした。


 ミーアの浄化作用により、真っ白に浄化された魔王の角には、吸った魔素が黒く渦巻くように、その根元から蓄積されつつあった。

 

「おい、これはメモリではないぞ。年輪のようなものでな……」

「フェリベール!まだ魔法は打てんのか?……って、まだ半分か」

 駆け寄って来たアルビーも残念そうにそう言い、その目をまた、城壁の向こうへと向けた。

 

「お前まで……わしには見る事が出来んというのに……」

 呟くフェリベールもアルビーと並び、最も過酷な戦場へと目を向ける。

「小物を殺れば殺るほど、肥大化した魔物が出てくる。慎重にやれ……ルービー。結果を急ぐでないぞ」


 眼下にはまだ、数千匹の魔物が渦巻いていた。

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