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28話 ボンデッド

 日が登り猫に戻ったミーアは、檻の中で目を覚ました。そして馬車が止まった時に、すぐ近くで聞こえたハフハフに気が付くと、鉄格子の隙間を抜け、すぐさまそのふわふわの毛並みに飛びついた。

 マロン様は、ずっと馬車のそばを離れず着いてきてくれていたのだ。

 マロン様はすぐにまた走り出し、馬車を抜きさると、ルービー様達よりも先に、王都へと入っていた。

 

◇◇◇

 

「お!お前、帰って来たのか。その猫、グレソンのだろ?早く戻してやれ。あいつ、わざわざここまで探しに来たぞ」

 悠々と王都に入ってくるスタンリー家の2匹のペットに、門番は半笑いで話しかけた。ミーアが安心したからか、おまじないは解け、2匹は人に見えるようになっていた。

 

 しかしマロンは、門番には目もくれず、門へと近づいて来た冒険者風の壮年の男に、尻尾をブンブンと振りながら駆け寄っていった。

 

「マロン……」

 フードを目深に被ったその壮年の男は苦笑し、マロンの頭を撫で、懐から干し肉を出した。

「見つかったなら仕方ない。食うか?」

「ワフッ!」

 ギュンギュンギュン!

 しっぽの圧が凄い。壮年の男はそれでも、もったいぶって干し肉を、チラつかせた。

 

「そうか。なら、これをあげるから私の事は黙っといてくれ……いや、ちょうどいいな。ちょっと仕事を任されてくれないか?」

 壮年の男はそう言うと、マロンに肉を渡し、今にも馬を駆り、王都を出ようとしていた衛兵の元へと歩いて行くと、手紙を受け取り戻ってきた。

 

「マロン、これをテレサに渡して欲しい。恐らくそう遠くない所まで戻って来ているはずだ」

 そう言うと男は、肉をペロリと完食し、満足気なマロンのリボンにその手紙を括りつけた。

 

「この子猫は私が預かろう。私の元が安全な事はお前も知っているはずだ。ちゃんと守ってみせるから、安心して行っておいで」

 壮年の男は子猫を優しく抱え上げる。

「ワフッ!」

 マロンはそれを見、一声吠えると、王都の門を再び抜け、走り去った。

 

「さて、マロンの仕事が終わるまで、私とデートでもしないかい?子猫ちゃん」

 壮年の男はニコニコと笑いながら子猫をローブの中入れ、颯爽と馬に跨ると、人混みの中へと消えた。


◇◇◇


 ワァァァァァァ――!!


 アラッサはすり鉢状の円形闘技場だ。その観客収容人数は数万人。その満員状態の会場の中心へと、馬車は直接乗り入れていた。

 途端に、全方角からの歓声が場内に溢れ、ルービーとフェリベールは思わず耳を塞いだ。

 

 それは騎士たちも同じ様で、彼らは馬を大人しくさせるのに必死だった。

 騎士らは闘技場の構造を知らなかった。馬車は、裏方に止めるものだと思い込んでいたのだ。


『おお――っと!これは驚いた!!今日の対戦相手はなんと、今、1番ホットな魔術師、スタンリー・ルービーなのかぁ!?それとも、我が国の仇敵である……ん?ただのオッサンじゃ……魔王なのかあ!?』


 魔道拡声器によるアナウンスがながれ、騎士らが戦慄する。

「どういう事だっ!!」

 いち早く馬を落ち着かせた騎士が、馬車に乗るボンスリーに馬を寄せ、詰め寄った。

 

「おやおや、勘違いしちゃったようだな。三つ巴ってのもおもしれぇと思わねぇ?」

「すぐに馬車を戻せ!!」

「戻せだ?すぐそこに檻があるってのに今更戻せるか!!」


『――では、ここで、本日、アラッサが用意したグラディエーターを紹介しよう!!ブランデッセの連勝を止めたボンディの兄、ボンデッド、ボンデッドだァァァ――!!』

 再び流れたアナウンスに合わせて、バサリッと闘技場の一部を覆っていた幕が外された。

 そこに隠されてあった檻が、観客の前にその姿を現した。


 ワァァァ――!!

 ぎゃあああ――!!

 闘技場は歓声と悲鳴とが入り交じり、一瞬にして混乱状態となっていた。

 

「グァァァ――!!」

 ガチャガチャガチャ……!!

 

 ボンスリーの目指すその檻は、闘技場の一部を改装し、鉄格子をはめただけの、広い牢屋だった。ただそこには既に先客がおり、吠えながら鉄格子を揺らしていた。


「あれに入れるつもりなのか!?な、何だ、あの魔物は!!」

「魔物とは失礼だな。この子は俺の弟、ボンデッド。ちょっと特殊な環境で育ったから、大きくなっちまってるけど、うち自慢のグラディエーターだぜ」


「ウオ――ッ!!」

 ガチャガチャガチャ……!!

 

 鉄格子に体当たりするその巨体たるは、月海の森深くに住グリズリーなど足元にも及ばない。その背丈はゆうに二階建ての納屋を超えるだろう。元は人間であったのか、ちゃんと四肢はある。だが、ずんぐりと膨れ上がった手足は異様に育ち、太く長い。それに比べ、頭はそれほど膨れてはおらず、そのアンバランスさは異様に際立たっていた。

 

 鉄格子を殴り付け、叫ぶ様子に、騎士らは怯む。

 その隙にボンスリーは馬車進め、檻の前に馬車を止めた。すぐに馬を外し、騎士らを手招きするように、両手を広げた。

 

「さあ、魔王様と入れ替るか。今から試合だし、ちょうどいい!」

「入れ替えるだと!?」

 騎士らは馬上で剣を抜き、非常時に備える。

「そうだよ、お前たちは魔王様をここに入れたいんだろ?俺はボンデッドを放つから、そっちの檻の解錠を頼むわ」

「この状況でそんな事できるかっ!!」

「檻同士をもっとくっ付けてもいいんだぜ?ただし、そうすると、俺の弟が、ルービー様に粗相しちまう可能性があるな。さあ、みんなお待ちかねだ、開けるぞ!!」

「やめろぉぉぉぉ――!!」

 騎士の静止も虚しく、ボンデッドの檻は開けられた。


 ウオオォォオ――!!


 ボンデッドは放たれ、一番近くにある、チカラに向かって猛突進して行った。


◇◇◇


『おお――っと!!いきなり試合が始まったようだぁ――!!』

 そのアナウンスに、逃げ出そうとする観客は、足を止めた。

 

 ドシドシと不格好にルービーたちの入った檻へと駆け寄るボンデッド。

「氷床!!」

 ルービーは即座に地面へと氷を放った。氷はルービーの手を伝い、真っ直ぐにボンデッドに向かって地面を走った。

 

『さすが、我が国唯一の宮廷魔術師だっ!!素晴らしい!!いきなり、新しい魔法を放ってきたぁぁッ――!!』

 

 だが、ルービーの思っていた威力は出ない。ここは馬車の上。地面まで距離がありすぎたのだ。

 ボンデッドの足が一瞬凍るも、氷はすぐにバリバリと崩された。

 

「何をしている!今のうちに鍵を!風よ!!」

 フェリベールは騎士らに叫ぶと、ボンデッドへと風圧を飛ばし……奴の小さな頭に生えてある、なけなしの髪を揺らした。

 

『……え?』

「フェリベール!お前、魔力が……」

 ルービーと見ている者たちが呆気に取られる横で、氷床から足を外したボンデッドが、ルービーたちの入った檻に到達し、手をかけた。


 ブオオオオ――!!

『オッサンが危機だァァァ――!』


 檻が持ち上げられ、ルービーとフェリベールは揃って転がり鉄格子に嫌という程体をぶつけた。檻は片寄り、その重さにボンデッドはバランスを崩す。

 ルービーとフェリベールは今度は檻ごと地面へと叩きつけられた。


「ストーム!!」

 騎士が離れたのを確認したフェリベールが、呻きながらも、すかさず体勢を整え再び魔法を放つ。しかし、そのつむじ風は優しくボンデッドの鼻を掠めた。


 ブオオオオ――ックション!

『超ド級のくしゃみだァァァ!!……って、誰かあのオッサンを助けてやれ!』


「月より昇りし空気を孕んだ水よ、舞え!ブリザード!!」

 くしゃみをしながら立ち上がろうとするボンデッドに、ルービーが追い討ちをかける。

 ボンデッドの周りに、突如、吹雪が吹き荒れ、その姿は見えなくなるほどに、威力は増していった。


『おお――!これは寒い!!鼻水も凍る勢いです!!なんと、新たなる魔法の誕生!我々は正にその瞬間に立ち会っているのです!!』

 

「こら、そこの騎士。いいから鍵を寄越せ!」

 フェリベールは必死に近くの騎士に手を伸ばす。

 奇しくも、鉄格子を、開ける扉はボンデッドの前にある。そちらに回り込む事の出来ない騎士は、懐から鍵を出すも、躊躇っていた。

「これを渡せば、お前はまた、俺たちを襲うのか?」

「そんな事をして、私に何の得があると言うのだ?ちっとは考えんか!この馬鹿者が!!」


『吹雪が弱まったァァァ――!ルービーの魔力も、ここまでかァァァ!』

 ブオオオオ――!!

 

 ルービーの目は泳ぎ、肩で息をしている。立て続けに強力な魔法を打った反動だ。

 鼻につららを付け、怒り狂うボンデッドを見た騎士は、フェリベールに鍵を投げて寄越した。

「ルービー様を出せ!我々が拾う」

「頼んだ!!」

 

 フェリベールが鍵を握った途端、檻が再び持ち上げられ、グラグラと振り回された。

 右に左にと力なく転がるルービーに、フェリベールは飛びつくと、その頭を抱え守った。

 

『恐ろしいパワーだ!ボンデッドの攻撃に為す術はないのか!!お――っと、オッサンが身を挺してルービーに飛びついたァァァ――!』


 ガンガンと鉄格子に体を打ち付けられながら、フェリベールは魔法を放つ。

「太陽より降りし空気よ、水を孕みつむじ風を起こせ!サイクロン!!」 


 フェリベールの指の先、小さな雲が現れ、渦巻きながらムクムクと育ちボンデッドへと向かってゆく。

 それはボンデッドの頭の上に到達すると、ビリビリとした可愛い静電気をその髪に落とした。


 グァッ!!

『何だこの攻撃はァァァ!?オッサン、威力はないが、中々やるぞぉ!!』

 ボンデッドは頭を押さえ、呻いた。

 ガンッ!と再び檻は落とされる。

 

 ルービーを庇い、地面へとまともに叩きつけられたフェリベールは、それでもルービーを引き摺りながら這うように檻の扉へと進むと、その鍵穴に鍵を差し込み、扉を開けた。

 ボンデッドを恐れ、距離を置いていた騎士らだが、フェリベールのその行動に感化され、すぐにかけつけると、ルービーを外に引き出そうと手を伸ばす。

 

「急げ!奴が顔を上げたぞ!!」

 と、そこにボンデッドの大きな手が降りてきて……。

 

『オッサ――ン!!』

 ルービーを押し出したフェリベールは、ボンデッドの拳に叩き潰されていた。

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