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22話 ボンデ商会

 月海の森深く、ボンデ商会の特徴的な紋、黒字に黄緑色の幾何学模様の書かれた幌馬車が止まる。

 その荷台には大きな檻が乗せられており、ガチャガチャと馬車を揺るがすほど荒れ狂った、大きな獣が捕らえられていた。

 

「見つけたようだな。反応が強くなった……放つぞ!!」

「おらおら、行けよ!!」

 

 ガンガンと番いが蹴られ、荷馬車に乗せられた檻から1頭の獣が放たれる。ガルルと牙を剥く血まみれのそれは、確かに狼だ。

 だが、その獣の額には、折られてはいるが、真っ黒な角が生えており、体の大きく変化した獰猛に猛った魔獣だった。

 檻の中には、狼の死体が4つ。月海の森の奥、この場所に着くまでの間、狭い檻の中で互いを食い荒らし、生き残ったのは、この個体1頭だった。

 

 檻から出た魔獣は、目の色を変えジャラジャラと鎖を伸ばし、月海の森の、また更に奥へと一直線に向かう。

 だがすぐに伸び代はなくなり魔獣は鎖に引かれ転がった。それでもなお進もうと魔獣は地面を掻く。

 魔獣の目的はただ1つ。より強くなる事。

 故に魔獣はより魔力の強いモノの元へと引き寄せられる習性がある。それを利用し、ボンデ商会は今から狩りを始めようと言う訳だ。


「行くぞ!こっちだ!!」

 馬上でありながらも鎖を引き、器用に魔獣を操るのは糸目の傭兵だ。後ろには、各々が馬に乗り武装した2名の傭兵が続き、縄を放つと、その獣を二方向から固定する。そして、4人目の傭兵は、準備が出来たとばかりに、馬上でおもむろに上着を脱ぎ、体中に描いた昆虫の様な模様を晒し、前に出た。

「ボンディ!あまり前に出るな。魔獣避けも、興奮した魔獣には効かねぇ、食われるぞ!」

「ああ、兄者(あにじや)分かってるよ」

 ボンディは言うがいなや、魔獣の進む方へと馬を走らせる。

「いいか、見つけても殺すんじゃねぇぞ!」


 その時、森の奥からドン!という音と共に、白い煙が上がった。

「おうおう、派手にやってるな。お陰で探す手間が省けるってもんだ」

 糸目の傭兵はニヤリと笑うと、魔獣の鎖を緩め、白い煙の元へと走らせる。その行先にある強大な魔力こそ、ボンデ商会の狩りの対象だった。


◇◇◇


 ルービーが目を開けると、そこは見覚えのある部屋だった。蝋燭と暖炉の暖かい光。そして、そこいら中に散らばる沢山の本……。

「本が……更に増えたな」

 過去に戻ったようで、ルービーはほっと息を吐いた。


 身動ぎをしたルービーに気付き、目の前にひょこっと現れたのは懐かしい顔だ。白髪の交じった黒髪に、真っ黒な力のある眼差し。

「フェリベール……」

 ルービーの声に、男は本当に安心したように笑った。

 

「ルービー、体は起こせるか?」

 ルービーは肘を付き、体を起こした。船酔いをしたように頭はグラグラし、気分は最悪だった。

 頭に当てた自信の手は冷たく、腕は包帯だらけだった。

 

「夢じゃなかったんだな。俺は死に損なったようだ」

「またそんな事を……いいから、さあ、食え。傷は大方治せたが、失った血は戻らないからな」

 そう言い、フェリベールは木の器をルービーの顔の前に押し付けた。中身は流動食のようだ。

 ルービーは首を振る。

「食べたくない。それよりも話を。フェリベール、何故今まで姿を現さなかったんだ?」

 手で押しやろうとするも、器はビクともしない。


「食うまで話はナシだ」

「……」

 ルービーは器を受け取り、ドロっとした白湯の様な物を口に流し込んだ。


「いい子だ。ルービー。だが……なぜこんな無茶を。俺が止めなかったら、お前は魔物になってしまっていたぞ」

 空の器を受け取りながら、フェリベールがため息混じりに言った。

 ルービーは美亜の事を思い出し、下を向く。気を抜けば、また涙が流れてきそうだった。

 

「人を探していた……だが、見つからなかった。もう、生きる理由もない。だから……」

 フェリベールはルービーの頭を掻き混ぜた。

「もういい、分かった。ルービー、最初の質問に答えよう。私が何故姿を現さなかったか。……それはな、お前が素直すぎるからだ。……俺は恐ろしかった。お前が俺と出会ってしまえば、お前はまた人間どもの誤解を受け、殺されてしまうのではないかと……思ったんだよ」

 

 ルービーは呆気に取られ、顔をあげた。

「俺だって馬鹿じゃない。2度も同じ事はしない」

「だが、お前は再び俺に会いに来たじゃないか!お前が死んだと聞いた時の俺の気持ちが分かるか?もう二度とあんな事はゴメンだ!」

 フェリベールは頭を押さえ項垂れた。ルービーはなんだか申し訳なくて、謝った。

 

「悪かった……。でも、俺が死んだのはフェリベールのせいじゃないだろ?俺を裏切った国王のせいだ」

「その通りだな。ノースティアラ王国国王、レオンシオ。許しはしない」

 フェリベールは拳を握る。

「そうだった……最低な国王の名も忘れていたな。フッ、奇しくも俺は、別の世界でもノースティアラ王国という名の国に転生したようだ」

 そのルービーの皮肉めいた言葉に、フェリベールは首を振った。


「ルービー、同じ世界だ。ここはノースティアラ王国だぞ」

「同じ?いや、そんなはずは無い。この世界のノースティアラ王国はいい国だ……お前だって、知ってるはずだ、今まで同じ世界に転生した事などなかったと……まさか、時間が巻き戻ったのか?」

「いや、ルービー、逆だ。時間が経ったんだよ。そして、私は死んではいない。ここもあの時のままではないか。お前はフェリベールという魔王を倒す勇者として、また同じ世界に転生したんだよ」

 ルービーは一瞬惚けると、驚きに目を見開いた。


「そんな……フェリベール。有り得ない。あれから何年経ったと思ってるんだ!」

「忘れたか?ルービー。私は魔王だ、そのくらい生きてもおかしくないはない。今のノースティアラ国王はレオンシオの子孫だよ」

 そんな……と、頭を抱えるルービーに、フェリベールは微笑みかけた。

「……そうか、お前は知らなかったんだな……。ならば、聞かせねばならないな、この世界の歴史を。お前には必要な事だ。どこから話そうか……そうだな、この月海の森の事から……かつてサウスティアラ王国と呼ばれたこの場所の事から話そう」


◇◇◇


 サウスティアラ王国は小さいながらも、良質な金が採れる事から、黄金の国と言われる、かなり裕福な国だった。私はその国の、王家に仕える最も古き魔術師の家に生まれ、そして、その資質たるは世界一とも言われ、大魔術師として名を馳せるようになった。

 

 サウスティアラ王国は、近隣国に攻められることも多かった為、魔術師の活躍の場は多く、私の元には、魔術を極めたいという者たちが世界中から集まって来てな、私は皆に師と慕われるまでになっていた。

 

 その頃からだろう。次第に王国の近くにまで、魔物が現れる様になり、人々が襲われるようになった。同時にその隙を狙い、他国も攻めて来るようになり、我々は襲い来る他国と魔物、両方と戦わなくてはいけなかった。


 その頃の私は、サウスティアラ王国の国王となっておってな……。悲しい事に、国を守る為、かつての教え子たちを戦場へと送らねばならなくなっていた。

 

 我が国を最も執拗に攻めて来たのは近隣の大国ノースティアラ王国。かつて同盟国だった国だった。

 対して、我がサウスティアラの軍の小さい事よ。


 だが我が国には、私の叩き上げた最高の魔導師軍があり、魔物もノースティアラ王国も退け続けた。

 

 幾度、兵を送るも、退けられ続けたノースティアラ王国は、このままでは我が国を落とせない事を悟り、近隣国と同盟を結ぶと、更に軍を強固にし我が国を攻めてきた。

 我々がその変わり身に憎悪を募らせた時だった。

 変化は我が軍の中から起きていた。

 

 真っ先におかしくなったのは我が弟子たちだった。

 突如狂いだし、敵味方なく襲うその姿は、正に魔物。多くの犠牲者を出しながらも、その者らを取り押さえて見れば、皆、その額に黒い角が生えているではないか。

 そう、魔素を吸収し過ぎた事による、魔物化。

 人間もまた、魔物になるのだと、私はその時初めて知った。

 

 だが、知ったところで弟子たちの魔物化は止まるはずもなく、感化されるように、次々に我が軍の兵たちも魔物と化した。そして……。

 気がつけば、私も魔物となっていた。

 

 だが、不思議な事に私は、他の者のように魔物になりきれず、人としての意識を持ったままだった。恐らく国民を助けなければという強い意志が、意識を保つ手助けとなったのだろう。

 私はそれならばと、魔王を名乗り、敵を我が国に寄せ付けぬよう、他国に恐怖を植え付けるように威嚇した。

 魔物と成り果てた我が国の兵たちも、頭の片隅で私が王である事が分かっていたのか、魔物になりながらも、皆、私に従い、共に戦った。

 そして私は……我が国は、とうとうノースティアラ王国の国王を討ち取ったのだ。

 

 だが、その時には既に、国土は荒れ果てており、近隣国との国交も完全に断絶されたこの国に、未来などなかった。

 私はノースティアラ国王の息子に、我が国民と我が国の一部を預け、復興にあたり金鉱を使用する事を許可した。


 新たなる王は聡明だった。

 その後、ノースティアラ王国は栄え、今に至るという訳だ。


◇◇◇


「フェリベール……。貴方は国を守ったと言うのに、何故、ここにいるんだ?」

 長い話を聞き終えたルービーは、たった今、もの凄い話を語ったと言うのに、なんの感情も見せずに暖炉に薪を放り込むフェリベールに問うた。


「私か?ああ、私はな、魔物になってしまった、かつての教え子や臣下たちを連れ、この場所、ノウスティアラ城へと戻ったんだ。魔物になったとはいえ、皆、大切な私の国民。互いを傷つけぬよう、その額の角を折り、できる限りの浄化を試みながら、共にここで過ごしたんだよ。そして、皆を看取った後も、ここに住み続けた」

「そんな……。貴方は王なのに……!」

 ルービーは不満を隠せずを声を荒らげる。

 そんなルービーを見て、フェリベールはふっと目元を緩めた。


「ルービー、そんな顔をするな。平和な国に魔王など不要なんだよ」

 そして、何処か遠くを見るような目を、ルービーに向けた。

「サウスティアラ王国の象徴であるこの城は、廃墟となってしまった。国民は愚か、この国を示すものは歴史の闇に葬られ、何一つ残ってはいない。……だがな、ルービー、私はこの国の国王だ。魔王と成り果てても、この国を守りたいのだよ」

 

 そして立ち上がると、ルービーの前に膝まづいて真剣な顔で覗き込んできた。

「……いいか、ルービー。私が何故、今、お前にこの話をしたか……私の願いを聞いて欲しい。過去が繰り返されようとしているんだ。この国を助けてくれないか?」


 だが、ルービーはフェリベールから目を逸らし、下を向く。

「俺に……どうしろと?何も出来ない……何一つ出来ないんだよ、俺は」

 フェリベールはルービーの腕に手を乗せた。

「ルービー、魔物を寄せ付ける物を排除するんだ。私も魔物だ、魔力のあるものは、ある程度感知できる。王都には魔力が集まりすぎているんだよ。いいか、神殿と闘技場に何かがある。それを……」

 その時、部屋の扉が開けられ、赤毛の女の子が飛び込んで来た。

 

「フェリベール様!侵入者です!」

 フェリベールはため息を1つつくと、立ち上がる。

「ああ、分かっておる……ルービー、逃げろ。私たちが会っている所を見られる訳にはいかない。カミラ、裏口を!お前も一緒に行くんだ。ここは私が止める」

 

 赤毛の女の子は、すぐさまルービーの腕に手を回すと、立たせようと力を入れる。

「フェリベール。私も……」

 ルービーはどうにか体に喝を入れ、のろのろと立ち上がりながら、フェリベールを見た。

「ダメだ。……頼む、言う事を聞いてくれ。ルービー、私の言った事を忘れるな……行け!カミラを頼むぞ!」

 フェリベールは女の子が飛び込んできた方の扉へと進み、振り返らずに外へと飛び出した。

 

「ルービー様、こちらに!」

 女の子はルービーの腕を引き、本棚を目指すと、強く押す。そこに現れたのは隠された扉だ。

 ルービーは女の子に腕を引かれるがまま、扉を抜け、その先に見える薄暗い階段を降りて行ったのだった。

 

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