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18話 旅に出ます。探さないで下さい

 猫のミーアは、御屋敷のお庭の日当たりの良い石の上に座り欠伸をすると、のんびりと御屋敷の仕事を眺めていた。

 メイド達がとてつもなく長い竿に沢山の洗濯物を通している。それを真ん中で1人、支えるのは、立派な筋肉をお持ちの優しげなマッチョ様だ。

「チャーリー!上げて!」

 洗濯物を通し終えたのか、合図と共にチャーリー様は竿を、ふんっ!とリフティングすると、手を離しそびれたメイドと共に高い木の枝に固定した。

 ハタハタと洗濯物がはためき、ミーアは目を細める。

 

 遠い昔の事。ミーアはお洗濯が大好きだった。ポカポカのお日様と、渉様のあたたかい眼差し。とても幸せで優しい時間がそこにあった事を思い出した。

 

 はらりとミーアの大きな瞳から、雫が零れ落ちた時、その頬をペロリと舐められ、ミーアはピリリと、しっぽまで震えた。

 顔を上げれば、真っ黒なロン毛のわんこがハッハッとしっぽを振っている。その体はポニー程あり、お口はとても大きかった。

 

 猫にとって犬はイタズラをし合う仲。ミーアは背中を丸め身構える。

 でもその犬は、大人びた様子でミーアを見下ろすと、ふっと笑った気がした。

 

 何を悲しんでるかは知らねぇが、可愛い顔が台無しだぜ、ベイビー!!

 正にそんな感じ。

 

(慰めてくださったのですね!)

 ミーアは目を擦り、涙をふく。

 すると、わんこは垂れた耳をちょっと立て、ピクピクさせると……ハッと、身構えた。

 

「だれかぁ――?あたしの魔……わんこを知らないぃ――?マロンちゃぁぁぁん!!」

 遠くで男の人の声がする。見れば、わんこの首輪には長いロープが着いたままだ。逃亡中の身らしい。

 

「マロンちゃぁぁぁん!!」

 声が近付き、太陽の光を拡散する眩しい頭をお持ちのオネェ様が、身構えるマロンをロックオンした。そしてすぐさま素晴らしいフォームで走って来る。


「きゃぁぁぁぁ!!マロンちゃん!!その猫は食べちゃダメ――!!」

(お逃げ下さい!!マロン様!!)


 だが、遠くから土煙を上げ、走ってくるオネェ様を確認したマロン様は、ハフハフとこちらを期待に満ちた目でみていた。そう……。


 俺はもう少し自由を満喫してくるぜ。お前も行くかい?

 そんな感じ。


(お供させて頂きたいですわ!)

 ミーアは屈んで下さったマロン様の大きな背中に飛び乗ると、大きなリボンのついた首輪にしっかりと爪を立てる。


 行くぜ!!ベイビー!!


 真っ黒な魔……わんこは長い毛を、ふぁっさふぁっさとなびかせながら、走り出す。ミーアはしがみつき、そのスピードに身を任せた。

 ミーアは風になる。

(きゃあああ!!ステキです!!)

 

「マロンちゃぁぁ――んっ!!やめてぇぇぇ――!!グレソンに殺されるからぁぁぁぁ――!!」

 オネェ様の声を後ろに聞きながら、ミーアとマロンはスタンリー家のとてつもなく広いお庭を駆け抜けた。


◇◇◇


 しばらく走り周り、オネェ様をまいたミーアとマロンは、綺麗に整えられたトピアリーの木陰で休んでいた。

 

「テラ、どうした。こんな所に潜んでまで会いに来るなんて。何かあったのか?」

 人の声に、ミーアとマロンはコソコソと木の影に隠れた。

 

「ねえ、チャーリー。戻って来てくれないかしら?貴方がいないと寂しいの」

 まったりと色気のある声に、ミーアはヒゲを下げ、耳を押さえた。

 

「またその話か。言ったろ?俺ももう歳だ、余生を楽しみたいんだって。後釜はどうした。ちゃんと置いてったろ?」

「あんな、ただの筋肉バカ。昨日首にしてやったわ」


「おいおい、あいつはアラッサ闘技場一のグラディエーターなんだぜ。それを……。はぁ……しょうがねぇな、次が見つかるまでだぞ。グレソンに何て言ったらいいんだ……」

「大丈夫。そのグレソン坊やが喜ぶネタをプレゼントするから。知っての通り、うちは情報を漏らさないのが売り。それを漏らすのだから、破格の待遇よ」

「最初からそのつもりだったって事か。で?どうした」

 グレソンお兄様の名前が出てきて、ミーアは片耳をあげていた。

 

「昨日ね、王太子殿下がうちの店に来たの。下の子の方よ。彼は傭兵を雇っていったわ」

「アレン王子か、まだガキだと思っていたんだが……そうか、もう16だからな。で?その目的は教えてくれないのか?」

「目的ではなくて、標的よ。ルービー、お宅の坊ちゃんの排除ね。単なるヤキモチみたい」

「チッ!!ガキがっ!!」

 大きな声に、ミーアはビクリと跳ねた。

 

「雇ったのは、糸目のボンスリー。知っての通り、裏社会のボスだわ。今頃王宮は大慌てで奴を追っているでしょう。でも、表沙汰には出来ないはず。何せ、王太子の将来がかかってるんだから」

「そんな事言ってる場合か!!万が一、ルービー様が殺られる事があれば、この国は!!」

「そうね、サウスティアラ王国の二の舞。おしまいよ」

「歴史なんかにゃ興味ねぇ!!やばいぞ、これは……!!」

「歴史を忘れた国民の愚劣な行為ね。尻拭いは誰がやるのかしら?……と、言う事で、チャーリー、頼んだわね」

「おいっ!こら待て、テラ!!俺にどうしろと!?」

「グレソン坊やによろしくね――!!」

 

 女の人の声が遠ざかり、しばしチャーリー様は頭を抱えると、執務室とは逆のお屋敷へと入っていく。

 ミーアは、木陰に隠れたまま、聞いたばかりの恐ろしい話にブルブルと震えていた。

(大変ですわ!!ルービー様が標的に!!裏ボスはボスより強いのですのに!!)

 

 ミーアは、座敷わらし時代にお客様から仕入れた無駄な知識で、パニックになっていた。

(急いでルービー様に危機をお伝えしなくては!)

 しかし、ミーアは猫だ。森に行くことすら出来ない。

 

「ガウっ!」

 その時、マロン様が静かにミーアの背中に足を置いた。


 嬢ちゃん、任せろ。俺が何処へでも連れて行ってやるぜ!

 みたいな?


 その力強いハフハフに、ミーアは落ち着きを取り戻す。

(私も何かお役に立ちたいのです!マロン様、ぜひお願いしたいのですが、ちょっと待ってて下さいませんか?すぐに戻ってきますわ!)

 

 ミーアは急いでお兄様の執務室に走る。

 ありがたい事に、部屋の扉は開けてくれているようで、するりと中に入ると、執務室の真ん中に置かれた応接用のテーブルの上に飛び乗った。

 見れば、執務机ではお兄様が連日の激執務で寝落ちしているし、隣のソファには、フィン様も丸くなって眠っている。

 ミーアは2人を起こすのがしのびなくて、近くにあるインクの瓶にちょっとだけ爪をつけると、そこに広げてあった紙にお手紙を書く事にした。


 何やら沢山の文字がぐるぐると書かれてある古びたしい紙だ。隙間をみつけ、ちょっと練習して上手になったであろう文字を綴った。


(えっと……探さないで。少し旅に行くから、と)

『ポン!ポイントマイナス1000!』

(あら?女神様が壊れてしまいましたわ!!)

 そのポイント消費量に驚くも、ミーアにゆっくり考えている暇はない。

 

 執務室から出るとマロン様の元に急ぎ戻り、その背中によじ登る。

 日陰でくつろいでいたマロン様は、のっそりと立ち上がると、少しフルルと体を揺らした。


 しっかり捕まったかい?飛ばすぜ!!ベイビー!!


 と、ものすごい速さで駆け出し地面を蹴ると、スタンリー家の高い外塀もなんのその。近くの木をバネに、トントントンと乗り越え、見事、塀の向こうへと着地した。

(凄いですわ!マロン様!!)


 目指すはルービー様のいる、森……でしたっけ?

(森ってどちらかしら?)

 ミーアの疑問に答えるように、マロン様は真っ直ぐに何処かを目指し走っている。

 街の人々はなにやら悲鳴をあげ、道を空けてくれた。

(マロン様。頼りがいのあるお方!!)

 

 ミーアはマロン様の背に乗り、風のように街中を駆け抜けた。


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